鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

付加価値はニーズが源泉である

[要旨]

経営コンサルタントの田尻望さんによれば、高級レストランなどで、料理の素材や調理法について、スタッフが丁寧に説明してくれることがありますが、お祝いの席などではそのようなサービスはよろこばれるものの、顧客が商談中のときに話に割って入って説明をしても、邪魔と思われてしまいます。このように、同じサービスであっても、顧客のニーズがあるかないかで、それが付加価値になったりムダになったりします。


[本文]

今回も、経営コンサルタントの田尻望さんのご著書、「付加価値のつくりかた-キーエンス出身の著者が仕事の悩みをすべて解決する『付加価値のノウハウ』を体系化」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、田尻さんによれば、「価値」とは「顧客が感じるもの」なのですが、売り手が感じる価値のある商品は売れると考え、それを製造・販売して失敗してしまう会社は少なくないことから、「価値」とは何かを理解したり、「なぜ顧客は自社の商品を買うのか」を探究したりすることが大切ということについて説明しました。これに続いて、田尻さんは、「付加価値はニーズが源泉である」と定義し、それを、高級レストランの例でご説明しておられます。

「第1章で、『付加価値』の定義を、『付加価値は、ニーズが源泉である』と明記しました。(中略)ここでも、わかりやすい事例を挙げて説明しましょう。高級レストランや料亭などで、料理の素材や調理法について、スタッフが丁寧に説明してくれることがあります。こうした説明は、ゆったりとした雰囲気のお祝いの席であれば、品格も感じられて、なかなか風流でいいなと思います。また、有名店の名物料理を目当てに来たのであれば、お客様も料理の内容について詳しく知りたいはずなので、ありがたい、うれしいと思うでしょう。

しかし、何か込み入った話をしている最中、例えば、真剣に商談をしているとき、親しい友達同士が面白い話で盛り上がっているときだったらどうでしょう?突然、『失礼します』と、お店の人が入ってきて、途中で話をさえぎられた上に、料理の説明を長々とされたら……。『いやぁ、せっかくですが、はっきり言ってちょっとうっとうしいなぁ……』と感じるのではないでしょうか?どちらも『料理の詳しい説明』という同じ行為です。にもかかわらず、なぜ、前者では『うれしい』と思われ、後者では、『邪魔だ』と思われるのでしょうか?

前者では、料理の説明がお客様のニーズに適っている、付加価値のある行為なのに対し、後者はお客様のニーズに適っていないため。付加価値のない、ムダなサービスになってしまっているからです。どんな場合でも、相手のニーズがある部分に対して、きちんとしたサービスを提供したときに、初めてそこに付加価値が生まれます。すべて、一律に、マニュアル通りに話をしても、そこに相手のニーズがなければ、その説明は、すべて無駄になってしまうのです」(56ページ)

田尻さんがご説明しておられるように、顧客のニーズがない商品やサービスを提供しようとしても、それは顧客から見れば価値を感じないので、「付加価値」にはならないということは、ほとんどの方がご理解されると思います。ところが、実際には、ニーズを持っていない顧客に自社商品を売ろうとすることをしている会社は少なくないようです。

これは、顧客のニーズを把握するスキルが少なかったり、そのことによって、顧客のニーズを把握するための活動をしようとしないことが原因のようです。その結果、売る側の価値観で商品を販売することになる、すなわち、「魚のいないところで釣りをする」状態になってしまうようです。では、どのようにすれば、顧客のニーズに適した商品を販売できるようになるのかというと、それには様々な例がありますが、私はスターバックスコーヒーの例を思い浮かべます。

スターバックスは、サードプレイスを提供することをミッションとしているので、静かに過ごせる空間が提供できるよう、顧客を選んでいます。具体的には、注文を受けてから、商品を提供するまで、あえて時間をかけているようです。これは、顧客にできたてで質の高い商品を提供するという目的にも適っていますが、同時に、短時間で慌ただしくコーヒーを飲んで帰りたいというビジネスパーソンからみれば、利用されにくい店にしているという面もあります。

その結果、スターバックスには、時間にゆとりのある顧客だけが利用するようになり、サードプレイスとしての空間が実現していると言えます。こうすることによって、同社では、「安くておいしいコーヒー」を提供する店との違いを明確化し、付加価値の高い商品を積極的に購入する顧客を集めています。したがって、付加価値を実現するということは、自社商品のニーズを求めている顧客を探して販売する活動であるとも言えるでしょう。

2024/2/5 No.2609