鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

人事評価は人を見る修練をする機会

[要旨]

日経BP社記者の神農将史さんによれば、高知県高知市の自動車販売業のネッツトヨタ南国は、あらゆる場面で明確な基準やルールを設けないことで社員自らが考えるように促したり、評価も、管理職が「人を見る目を養う機会」と捉え、あえて曖昧さを残したりしているそうです。こうすることで、真に業績に貢献している人がよい処遇を受けることができるようにしており、それが同社の好業績につながっているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、日経BP社記者の神農将史さんのご著書、「後継ぎ経営者のための70点経営-地味な積み重ねが、人と利益を引き寄せる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、神農さんによれば、中小企業が人事評価制度を導入しても、それを奏功させるには2つの課題があり、ひとつは、それを実践するための労力が大きいということと、もうひとつは、従業員のあるべき姿を示しても、評価する上司側が手本となることがなかなかできないという課題があるということについて説明しました。

これに続いて、神農さんは、自動車販売業のネッツトヨタ南国の人事評価の事例について述べておられます。「優れた人材による接客・サービスで知られる自動車販売店ネッツトヨタ南国。同社は、あらゆる場面で明確な基準やルールを設けないことで社員自らが考えるように促す。評価も、管理職が『人を見る目を養う機会』と捉え、あえて曖昧さを残す。ネッツトヨタ南国高知市)は1980年の設立以来、人材の確保と育成に血道を上げてきた。代表の横田英毅氏(現在は相談役)が先頭に立ち、採用活動と社風の整備を続けている。

同社は採用にかける熱量や手法のユニークさがよく知られている。それと同時に、採用した人材をどう育て、評価するかについても多くの時間を割いてきた。現時点で、ネッツトヨタ南国に画一的な評価制度は存在しない。上司が見定め、現場の声を聞いて判断するという、明確な甚準のない状態を意図的に残している。ネッツトヨタ南国の人材育成に関連するもので特筆すベきは、自己申告考課表だろう。各社員が半年に1度、自分の日常業務や日ごろの過ごし方などについて自己採点し、提出する。内容は部門ごとに異なっている。

例えば、『挨拶』という項目の中には4つの選択肢から選ぶ設問がある。『出勤時すれ違う社員に自分から笑顔で挨拶する(5点)』、『自分から挨拶する(2点)』、『タイミングがあえばor声がかかれば挨拶する(1点)』、『あまりしない(マイナス3点)』を選ぶ。それぞれの項目に素点があり、さらに、重要度(掛け率)が設定されている。この設問の重要度は3倍なので、評価はマイナス9点からプラス15点だ。上司はこの結果を参考にするものの、ネッツトヨタ南国での扱いは、各社員が内省を通じて自己成長するためのツールだ。

自己採点なので、点数の高低で評価が決まるものではない。『こんなに高くないだろう』といった指摘や指導もしない。ネッツトヨタ南国は基本的に年功序列だ。結果を出したり、周りからの評価が高かったりする社員でも、突出して出世することはない。その象徴的なものが、社内の表彰制度に見られる。自動車販売店にとって、多くの車を販売する社員が売り上げをつくっていると言っても過言ではない。にもかかわらず、ネッットヨタ南国が最多販売台数の表彰者に贈る商品券は、3,000円分だ。

これは、全社員の中での最優秀社員や、ディーラーの収益のもう1つの柱でもある車検に関する表彰でも同じ金額。このように、『短期的な業績に直接報いる』ことを徹底的にしないのがネッツトヨタ南国の考え方だ。『そのような制度にすると、短期的な結果を出そうとする人が増える、だからしない』と横田氏はさらりと言ってのける。半面、賞そのものは毎年60~70ほどあり、社員の半数程度が何らかの賞を受賞する。中には、毎朝熱心に掃除をしている人を表彰するために、『店舗を毎朝きれいにしていますね賞』のようなものを新設することもある。こちらの賞金も3,000円だ。なぜこのような方針を採るのか。

ネッツトヨタ南国の中で採用・有成を扱うビスタワークス研究所の長山大助執行役員は、『年齡・経験・職能など、多様な人が働く会社で、その社員が今の自分に見合う役割を果たしているのかを測るのが評価』だと指摘。特定の社員像を想定する評価制度そのものが中小企業には合わないと話す。ネッットヨタ南国では、人事評価は管理者が人を見る修練をする機会だと位置付けている。数字や実績など明示されたものだけで評価するということは、裹を返せば『明示されたもの以外はどうでもいい』という話になる。その通りやるだけなら、管理職が修練する場を奪うことになり、会社は考える人を失うと考えている。

そしてもちろん、『明示されていないものも大切だ』と、それ以外のものが評価に影響するようであれば、その評価制度は形式的なものだと批判されるだろう。多くの中小企業で、評価制度と実際の評価・人事がかみ合わない理由がここに詰まっている。実際の評価の場面では、実績はもちろん、日々の仕事ぶりや同僚との接し方、周囲がその社員をどう見ているかといった情報に幅広く触れ、それらを総合して判断している。

しかし、社内的には評価制度で評価すると宣言しているため、実際の処遇とズレが生まれてしまう。『言語化が難しい“野生の勘”を言語化して、評価や人事について、現場の共感・納得を引き出すことが大切』だと長山氏は語る。評価・人事そのものが適切であるかどうかと同時に、現場の納得を引き出すことが、現場のモチベーション維持には重要だ。そうやって考えて説明して、納得を引き出せる人の集団であり続けることが、ネッツトヨタ南国の競争力となっている。

他にも、社員の成長を促したり、多面的に評価したりするために、さまざまな仕掛けがある。直属の上司以外にも相談できる環境を整えるのが1つだ。社員にとって複数の先輩に相談できると心理的な安全性が高まる。同時に上司側にとっても、その社員を複数の人間が見ることで、より正確に性格や能力を判断できる。会議で座る位置を固定せず、順番に発言を促して苦手でも発言できる空気もつくる。上司からすると突拍子もない発言でもポーカーフェースを貫き、発言しやすい雰囲気を保つといったものだ。これらの仕組みの積み重ねによって、自律的な社員が育つ」(52ページ)

ネッツトヨタ南国の事例は、とてもすばらしく模範になるものだと、私も考えていますが、その一方で、難易度の高い事例なので、本格的に人事評価制度を導入しようとする会社にはあまり参考にならないとも感じます。そもそも、「言語化が難しい“野生の勘”を言語化して、評価や人事について、現場の共感・納得を引き出すこと」を目指すというのは、経営者だけでなく、幹部従業員も、相当に訓練していないと実践できないでしょう。

さらに、「人事評価は管理者が人を見る修練をする機会」と位置付けているわけですので、これは、単なる評価ツールではなく、人材戦略のためのツールと言えるでしょう。そして、これは、以前、言及した、さくら住宅の月次決算と共通することですが、労力がかかるから実践しないという選択はないと、私は考えています。どの会社でもよい人材が欲しいことに変わりはないわけですが、そのよい人材を得るには、管理者が人を見る目を高めることで人材を育成していくことができます。

ですから、「よい人材が欲しい」と「他力本願」的に祈るのではなく、よい人材が自社で育つために、それを育てられる管理者を経営者は育てなければなりません。そのひとつのツールとして、ネッツトヨタ南国では、人事評価制度を実践しているのでしょう。そして、それが同社の競争力の源泉のひとつになっていることは間違いありません。繰り返しになりますが、まだ、本格的に人事評価を行っていない会社は、いきなり同社のような人事評価制度を実践することは難しいものの、将来は同社のような人事評価ができるようになるためにも、まず、簡単なものから実践していくことを強くお薦めします。

2025/10/2 No.3214