[要旨]
ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんの知人の経営者の方の中に、自社の業績が悪いのは幹部従業員に原因があると考えている人がいたそうですが、横田さんは、すベて人のせいにしていると、自分が変わっていくことができず、そのことは、成長も進歩もできなくなってしまうので、経営者は、自らの言動に疑問を投げかけ、会社に問題があれば自分に原因があるととらえ、解決を図っていくことが求められるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、横田さんは、経営会議に、一般の従業員でも希望すれば参加できるようにしているそうですが、このような会議に、一般の従業員が参加すると、自分の都合で意思決定が行われないかという懸念を感じる人がいるものの、同社では、おかしな主張をする人がいると、問題が顕在化したととらえられるため、そのような懸念が起きることはなく、さらに、このような会議で、意識の高い従業員が育ち、将来の経営者候補になっていくということについて説明しました。
これに続いて、横田さんは、会社の業績不振の原因は、社長にあると考えなければならないということについて述べておられます。「業績不振の原因を、幹部社員や部下のせいにしている経営者がたくさんいます。けれども、利益が出ないのは、本当に幹部社員や部下のせいなのでしょうか。以前、ある知人の経営者が、『うちの会社は、若手はなかなかいいのがたくきんいるんですが、幹部社員に問題のある人間が多いんですよね』と言っているのを聞いたことがあります。
私は一瞬、彼の言っていることの意味がつかめず、少し考えてから、『あなたは何年社長をおやりになっているんですか?』と聞いてみました。『もう20年以上になりますね』とのことです。そうであれば、問題は幹部社員ではなく、社長にあるのではないでしょうか。20年もやっているということは、現在の『問題のある』幹部社員を抜擢し、育てたのはその社長自身ということになるからです。ですから、社長が幹部社員にダメ出しをして、なおかつ『若手にはいいのが多い』というのは、筋が通りません。その社長は、ダメな幹部社員を登用した張本人が自分であることを、まるでわかっていないということになるでしょう。
これに似た話がもう一つあります。『新卒で採用したら全然ダメ、採用は中途採用に限りますね』という社長がいました。わが社とは正反対の考えです。親しい社長でしたので、私は思ったことを正直に述ベました。『今のお話からすると、あなたの会社は新卒でいい人材在採る力がないか、新卒で採卒で採用した人を成長させられないか、どちらかの理由があって、他社が育てた人が途中で入ってくるほうがいい、という話ですね。でも、その中途採用の素晴らしい人材が、もし新卒時にあなたの会社に入社していたら、その人はどうなっていたでしょうね』その社長には私の言っている意味がわからなかったようで、『?』というキョトンとした顔をしていました。
『人のせいにしない』ということは、たいへんむずかしいことなのかもしれません。多くの人が、なんでもかんでも人のせいにして、問題を自分のこととして受け止めようとしません。なぜなら、人のせいにするほうが楽だからです。自らの言動に疑問を投げかけ、自分のせいにして解決を図っていくのはつらい作業でもあります。しかし、すベて人のせいにしていると、自分が変わっていくことができません。ということは、成長も進歩も、なくなってしまうのです」(152ページ)
私自身もそうですが、人は、自分に不都合なことがあると、それは他者に責任があると考えてしまいがちです。しかし、問題を早く解決するという観点からは、自分で解決できる部分を探し、そこを改善することで、他者が変わることを待つよりも早く問題を解決できるようになるということは、私が改めて述べるまでもなく、多くの方がご理解していることです。
ところが、経営者の方の中には、横田さんがご指摘しておられるように、業績が不振である原因は自分にはないと考えている経営者の方が少なくないということも事実だと思います。では、どうしてそのような経営者の方がいるのかというと、私は、その理由は大きく2つあると考えています。1つ目は、人は無意識のうちに変化を避けようとする、すなわち、現状維持バイアスがあるからだと思います。そのため、会社が業績不振になっても、自分は変わりたくないから、他者が変わることで業績を変えるべきだと考えてしまうのでしょう。
2つ目は、中小企業経営者はオーナー会社がほどんであり、そのようなオーナー会社の経営者は、いわゆる、裸の王様になってしまいやすいからだと思います。オーナー会社では、経営者に権限が集中していますので、従業員の方たちは、経営者の機嫌が悪くなるような情報は、なかなか、伝えようとしません。そこで、会社の業績が悪くても、経営者には断片的な情報しか届いていないので、正しい分析ができず、業績悪化の原因を部下たちに帰してしまうのでしょう。
そして、経営コンサルタントの一倉定さんが残した有名な格言の、「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任だ」は、経営者の間でよく知られているところです。これは、「事業活動に関わることのすべての責任は社長にある」と、文字通りに解釈するのではなく、「事業活動に関する課題の対処法は、社長の課題と位置付けて対処しなければならない」と解釈すべきだと、私は考えています。とはいえ、社長に求められる責任や能力が大きいということに変わりはありませんが、「社長」という重責を引き受けるからには、これを受け入れることが前提となることも間違いはないでしょう。
2025/11/4 No.3247
