鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

マニュアルは完成直後に陳腐化が始まる

[要旨]

良品計画の元社長の松井忠三さんによれば、マニュアルの作成には相当の労力を要しますが、一方で、経営環境は常に変化していることから、マニュアルも完成した時点で陳腐化が始まります。そこで、同社では、労力がかかってでも、毎月、マニュアルの見直しを行っているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、良品計画の元社長の松井忠三さんのご著書、「無印良品の教え『仕組み』を武器にする経営」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、松井さんによれば、優秀な従業員が持っている、生産性を高めるノウハウをマニュアルに取り込むことは、会社全体の生産性を高めることになりますが、マニュアルの改善は重要ではあるものの緊急性が低いということで後回しにされてしまいがちなので、経営者はマニュアルの改善は組織の重要な課題ととらえ、それが着実に行われるように働きかけることが大切だということについて説明しました。

これに続いて、松井さんは、マニュアルは経営環境の変化に合わせて常に改善しなければならないということについて述べておられます。「仕事は『生き物』です。日々、変化し、進化していきます。『今の仕事のやり方』が、来月もベストであるとは限りません。今はとくにIT化が進んでビジネスの環境の変化は目まぐるしいですし、コロナショックでオンライン化が進んだように、柔軟に仕事の仕方を変えないと世の中のスピードについていけなくなります。

ところが、仕事のやり方を一度決めてしまうと、それに満足してしまい、しばらくは見直しもしないケースが多いようです。マニュアルをつくるのにも相当な労力がかかるので、“守る”意識が生まれ、問題点が報告されても数年経ってからようやく改良に着手するのが一般的だと思います。繰り返しますが、マニュアルに完成はありません。どんなに一生懸命つくっても、できた時点から内容の陳腐化は始まります。そのため、重要な更新は随時行う必要があり、最低でも月に一度は細部を見直す必要があります。

無印良品では月に2回ほど、新商品が入荷するタイミングに合わせて、商品を売り場にどうディスプレイするか、本部から指示が出ます。それにしたがって現場のスタッフが作業する段階で、『これではお客様が手に取りづらい』という不具合が生じたり、もっと見やすいレイアウトを思いついたり、さまざまな改善点が生まれます。その意見を本部に伝えると、それがMUJIGRAMに採用されて、全店舗で実行しようという話になるケースもあります。

本部から一方的に指示を出すのではなく、現場の意見をすくいあげることでアイデアは現実的な方法となり、仕事の基準の一つになっていく。この流れをつくれば、常に最新版の仕事にバージョンアップされることになります。マニュアルの更新はリアルタイムで行うのがポイントです。1年に1回まとめて改善点を検討しているようでは対応が後手後手に回ってしまいます。目の前にある問題点には、今対処する。その意識を持ってもらうためにも、マニュアルは毎月更新していくのが基本です」(89ページ)

前回までマニュアルの重要性や効果の高さについて説明してきましたが、マニュアルの効果を高めるためには、松井さんが述べておられるように、頻繁にマニュアルを改善することが欠かせません。良品計画では、マニュアルの活用に注力しているので、マニュアルの改善がその対象になっていますが、同社のようにマニュアルを活用していない会社でも、事業活動の迅速な改善、すなわち、PDCAサイクルを高速でまわすことで競争力を高めることができます。

良品計画では、マニュアルを、日々、改善することで、結果として、PDCAを実践できているのでしょう。そして、これまで私が繰り返して述べてきていることですが、PDCAを実践する会社はあまり多くありません。その理由は、多くの会社は、目の前の仕事に取り組むことで精一杯であり、仕事を見直す余裕がないというものです。しかし、改善活動を行わず、日々、成行的にしか活動していなければ、自社の競争力は下がってしまいます。

前述したように、良品計画ではマニュアルの改善によって仕事のやり方を常に改善しているわけですが、同社のようにマニュアルを通した改善活動に取り組むことが難しい場合は、5S活動から取り組むとよいと思います。そのことをきっかけに、改善の実感を感じることができるようになれば、小集団活動、マニュアル整備、事業計画に基づくPDCAの実践と、より難易度の高い活動を取り入れていくとよいと思います。

そして、これも私がこれまで繰り返して述べてきたことですが、事業の改善とは、何か必殺技があるわけではありません。希に、中小企業がたなぼた的に自社製品がヒットして売上が増えるということがありますが、会社の経営基盤が脆弱なままであれば、ヒット商品が飽きられてしまうと、業績も下がってしまいます。本来の業績向上とは、宝くじが当たって欲しいというような感じで自社製品がヒットすることを願うのではなく、持続的な改善活動の結果として達成することだと、私は考えています。

2025/12/26 No.3299