鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

水道水ではなくバスタブの中の水を…

[要旨]

ラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、一見客は流れる水道水のようなフローであり、自社(または自社商品)への忠誠度が高い顧客はバスタブの中の水のようなストックに例えることができますが、忠誠度の高い顧客を増やして行けば、経営環境が変化しても、自社の売上が安定するということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、東京都中央区にあるジビエ料理店の「あまからくまから」では、熊料理について、「伝説の猟師独自の門外不出の熟成技術で2週間じっくり吊るしてから入荷」などの説明を添えるような取り組みを行った結果、顧客が共鳴価値を感じるようになり、客単価が5,000円から1万2,000円に増加したということについて説明しました。

これに続いて、小阪さんは、「顧客数とは『水の入ったバスタブの大きさ』」であるということについて述べておられます。「顧客数の重要性を表現する際、私は『フロー』と『ストック』という概念を使います。水道から出ている水が『フロー』であり、それをバスタプに貯めたものが『ストック』だと考えてください。通常時なら、水道の水はいくらでも使うことができます。しかし、なんらかの理由で水道が止まってしまったら、どうなるでしょうか。

水道だけに頼っていた人は、水を飲むことも身体を洗うこともトイレを流すことも、何もできなくなってしまいます。一方、バスタプに水を貯めておけば、その水でしばらくはやり過ごすことができます。一見客だけに頼るビジネスはまさに『水道の水』と同じです。水道が機能しているうちはいいのですが、水が止まってしまうと、ビジネス自体が立ちいかなくなってしまいます。

だからこそ、水道の水をストックとしてパスタプに貯めておくべきなのです。(バーの)キースはまさに、コロナで『水道の水が止まってしまった』状態になりました。しかし、顧客というストックを貯めていたからこそ、すぐにでも案内を出すことができました。もし顧客というストックがなければ、いつ終わるともわからないコロナ禍の中、何もできずにじりじりするばかりだったでしょう。

72ページに、ビューティーケアつかもとの業績の推移の図を載せましたが、2020年の数字をもう一度ご覧いただければと思います。前年を4%ほど下回っていますが、この年はコロナの真っ只中。しかも、世界中の人がおびえ、外出は自粛されていた時期です。同じ年、全国の百貨店での化粧品売り場では売上が80%落ちた月もありました。つまり、そんな中でも『たった4%』しか落ちなかったのです。

では、なぜビューティーケアつかもとの売上は4%しか落ちなかったのでしょうか。それは、顧客をストックしていたからです。キース同様、顧客に対して早々に働きかけることができたのです。一例を挙げれば、配送や発送のご案内。配送・発送は従来から行っていましたが、この時期に気軽に使ってもらえるよう、公式LINEアカウントを設置。外出を控えている顧客に、『送れますよ!』とPRしました。

また、『コロナ見舞い』として、当時入手困難だったマスク5枚とハンドクリームのサンプルなどをセットに、顧客を気づかう内容の手紙を送付。これに対する反応はすさまじく電話やファックス、LINEなどでたくさんの感謝のメッセージが届いたそうです。さらに、来店する顧客向けには、椅子席を減らすなど通常の感染対策を講じるだけでなく、顧客との間を隔てるシートにシールを貼り、楽しさ・可愛さを演出。

さらに、たくさんのお菓子を用意するなど、少しでも心なごむ楽しいひとときを過ごしてもらえるよう、趣向を凝らしました。こうした一連の施策に乗って、ストックされていた顧客は動きました。売上がわずか4%減に留まったのは、その結果だったのです。顧客数の大きさは、あなたが持っているバスタプの大きさと言えるでしょう。それは利益の源泉であるとともに、何かあった場合、あなたを救ってくれる存在でもあるのです」(102ページ)

小阪さんは、キースとビューティーケアつかもとの2社の事例をご紹介しておられますが、ピンチになったときに両社を救ったのは、両社を強く支持している顧客です。小阪さんは、このような自社がピンチになっても支援してくれる顧客を「顧客」と呼んでいますが、このような顧客は、「ロイヤルティ(忠誠心)の高い顧客」と、そして、その顧客の忠誠心を「顧客ロイヤルティ」と呼ぶことがあります。

小阪さんは、一見客を水道水(フロー)、「(ロイヤルティの高い)顧客」をバスタブの中の水(ストック)に例えていますが、ロイヤルティの高い顧客は常に自社商品を購入してくれるので、まさにストックの水でしょう。ですから、小阪さんがロイヤルティの高い顧客を増やすことに注力すべきとご主張するのは、自社がピンチになっても売上が安定するからなのでしょう。

とはいえ、「顧客ロイヤルティを高めなければならないということは理解できるけれど、自社を支援してくれる顧客をつくることは頭で考えるほど簡単ではなく、大手に顧客が奪われるのをくい止めることで精一杯だ」と考える中小企業経営者の方も少なくないと思います。

私も現実はその通りだと思います。しかし、大手の会社は、裏を返せば、マス・マーケティングしかできません。一方、中小企業こそ、きめの細かい顧客対応を行うことができるので、大手の会社では実践できないことを実践することで、大手との競争に勝てる見込は高くなります。したがって、難易度は高くても、顧客ロイヤルティを高めるための活動を実践する価値は大きいと、私は考えています。

2025/9/14 No.3196