鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

マニュアルで育成する人を育成する

[要旨]

良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社では、部下の育成方法をマニュアル化しているそうですが、これによって、部下の育成を効率化したり、育成方法が標準化されたりするという利点があるだけでなく、部下の育成がうまくいかなかった時に、指導する側に責任が問われてしまうという不満を解消することもできるようになるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、習得に15年くらいかかると言われている経理業務を、同社でマニュアル化したところ、5年程度で1人前の経理担当者になることができるようになっただけでなく、人材が流動化しないことによる硬直化や、セクショナリズムを防ぐことができるようになったということです。

これに続いて、松井さんは、部下の育成方法についても、マニュアルに記載しているということについて述べておられます。「新人に仕事を一から教えることに、大変な苦労をした経験がある人は多いでしょう。教育には、教える側のスキルが大いに問われるのです。前頂でもふれましたが、MUJIGRAMは無印良品の店舗スタッフの人材育成のためにも使います。

接客の仕方、衣料品の畳み方、店内の清掃など、基本的な作業の意味や手順を細かく説明しています。もしかしたら、同じような接客業や小売業には、このようなマ二ュアルが存在するかもしれません。ただ、MUJIGRAMはそれにとどまりません。『販売スタッフTS(トレーニングシステム)』という、スタッフを指導する立場の人のためのマニュアルを一冊つくっています。これは、『どう教えるのか』を明文化したものです。

たとえば新人スタッフに『おたたみ』(衣類を陳列する際の畳み方)を教えるときは、『(1)目的・到達目標を伝える、(2)実際の商品を使って、ポイントを説明する、やって見て見せた後、やってもらう』という手順を踏んで教えるように、書いてあります。このマニュアルの目的は、『誰が指導しても同じことを教えられるようにすること』です。どこの企業でもある話ですが、同じ作業でも、指導する担当者によって方法が違ったり、教え忘れていることがあったりと、ムラが出るものです。

そのムラをなくし、どこの店のどのスタッフにも同じ知識とスキルを身につけてもらうために、『教えるためのテキスト』が指導者には必要です。このマニュアルをつくることで、初めて人を教える立場になった場合でも、何をどう教えればいいのかがわかるという利点もあります。一般企業も、OJTなどで新入社員の教育をしていると思います。しかし、どう教えればいいのかわからない人が担当になり、トレーニングにならないという話をよく聞きます。

毎年新入社員に教えることが決まっているのなら、教える側のマニュアルをつくってしまえばいいのではないでしょうか。そうすれば新入社員に均一に自社の理念を伝えられますし、仕事の進め方も均一に教えられます。また、担当者によって、『自分はこうやっている』と自分流のやり方を教えて、後々現場が混乱する事態も防げます。人の上に立つ立場になると、これまでと同じ給料なのになぜ部下の面倒まで見なくてはならないのか--という不満がよく出てきます。

また、教える側が各々で教え方を考えて指導しても、相手が育たないと、『教え方が悪い』と指導する側の問題にされるケースも往々にしてあります。これでは、指導する側のモチベーションが保てません。指導する側のやる気や能力に頼るのではなく、教える方法を決めておけば、こういった不満も解消できるでしょう。指導することも大切な業務の一つとして認識できるようになり、『やらされ感』が拭い去れると思います。モチベーションも仕組みで向上できるものなのです」(105ページ)

部下の育成方法もマニュアル化することで、ノウハウが共有されたり、指導法が標準化されたりといった利点があることは、松井さんのご指摘の通りだと思います。しかし、部下を育成する人を育成することは、多くの会社で課題となっていると思います。それは、松井さんが「教える側が各々で教え方を考えて指導しても、相手が育たないと、『教え方が悪い』と指導する側の問題にされる」とご指摘しておられるように、部下の育成方法を会社側が示していない、すなわち、従業員に任せてしまっているのに、うまく行かなければ従業員の責任にしてしまうということからも分かります。

つまり、会社も、部下の育成の仕方や、部下を育成する人の育成の仕方を把握していなかったり、または、それをわかっている人がいるとしても、暗黙知のままにしてしまい、形式知にして共有化していないということです。私は、これまで事業活動は組織的活動であると述べてきましたが、それがうまく実践できるようにするための大切な要素は、従業員の育成をうまくできるかどうかという点にあると思っています。これを逆に言えば、会社の事業活動がうまくいかないのは、部下の育成がうまくできないからだということです。

とはいえ、部下の育成方法をマニュアル化することは、頭で考えるほど容易ではないということも事実だと思います。しかし、現在は、この難しい課題に挑む以外に競争力を高める方法はほとんどないとも、私は考えています。だからこそ、従業員の育成に悩んでいる会社経営者の方には、1日でも早く、部下を育成する人の育成方法のマニュアルづくりを始めることをお薦めします。

2025/12/30 No.3303