[要旨]
良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、同社ではマニュアルを活用して仕組みづくりをしていますが、マニュアルがあると従業員の方は受動的に仕事をしてしまいかねないという短所があるものの、一方で、マニュアルによってノウハウが蓄積されたり、仕事が標準化されるという長所があることから、従業員の方には、単にマニュアルに従うのではなく、マニュアルに不足する部分を補う役割があると伝え、能動的に仕事をするよう働きかけているということです。
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今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。(ご参考→ https://x.gd/ESa15 )前回は、松井さんによれば、かつて、良品計画は、業績を改善するために、他社から優秀な人材を雇い入れたものの、無印良品のそもそものコンセプトから逸脱した商品が生まれたり、他社の商品をコピーしたりされ、無印良品の風土が軽視され、却って会社が混乱したことから、自社の競争力を高めるには、自社で人材育成の仕組みをつくり、時間がかかっても、自社の風土に合った人材を育成する必要があるということについて説明しました。
これに続いて、松井さんは、マニュアルに基づいて事業活動に臨むことが大切ということについて述べておられます。「『無印良品には大量のマニュアルがある』という話を聞き、驚かれた人も多いでしょう。無印良品の店舗に行ったことがある方ならわかると思いますが、スタッフがお客様に商品を積極的に売り込んだりするわけではなく、決まり切ったセールストークをしているわけでもありません。お客様は、自分のペースで商品を見て回れる雰囲気になっています。
この雰囲気こそ、無印良品を無印良品たらしめている特徴といえます。ただ、この雰囲気をつくりあげるのは、スタッフ一人ひとりの個性ではありません。MUJIGRAMをもとに店づくりをし、スタッフを教育して、無印良品らしさをつくりあげています。日本では、マニュアルという言葉にネガティプなイメージがあります。マニュアルを使うと、決められたこと以外の仕事をできなくなる、受け身の人間を生み出す、と否定的な意見を耳にします。画一的で無味乾燥なロポットを動かすプログラムのようなイメージがあるようです。
しかし、そういう人をつくるのが無印良品の目的ではありません。そこで、マニュアルと言わず、MUJIGRAM、業務基準書と呼ぶことにしました。MUJIGRAMも業務基準書も、目的は『業務を標準化する』ことです。前章でお話ししたように、それまでの無印良品では、店長が思い思いに店をつくり、スタッフの指導も店ごとに違っていたので、バラつきがありました。どこの地域の無印良品に入っても、お客様に『無印らしき』を感じてもらえるようにするには、店づくりも接客などのサービスも統一する必要がありました。
『この仕事は、あの人にしかできない』という状況は、本人にとっては誇りになるでしょう。無印良品にも、そのように社内で一目置かれている社員はいました。しかし、本人が定年退職や突然の病気、転職などで抜けたら何も残りません。組織の未来のためには属人化ではなく、標準化するのが最善の道でした。MUJIGRAMを読まずに店舗のスタッフが本部に質問しても、『それはMUJIGRAMで確認してください』と突き放すことになります。
もしMUJIGRAMに書いていなかったら、それは新しいノウハウとしてMUJIGRAMに追加されることになります。そこまでマニュアルを重んじていたら、社員やスタッフが自分の頭で考えなくなり、マニュアル人間化してしまうのではないか、と思う人もいるでしょう。しかし、そもそも無印のマニュアルは社員やスタッフの行動を管理し、制限するためにつくっているのではありません。むしろ、マニュアルをつくり上げるプ口セスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが狙いです。
ただマニュアルに従うのではなく『マニュアルをつくる人』になれば、自然と自分の頭で考えて動く人材になります。社員がマニュアルに依存してしまっているとしたら、そのマニュアルのつくり方や、使い方に問題があるのでしょう。マニュアルによって、社員の仕事のレベルを均一にしたいのか、コストを削減したいのか、作業時間を短縮したいのか……企業によっても部署によっても、解決したい問題は異なります。これが定まっていないと、効果のないマ二ュアルになりかねません。
無印良品の店舗では店長が必ず常駐しているわけではなく、休暇や出張などで不在にしている場合も多くあります。そのうえ、店長でもマネジメントは不得手な人もいる。それでもMUJIGRAMがあるから、いつでも滞りなく現場にいる人だけでお店を回せるようになっています。店長などの社員は店舗の異動もあります。それでも現場が混乱しないのは、MUJIGRAMでどこの店でもすベての作業が標準化されているからです。新しい店長になっても指示内容が変わることはないので、スタッフは今までと同じ作業を続けます」(61ページ)
松井さんも述べておられますが、いわゆるマニュアルには短所があります。それは、「マニュアル人間」などという言葉があるように、マニュアル通りに動くことが目的化してしまい、事業活動の本来の目的を達成する活動とは逆のことが行われることもあります。その一方で、マニュアルには長所もあります。無印良品では、その長所の面を活用していると思いますが、それは、ノウハウが蓄積されたり、仕事のやり方が標準化されたりすることです。
やはり、組織に蓄積されたノウハウなどは、いわゆるカリスマ店員の頭の中だけに暗黙知として入れておくよりも、マニュアルに形式知として明文化する方が、業績の向上に貢献するということは明らかでしょう。ところが、マニュアルには、前述したような短所があり、人はどうしても失敗したくないという防衛本能があるので、マニュアル通りに動こうという人が現れてしまいます。そこで、私は、経営者の方は、従業員の方が受動的にならず、能動的に活動するように働きかける役割があります。
このようなことをする経営者の方は少ないと思いますが、マニュアルを作成し、従業員の方に対して、マニュアル通りに仕事をしなさいと指示さえ行えば、それで業績が改善するということは、まず、ないと思います。良品計画の場合は、松井さんが、「(従業員の方が)マニュアルに従うのではなく『マニュアルをつくる人』になれば、自然と自分の頭で考えて動く人材になります」と述べておられるように、マニュアルに対して受動的ではなく、マニュアルを改善する役割があるという能動的な立場でなければならないと従業員の方に伝えているようです。
これは、私の経験から感じることなのですが、従業員の方に、単にマニュアルに従うのではなく、マニュアルを改善するよう考えながら仕事をしてくださいと伝えても、それは結構面倒なことであり、考えながら仕事をする人はあまり多くないようです。そこで、従業員の方たちに、考えながら仕事をするような動機付けを行うことができるかどうかが、業績を改善するための鍵になると、私は考えています。
2025/12/19 No.3292
