[要旨]
かつて、セブンイレブンでは、アイスクリームを低価格で販売していたところ、品質も下げることになり、ますます顧客から支持されなくなりました。そこで、この悪循環を断ち切ろうと考えた鈴木敏文さんは、顧客の動向から、顧客は高品質のアイスクリームを求めているということを見抜き、新商品を開発したところ、売上が増加に転じるようになりました。
[本文]
今回も、前回に引き続き、鈴木敏文さんのご著書、「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。セブンイレブンでは、2020年度に、アイスクリームの年間売上高が、過去最高になったそうです。しかし、かつて、アイスクリームの売上は減少傾向にあったそうです。これに対して、鈴木さんは、アイスクリームで顧客体験価値を創り出すことができると考え、新商品を開発してから、売上が増加に転じたそうです。
「(2004年)当時、アイスクリーム業界の売上高が減少するなかでも、店頭でのミクロの個別の商品の動きを見ると、価格の高いブランドものの販売は伸びている現象が見られました。また、洋生菓子系のデザートは味もおいしく、品質のよいものがどんどん出ていました。この動きをどうとらえるかです。メーカーでは、『ブランド商品は別の世界』と考えて片づけてしまう見方が一般的でした。それは、『アイスクリームは主に子どもが買うものだから』という過去の経験から離れられなかったからです。
これに対し、セブン-イレブンでは、『アイスクリームは、いまでは、大人が年間をとおして生活に楽しみを持たせる商品になっている』、『100円前後の商品では、大人は満足しない』と考え、『アイスクリームについても、多少、高価格であっても、高品質のものをお客様は求めている』と位置付けました。つまり、アイスクリームは大人の消費者にとって、体験価値の対象になっていた。こうして、ミクロの動きをマクロのトレンドに結びづけ、セブン-イレブンで、『上質さ』を追求する路線へと、舵を切りました。
その結果、猛暑でアイスクリーム・氷菓が全国的に飛ぶように売れた2004年夏、セブン-イレブンの売れ筋のトップ10位のうち、1位から7位までと、9位の計8品を、高級路線のオリジナル商品が占めるようになったのです。この動きに追随するように、アイスクリーム業界でも、2008年ごろから、主力商品について価格を下げて品質を高める路線に転じた結果、消費者が戻り始め、売上は前年増を続け、衰退産業から、一転、成長産業に変身したのです。
木を見て森を見、森を見て木を見る。ミクロの向こうにマクロを見、マクロからミクロに落とし込んでいく。ミクロの向こうにマクロのトレンドを見るには、『この現象は何を意味するのか』とクエスチョンを発し、『これはこういうことではないか』と仮説を立てることです。一度、仮説を立てると、それを検証する情報が次々とフックにかかり、次第に確信になり、一歩先の未来の可能性を迷わず判断できるようになります」(196ページ)
よく、「ことにあたっては、『虫の目、鳥の目』を持つことが大切」と言われますが、鈴木さんは、それを実践して成功したのでしょう。ただ、普段の事業活動では、目先のことに目をとらわれがちになり、なかなか、自分のいる経営環境を俯瞰できないという現実もあるでしょう。
だから、ミクロとマクロの両方を意識することが重要ということです。もうひとつ重要なことは、価格競争から品質の競争に転じることができるかどうかということです。鈴木さんは、別のところで指摘していますが、かつてのアイスクリーム業界は、価格競争のために商品の品質を下げ、そのことが却って顧客が離れる原因になるという、悪循環に陥っていたそうです。
とはいえ、品質での競争も、口でいうほど優しいことではありません。しかも、効果が現れるまでに時間と費用を要します。したがって、経営資源の多い会社でなければ、品質での競争は難しいということも現実でしょう。このような中で、中小企業はどのような競争戦略が妥当なのかといえば、少なくとも長期的な視点を持つことが重要であり、成行的な活動だけでは、ますます競争に敗れていくことになるでしょう。
2022/11/13 No.2160