[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、かつて、同社は、顧客からカラフルな服を欲しいという要望があったことから、それに応えた商品を開発したそうですが、発売後はしばらくは売れたものの、長続きはしなかったそうです。その原因は、同社の顧客は他店にはないものを求めて来店しているため、無印良品らしくない商品を販売していれば来店する意味がなくなるからであり、自然界にある色と天然素材を使いシンプルなものをつくるというブランドの根幹に当たる部分を変えてはいけなかったということに気づいたということです。
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今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、同社は、「くらしの良品研究所」というサイトを立ち上げ、お客様とコミュニケーションをとりながら商品開発をしていく仕組みを整え、体にフィットするソファを開発して累計で200万個以上売るなど、商品力を強化したということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、顧客の意見を取り入れすぎて、店のコンセプトを変えてはいけないということについて述べておられます。「どこの企業でも、どんなチームでも、業績が低迷すると、商品やサービスを見直します。今までにない商品を開発して心機一転を図ったり、流行を取り入れてみたりと、思いつく限りのことを試してみるでしょう。それでヒット作が出るならいいのですが、たいていは不発で終わります。
貧すれば鈍するの典型で、目先の利益に飛びついてしまうからです。無印良品も、業績が悪化したころは混迷を極めました。たとえば、赤やオレンジなど華やかな色合いの衣料品を販売していた時期があります。もともと商品づくりでは、自然界にある色と天然素材でつくることをコンセプトとしてきました。そうすると、衣料品も自ずと色合いは白やベージュ、黒、藍、グレーなどのベーシックな色が中心になります。
時折、お客様から『モノトーンだけでは飽きるから、もっとカラフルな服があったらいいのに』という要望が寄せられることがありました。そして、商品を開発している人が、『そこが、業績回復の突破口になるのではないか』と飛びついたのです。社員も必死になっているので、新しいタイプの服が出来上がると、懸命にPRして売り出します。すると、いつもの無印良品とは違う新鮮さがあるからか、確かにしばらくは売れました。しかし、それも長続きはしません。
多くのお客樣は他店にはないものを求めてお店に来ているのに、『他店にはない、無印らしさ』を失ってしまったら、無印良品で買う意味がなくなってしまいます。自然界にある色と天然素材を使い、シンプルなものをつくるというブランドの根幹に当たる部分を変えてはいけなかったのです。業績が悪化したときに戦略や戦術の見直しを図るのは必要ですが、ぶれてはいけない軸がぶれてしまうと、お客様は離れていきます。日本の多くのものづくりのメーカーが低迷している理由も、そこにあるのではないでしょうか。
これはたとえば、寿司が売れないからと客の要望を聞いてツマミを増やした結果、居酒屋と大差なくなり、結局ほかの居酒屋に負けるのと同じです。流行に流されるほうが楽ですが、流行は文字通り一過性であるケースが大半です。お客様第一で要望を聞き入れるのは大事であっても、どこまでも聞いていてはブランドのコンセプトが揺らいでしまいます。足元を固めるために、自社が目指してきたコンセプトをしっかりと再確認したうえで、それを進化させる形で経営戦略を立てるベきなのです」(43ページ)
松井さんがご指摘しておられるように、顧客の要望を商品の改善に活用することは大切であるものの、一方で、そのことによってお店のコンセプトを変えてしまうと、逆に顧客離れが進んでしまうということは、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、業績を改善しようと懸命に取り組んでいると、そのことに気づきにくくなり、かつての無印良品のように、店のコンセプトに合わない商品を売ることになってしまいます。
では、コンセプトを崩さないように改善を進めるにはどうすればよいのかというと、私はその方法のひとつは自社の顧客体験価値はどういうものかということを明確にすることだと思います。例えば、スターバックスコーヒーが提供する顧客体験価値はサードプレイスである一方、ドトールコーヒーはおいしいコーヒーを安く早く提供することです。両社は同じコーヒー店でありながら、提供する顧客体験価値が異なることから、客層も異なります。
そして、消費者の消費行動が成熟化した現在は、顧客体験価値の重要性が増加しつつあります。したがって、自社の業績を改善しようと考えている経営者の方は、販売している商品だけでなく、自社のコンセプトや自社が提供しようとしている顧客体験価値はどういうものなのか、定義を明確にし、そこから商品の見直しを行うことが大切であると、私は考えています。
2025/12/17 No.3290
