鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

競合する市場の収益性を意図的に破壊

[要旨]

経営コンサルタントの今枝昌宏さんによれば、敵の収益源の破壊は、競合が主な収益源とする市場で無料ないし極めて低利益の販売を行って市場の収益性を意図的に破壊し、結果として競合の収益源を破壊して競合の力を削ぎ、自社の主力とする市場で競合に勝つビジネスモデルであり、一見価格戦略のように見えますが、競合との事業構造、収益構造の違いを利用し、しかも自社の優位性や収益力を直接高めるというよりは、競合の力を削ぐことによる相対的な優位性を獲得することを目指すビジネスモデルだということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの今枝昌宏さんのご著書、「ビジネスモデルの教科書-経営戦略を見る目と考える力を養う」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、今枝さんによれば、レーザープレードは、製品の価格を下げて顧客による購買を促し、その製品に使用する消耗品や製品の保守・運用サービスなどを比較的高額で販売して利益を上げるビジネスモデルで、これは、替え刃カミソリを初めて製品化したキング・キャンプ・ジレットが、カミソリ本体を格安な価格で販売し、そのための替刃で利益を上げるビジネスモデルを確立したことが最初だということについて説明しました。

これに続いて、今枝さんは、敵の収益源の破壊について述べておられます。「敵の収益源の破壊は、競合が主な収益源とする市場で無料ないし極めて低利益の販売を行って市場の収益性を意図的に破壊し、結果として競合の収益源を破壊して競合の力を削ぎ、自社の主力とする市場で競合に勝つビジネスモデルです。一見価格戦略のように見えますが、競合との事業構造、収益構造の違いを利用し、しかも自社の優位性や収益力を直接高めるというよりは、競合の力を削ぐことによる相対的な優位性を獲得することを目指すもので、極めて構造的なビジネスモデルです。

2013年10月、Yahoo!JapanはYahoo!ショッビングへの出店や取扱いを無料化することを発表しましたが、これは同社のライバルで日本における主要なネットポータルである楽天やアマゾンがネットショッピング(Eコマース)を主たる収益源としていることを逆手に取ったものです。これによって楽天は出店や取扱いを有料のまま据え置けば競争力を削がれ、無料にすれば収益源を失うという極めて難しぃ選択を迫られることになりました。(中略)

敵の収益源の破壊では、競合が主たる収益源とする市場を自社の製品・サービスを無料化ないし利益を静めることによって破壊してしまうわけですが、このような市場は、別の見方をすると敵の優位が確定してしまっていて自社に勝ち目がなくなりつつある市場ということができます。敵の収益源の破壊は、この勝ち目のない製品・サービスを使って敵に一矢報いるものです。敵は、その市場を主たる収益源としているわけですから、このビジネスモデルに追随して無料ないし極端な値下げをすることができないため、有効な対抗策を打てないわけです。

一方自社はというと、当該市場において無料化ないし低価格を採ることによって、その市場からの利益はなくなりますが、破壊してしまう市場はもともと収益の上がっていない市場であることと、自社の収益源は異なったところにあるため、致命的なダメージは受けません。(中略)無料化する製品・サービスは、それまで有償で提供されていたものですから、その無料化のインパクトは強烈なものです。実際、前述のヤフーは、出店料と手数料の無料化によって強烈に出店が増加しており、これによって自社サイトに対する広告出稿量が大幅に増加すると見込んでいます。

このビジネスモデルは、フリーと同様に、無料化しても赤字にならない、つまり利益をあきらめても血は流さないことが必要で、製品やサービスに原価がほとんどないソフトウエア業界やネットサービス業界で非常に多く用いられています。(中略)しかし、無料化しないまでも利益をあきらめて原価販売するだけでも大きなインパクトをもたらせることがあるため、ネット業界独特のビジネスモデルというわけではなく、リアルの世界でも試されてよいビジネスモデルです。

マクドナルドは、過去何回もコーヒーの無償提供を試みていますが、これはこのどジネスモデルと同様の意図があるものと思われます。敵の収益源の破壊を実行すると、競合との信頼関係は完全に破壊されるので、競合とシェアを分け合いながらゆるやかに共存する可能性はなくなります。また顧客は無料に慣れてしまうため、業界において将来にわたって課金の可能性をなくしかねません。実行する場合は、当該市場を永久に焦土化することを覚悟で行う必要があります。

ネットスケープは機能制限のあるインターネットブラウザを無償配布する一方で高機能プラウザを有償で販売し、マイクロソフトもほぼ同様の戦略を採っていましたが、マイクロソフトはネットスケープに勝てないと見るや途中からビジネスモデルを変更し、全て無料配布してネットスケープの収益源を破壊して同社を市場からほぼ駆逐してしまいました。その結果、ネットューザはブラウザは無料という『常識』を持つに至ってしまっています」(132ページ)

今枝さんが「敵の収益源の破壊」は、「一見価格戦略のように見えますが、競合との事業構造、収益構造の違いを利用し、しかも自社の優位性や収益力を直接高めるというよりは、競合の力を削ぐことによる相対的な優位性を獲得することを目指すもの」と述べておられるように、同業者との競争ではなく、異なる業種の競争で行われる対抗策だと言えます。もし、同じ業種で「敵の収益源の破壊」を行うと、それは、単なる価格競争になってしまうからです。

とはいえ、このビジネスモデルは極めて攻撃的であることから、経営資源が比較的に少ない中小企業には向いていないと思います。しかし、場合によっては可能なこともあると思います。私が住んでいる地方都市では、交通の便がよくない場所に位置している料亭が、小型バスによる無料の送迎を行っていることがあります。こうすることで、法事や宴会の需要を、交通の便のよい立地にある飲食店から奪ったり、安心して飲酒できる宴会の需要を維持していると考えることができます。

また、地場スーパーにおいても、改装を行う際に、イートインスペースを充実させ、利用者にスマートフォンなどの充電をできるようにさせたりして、ファストフード店やファミリーレストランの需要の一部を奪っていると考えることができます。繰り返しになりますが、「敵の収益源の破壊」は、ことなる業種の競合に有効な手段であると、私は考えています。

2026/3/2 No.3365