鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

陳列方法で冷凍食品の売上が5倍に

[要旨]

セブンイレブンでは、「コト」を買いたいという消費者のニーズに、より深く対応するために、商品の品ぞろえや、その陳列の方法を、商圏の特性に合わせて実践しています。このような、品揃えや陳列も、顧客体験価値を実現する手法になりますが、そのような手法を実践できるようにするためのスキルを、従業員の方に身に付けてもらえるようにすることが、経営者の方の重要な役割になっていると考えることができます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、鈴木敏文さんのご著書、「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。セブンイレブンでは、「コト」を買いたいという消費者のニーズに対応した、プライベートブランド商品を開発しましたが、店舗づくりでも、「コト」を買いたいニーズに応じるための探究をしているようです。「モノ発想ではなく、コト発想で考えたとき、どんな店づくりができるのかという実証実験を開始したのが、川崎登戸駅前店でした。チームのメンバーは、商圏の特性を把握することから始めました。

商圏には女性が多いことや、高齢化により団塊世代以上が多いことなども判明しました。また、登戸駅の1日の乗降客数が20万人を数えながら、駅前に大手居酒屋チェーンは1軒しかありませんでした。そこで、いわゆる、『女子会』のニーズが高いのではないか、『家飲み』の需要も高いのではないかと仮説を立て、女子会や家飲みというコト的なニーズに対応する売り場づくりに挑戦しました。お客様の行動を予測をし、どんな体験を望むのかを予想して、仮説を立て、売り場づくりの実験を開始したのです。

品揃えでは、女性が好む、フルーツ系のリキュールを大幅に増やし、お酒コーナーの周辺には、従来のような珍味や豆菓子だけでなく、チーズ、生ハム、ピクルス、レバーペイスト、クラッカー、ドライフルーツなどを並べて、酒類と一緒に目に入るように陳列し、『お酒のある楽しい食卓』をイメージしてもらえるような、家飲みエリアを設けました。また、セブンイレブンのデリカ惣菜(モノ)について、なぜ売れているのか、お客様にとってのコト的な理由を探ったところ、『個食』、『小分けにできる』、『保存が効く』といった要因が浮かび上がりました。

そこで、共通した要因を持つチルド惣菜と冷凍食品が同時に目に入る場所に陳列し、展開したところ、冷凍食品は、セブン-イレブン全体の平均の5倍の売上を記録するまでになりました。同じように、フリーズドライの味噌汁やスープ類も並列して並べると、1日500円程度だった売上が、3,000円に変化しました。お客様が望む体験を予想するコト発想が、地域のお客様に、家飲みの楽しさや、家事の時間短縮といった、新たなコト的な需要を生み出し、売上アップに大きく貢献したのです」(47ページ)

伝統的な商品陳列は、飲み物、菓子、惣菜などのカテゴリーごとに行いますが、引用したセブンイレブンの事例のように、需要に応じて異なるカテゴリーの商品を1か所に陳列を行うことを、スクランブルドマーチャンダイジングといい、広く知られている方法です。例えば、2006年に公開された映画の「県庁の星」では、主人公の県庁職員が出向したスーパーマーケットで、弁当の売上を増やすために、若手サラリーマンを標的として、弁当といっしょに、酒、つまみ類などを、入り口に近いところにまとめて陳列するシーンが描かれています。

話を戻して、商品の陳列は、コト消費に関する売り手からの提案でもあり、それが奏功すれば、引用した事例のように、売上増加につながります。とはいえ、どのような商品をどのように陳列することが妥当であるかということは、簡単には把握できないでしょう。そこで、大切なことは、店ごとに陳列に関する権限を委譲したり、店員の方たちに教育やモチベーションの向上を図ったりすることが大切になってきます。このように考えると、コト消費である顧客体験価値の創出とは、単に、モノを売る活動と捉えるのではなく、適切な販売方法の仕組みをつくる活動といえるでしょう。そして、そのような仕組みづくりを、より精度の高いものとすることができるかどうかが、競争力の差であり、経営者の能力の問われるところだと思います。

2022/11/5 No.2152