[要旨]
ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんは、ICDプロジェクトという、実質的な経営会議に、一般の従業員でも希望すれば参加できるようにしているそうです。このような会議に、一般の従業員が参加すると、自分の都合で意思決定が行われないかという懸念がありますが、それは逆で、おかしな主張をする人がいると、問題が顕在化したととらえられるそうです。さらに、このような会議で、意識の高い従業員が育ち、将来の経営者候補になっていくということです。
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今回も、前回に引き続き、ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、横田さんは、社内に部門の壁を超えたプロジェクトチームをつくり、従業員の方たちに参加してもらうことで、自分の意見を述ベると同時に、ほかの人の話を聞いて物事を多角的にとらえ、最適と思われる方法を見出し、実行していくという経験を積み重ねることで、自主性や責任感、実行力、リーダーシップといった能力が総合的に養われていくということです。
これに続いて、横田さんは、同社の経営会議には、役員や幹部だけでなく、一般の従業員も参加できるようにしているということについて述べておられます。「わが社のプロジェクトチームの一つに、ICD(Intellectual Capital Development)プロジェクトがあります。直訳すれば、知的資産開発といったところでろでしょうか。これは実質上の『経営会議』に当たります。
ICDプロジェクトの会合は毎月一回行われ、ほかのプロジェクトと同じょうに、キャリアや所属、地位にかかわらず、希望する人は誰でも自由に参加できます。会社経営に参加できる場であり、会社にとってよいと思うことなら、なんでも自分たちで決めてよいとしています。ここで決定された事項は社内に告知され、社員たちの手によって実行に移されていきます。もちろん、私ヘの報告など必要ありません。報告を義務化したら、権限委譲になりませんし、せつかくの自主性を取り上げることになってしまうからです。
経営会議というと、普通の会社では部長以上、あるいは役員が集まって会議を行いますが、わが社では一般の社員が集まって話し合うのです。ICDプロジェクトでは、『スタッフご意見板』に投稿された社員の意見や、お客様から寄せられた声を出発点に議論します。『スタッフご意見板』とは何かというと、社内数か所に回収ボックスを設け、社員が意見や提案、仕事で気がついたことなどを投稿できるようにし、それらをスタッフ通用口に設置した掲示板に貼り出して情報を共有するというものです。
社員やお客様の声から経営会議が始まる会社は滅多にないかもしれません。ですが、わが社は『社員満足のために顧客満足を追求する』会社ですから、こうなるのが当然と言えば当然なのです。『経営会議の主導権を社員に与えて、自分たちに都合のいいように物事を決められたらどうするのか?』と疑問をもつ人もいるでしょう。しかしわが社では、社員たちが集まって重要なテーマを議論するなかで、明らかにおかしな主張をする人がいたら、『レベルの低い社員がいる』という問題が顕在化した』ととらえます。
その社員は単に視野が狭いのか、勉強不足なのか、自己中心的なのか--。どこかに問題があるはずで、それを解決することを考えます。つまり経営会議は、問題発見の場でもあるのです。ただ実際には、ICDプロジェクトには経営者意識の強い社員が参加してくるので、そうした問題はほとんど発生していません。ICDプロジェクトは、いわば社員全員を経営者にする試みといえます。
社員全員が経営者だったら、当事者意識をもった人ばかりが切磋琢磨し合うのですから、その会社は間違いなく素晴らしくなるでしょう。どの経営者も、このことはわかっています。であれば、社員が会社経営に参画できる場を用意するのは、当然のことなのだと思います。ICDプロジェクトを眺めていると、将来の経営者や経営幹部が勝手に育っていくのを感じます」(148ページ)
経緯会議で議論されることとしてよくきくことは、営業部長、生産部長、経理部長が、それぞれ自分の都合(部分最適)を押し付け合うというものです。そこで、会社全体を俯瞰する経営者が、全体最適の視点で意思決定をするという役割があります。したがって、経営会議に一般の従業員が参加すると、自分の立場の意見を主張してしまわないか、バランスのとれた意思決定が行われるのではないかという懸念が起きることは不思議ではありません。
ところが、ネッツトヨタ南国では、経営会議に参加する一般の従業員も、全体最適の視点で意思決定をしており、「我田引水」が行われるような懸念はないようです。そして、横田さんが述べておられるように、もし、我田引水をする従業員が経営会議に参加していれば、それが是正されるようです。さらに、経営会議に参加している従業員は、逆に、日常の本来業務にもどっても、経営者の視点で仕事を捉えるでしょうから、より高いレベルの仕事ができるようになるのではないかと思います。
これらに加えて、若い従業員を経営会議に参加さえることで、将来の経営幹部を養成できるというメリットもあります。とはいえ、経営会議に誰でも参加できると従業員に伝えても、最初から参加を希望する人が現れないことも多いと思います。そこで、前回お伝えしたように、QCサークルを導入し、それによって高い視点で仕事に臨む従業員の方が増えてきてから、経営会議に参加する人を募るという手順を踏むとよいと思います。
2025/11/3 No.3246
