鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客数を増やすには特定の人だけ対象に

[要旨]

ラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、山梨県甲府市の和菓子店の松林軒では、夏になるとこだわりのかき氷を提供し、人気商品になっていますが、かつては、価格は600円程度だったところ、現在は、1,200円くらいにしているそうです。その結果、騒がしい賑やかな子どものお客さんはすごく減って落ち着いた大人のお客さんが増え、よい雰囲気を提供できるようになったということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、一見客は流れる水道水のようなフローであり、自社(または自社商品)への忠誠度が高い顧客はバスタブの中の水のようなストックに例えることができますが、忠誠度の高い顧客を増やして行けば、経営環境が変化しても、自社の売上が安定するということについて説明しました。

これに続いて、小阪さんは、顧客を増やすためには、顧客を捨てることだということについて述べておられます。「顧客を増やすためにはまず、『あなたにとっての顧客とは誰』を定義する必要があります。いわば、『あなただけの顧客を生む』ということです。そして、『あなただけの顧客を生む』ためにます、すベきことは『客を捨てる』ことです。『客を捨てたら、“顧客”を生むことなんてできないじゃないか』そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。

でも『客を捨てる』ことこそが、あなただけの『顧客』を生む第一歩です。では、『客を捨てる』とはどういうことなのか。山梨県甲府市の和菓子店・松林軒では、夏になるとこだわりのかき氷を提供しており、今やすっかり定着して人気商品に。それについて、店主の鈴木さんはこんなことを言っていました。『以前はかき氷の値段を600円~850円くらいにしていたのですが、今は価値を高め、1,200円が基本。いろいろトッピングをすると1,900円くらいになりますが、そうするお客さんは多いですね。

こういう価格帯になったところ、騒がしい賑やかな子どものお客さんはすごく減って落ち着いた大人のお客さんが増えました。うちの店としてはいい感しになっています』これが『客を捨てる』ということです。誤解のないように言い添えておきますが、これは鈴木さんが、『騒がしい賑やかな子どものお客さん』を疎ましく思い、来ないように企てたのではありません。そもそも、松林軒は併設のカフェに絵本を用意するなど、今でも家族連れを大事にしています。

『客を捨てる』とは、そういうことでなく、“すベてのお客さんを対象にはしない”ということ。すベてのお客さんに評価されようとか、好かれようとは考えないということです。鈴木さんの場合は、『落ち着いた大人のお客さん』やそういう方のご家族に来ていただきたい。だから、それ以外のお客さんにあまり支持されない店になったとしても、そこは追わないということです。そういう意味で、自分たちが『ここ』と思ったお客さん以外は捨てているということです。

多くの会社やお店では、『買ってくれるすベての人』を『客』として対象にしています。もちろんそういうビジネスもあっていいのですが、『顧客数』を見て営むビジネスはそうではありません。ある『特定の人』だけを対象にするのです。そう言うとよく『ニッチマーケティング』と間違われるのですが、ニッチを狙っていくのでもありません。私はよく『特定多数』という言葉を使いますが、『特定』の『多数』を対象にするのです」(116ページ)

顧客を捨てるという事例で私が最初に思い出す事例は、スターバックスコーヒーです。同社は、業種としてはコーヒー店ですが、サードプレースを提供するというコンセプトで事業展開していることで知られています。そのため、コーヒーの価格も他社と比較して高くなっていますが、さらに、あえて、注文を受けてからコーヒーを提供するまで時間をかけることで、短時間だけ利用したいという顧客を「捨てる」ようにしているようです。

さらに、スターバックスコーヒージャパンの元CEOの岩田松雄さんは、ご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」で、次のように述べておられます。「スターバックスの社長時代、本当にお店のパートナーの皆さんの優秀さと、思いやりあふれた行動に、何度も驚かされていました。『悪人が入っても、善人になって出ていく』と、本気で言われるほど、お店のカルチャーは素晴らしいと思いました。(中略)

リッツ・カールトンの高野元社長に教えていただいたことですが、『コーヒーショップのお店が混んでいて、目の前の積に自分の荷物を置いていて、他のお客様が来ても、普通のコーヒーショップなら、知らない顔をしている人が多いのに、スターバックスのお店では、サッと荷物をどけてくれる』そうです。つまり、スターバックスのお店では、お客様も素敵なのです。そういえば、お客様の使用されているコンピューターは、アップルのコンピューターの比率がとても高いように感じます」(227ページ)

すなわち、松林軒もスターバックスコーヒーも、商品そのものよりも、かき氷やコーヒーを心地よく食べたり飲んだりする体験(顧客体験価値、CX)を顧客に提供していると言えるでしょう。そうであれば、CXの提供に協力してくれる顧客を店が選ぶことになります。したがって、「客を捨てる」ということは、自社が提供しようとするCXに協力してくれる顧客だけと取引するということであり、そのことは、自社の事業が提供する価値を高めるということです。繰り返しになりますが、自社の事業に協力してくれる顧客を選ばなければ、自社の事業は成功しない時代になっているという認識がこれからは重要になると私は考えています。

2025/9/15 No.3197