鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

相手を変えれば付加価値を感じてくれる

[要旨]

ラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、新潟県第三セクターえちごトキめき鉄道では、国鉄時代の電車を夜行運転する企画を行っているそうですが、鉄道ファンや昔の夜行列車を懐かしむ人たちに人気があり、チケットはすぐに完売するそうです。このように、従来と同じことをしているにもかかわらず、新たな需要を見つけることで、新たな価値を提供することができるようになるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、甲府市の和菓子店の松林軒では、夏になるとこだわりのかき氷を提供し、人気商品になっていますが、かつては、価格は600円程度だったところ、現在は、1,200円くらいにしており、価格を変えてからは、騒がしい賑やかな子どもの顧客は減り、落ち着いた大人の顧客が増え、よい雰囲気も提供できるようになったということについて説明しました。

これに続いて、小阪さんは、付加価値を高めたえちごトキめき鉄道の事例を紹介しておられます。「新潟県えちごトキめき鉄道は『夜行列車』を走らせています。こう言た瞬間に『え?』と思った人は、地元の方か、鉄道についてそれなりに詳しい方でしょう。えちごトキめき鉄道は、北陸新幹線の開通により民営化された旧JRJの路線で、いわゆる並行在来線と呼ばれるものです。そのうち新潟県を走るのがえちごトキめき鉄道で、全長は2路線合わせても100キ口弱。まざに『え、夜行列車?』という話です。そんな短い路線でどうやって夜行列車を走らせるのかというと、同じところを往復したり、途中駅での停車時間を延ばしたりすることで、なんとか朝から晩まで走らせるそうです。

つまり、この夜行列車の実用価値はゼ口。にもかかわらず、大人気です。チケットは発売と同時にほほ売り切れ。しかも、鉄道オタクだけではなく利用者は老若男女問わず多岐にわたるといいます。ご存じの通り、かつては日本の津々浦々を夜行列車が走っていました。しかし、今では夜行列車自体がほとんど存在していません。その意味で、夜行列車は高齡者には懐かしく若い人には新鮮な存在なのでしょう。実際、日本でまだ運行している数少ない夜行列車の一つであるサンライズ瀬戸・出雲は、その豪華な設備もあり、なかなかチケットの取れない人気列車になっています。

もっとも、えちごトキめき鉄道の夜行列車はそうした人気列車とはまったく違います。何しろ、車両は国鉄からの払い下げの年代物。寝台車でなく普通の車両。それが、同じ区間を何度も往復するだけです。つまり、この夜行列車を走らせるにあたり、新しいものは何も加えてはいない。それでも『昭和の座席夜行体験』が十分に『付加価値』となるのです。新しいものをつけ加えなくても、お客さんがそれを『価値』だと認識してくれれば、そこに付加価値は生まれる。その典型的な一例が、えちごトキめき鉄道の『夜行列車』だと言えるでしょう」(137ページ)

鉄道の本来の役割は乗客を運ぶことです。しかし、現在は、えちごトキめき鉄道のように、夜中に走る古い車両に乗りたいという需要が発生し、同社は、単に夜に電車を走らせるという、従来と同じことをしているのに、新しい需要に応えることになったわけです。これに似た事例として、東能代駅秋田県能代市)と川部駅青森県南津軽郡田舎館村)を結ぶ、東日本旅客鉄道五能線を走る、「リゾートしらかみのサービス徐行」があります。リゾートしらかみは観光列車ですが、景色のよいところであえて徐行し、乗客をよろこばせており、この列車のチケットは入手が難しいというくらい人気のようです。

2つの事例とも、運輸業から観光業にドメインチェンジをしているわけですが、ポイントは、小阪さんがご指摘しておられるように、提供するものは従来と同じということです。すなわち、どういう需要に応えるかを従来と変えただけです。繰り返しになりますが、提供する商品は同じでも、その商品の価値を感じる相手が従来と異なるところにいることがわかれば、新たな価値として提供できるわけです。もし、自社商品がなかなか売れないと感じている経営者の方は、ドメインチェンジによって新たな需要に応えることができないか検討することで、現状を打開する手がかりを見つけることができるかもしれないと私は考えています。

2025/9/16 No.3198