鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

現場は『潜在ニーズの宝庫』である

[要旨]

経営コンサルタントの田尻望さんによれば、顧客からの聞き取りからは、顕在ニーズを把握することはできるものの、潜在ニーズまでは把握することができないため、それを把握するためには、顧客の事業活動の現場まで行く必要があるということです。そして、潜在ニーズを満たす提案ができれば、付加価値を高めると同時に、自社製品の競争力も高めることができるということです。


[本文]

今回も、経営コンサルタントの田尻望さんのご著書、「付加価値のつくりかた-キーエンス出身の著者が仕事の悩みをすべて解決する『付加価値のノウハウ』を体系化」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、ニーズには顕在ニーズと潜在ニーズがあり、顕在ニーズとは、顧客が自分で明確に意識しているニーズで、一方、潜在ニーズは、普段は意識していないけれど、他人からの質問や体験をきっかけに、「実は欲しかった」などと感じるニーズということを説明しました。

これに続いて、田尻さんは、高い付加価値率を実現しているキーエンスでは、顧客の潜在ニーズを探ることに注力しているということについて述べておられます。「次に、ビジネスの場に目を向けて、潜在ニーズについて考えてみましょう。例えば、『全社員にタブレットを導入したい』という会社があるとします。その場合、『タブレットを導入したい』というのは表層的なニーズ、つまり、その会社の顕在ニーズです。『なぜ、タブレットを導入したいのか?』という本質的な部分が重要です。そこを追求していくと、その会社の潜在ニーズが明らかになってきます。

潜在ニーズは、実際にタブレットを使うシーン=現場に存在することが多いので、あなたがタブレットの導入をサポートする会社の営業であれば、まず、タブレットを実際に使っている現場を見に行く必要があります。現場に足を運んでよく調べてみれば、実はお客様自身でも気づいていない問題や課題がたくさんあります。お客様が『もっと現場の生産性を上げたいんだよ』と言った場合、キーエンスであれば、『実際に現場を見せてもらっていいですか?』と言って、セールス担当者は、まず、現場に足を運びます。

潜在ニーズは、お客様との会話だけでは探り当てられないことがほとんどです。現場を調査・観察して、初めて潜在ニーズが見えてくるのです。お客様の顕在ニーズしかわかっていない場合は、競合他社が提供する製品・サービスとの差別化が難しくなります。しかし、他社に先駆けて、いち早くお客様の潜在ニーズがわかれば、他社製品・サービスの差別化ができます。顧客の潜在ニーズを的確に捉えられたら、企業として、これほど強みになることはありません。『付加価値の提供』と『差別化』を同時に達成できるからです」(71ページ)

田尻さんがご説明しておられるように、顧客の事業活動の現場を見て潜在ニーズを把握し、その解決方法を提案するという手法は、いわゆる「ソリューション営業」と言えるでしょう。これを実践できれば、「『付加価値の提供』と『差別化』を同時に達成」する、すなわち、競争力を高め、利益を増やすことができます。このような手法は、すでに多くの会社が実践していますが、その代表例は、小松製作所のコムトラックスです。同社では、「最新のICTを活用し、土木や鉱山など、お客さまの現場施工データを収集・分析し、『見える化』することで、お客さまの現場の課題に対する解決策を提供」しています。

例えば、「建設機械については、作業機の自動制御を実現したICTブルドーザー、および、ICT油圧ショベルを市場導入」し、「オペレーターの経験を問わず、熟練者のような高い精度の工事を可能」にすることで、「丁張りや検測などの工程を大幅に削減して工期短縮に大きく貢献」しています。したがって、同社製品のユーザーは、建設機械を購入するというよりは、工期短縮のソリューションを購入していると考えられるでしょう。田尻さんは、付加価値を高めるという観点からソリューション営業に言及しておられますが、私は、「モノ」での競争力強化の余地が少なくなっていく現在は、必然的に、「コト」、すなわち、ソリューションでの競争力強化がを進めざるを得ない時代になっていると考えています。

2024/2/7 No.2611