[要旨]
ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんは、社内に部門の壁を超えたプロジェクトチームをつくり、従業員の方たちに参加してもらうことで、自分の意見を述ベると同時に、ほかの人の話を聞いて物事を多角的にとらえ、最適と思われる方法を見出し、実行していくという経験を積み重ねることで、自主性や責任感、実行力、リーダーシップといった能力が総合的に養われていくということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、横田さんによれば、同社では、社員への権限委譲を人材育成法として重視しており、意識して「上司は部下に教えない」、「上意下達はしない」という文化をつくってきたということについて説明しました。
これに続いて、横田さんは、社内横断的なプロジェクトチームをつくることでも、人材育成を行っていると述べておられます。「わが社には、部門の壁を超えたプロジェクトチームがあります。『CS推進プロジェクト』、『C2(Customer Contact)プロジェクト」など、いくつかのプロジェクトが運営されており、社員は参画するプロジェクトを自分で選ぶことができます。社員の自主性を育むため、課長以上の役職者は参加しません。
参画スタイルとして多いのは、一人が2、3のプロジェクトを受けもつケースです。チームの正式なメンパーにならなくてもミーティングへの参加と発言は可能で、その内容もメンバーと同等に扱われるのも特徴の一つです。プロジェクトチームで議論するテーマは、主に日常的な仕事のなかで問題になっていることの改善です。たとえば、『顧客管理力ードがきちんと作成されていないが、定着させるにはどうしたらいいか』などで、みんなが納得のいくまで時間をかけて議論し、全員一致で物事にあたるのが原則です。
上司がスビーディーに結論を出したり、多数決で判断したりすることはありません。『まどろっこしくないか?』、『時間がもったいないだろう?』、そんな疑問をよく投げかけられます。実際、まどろっこしくて時間もかかるのですが、このやり方には、そうしたデメリットをはるかに上回る効果があるのです。最も大きなメリットは、『コミットメント効果』で、能動的な公約が生まれるということです。
プロジェクトチームでは、立場やキャリアに関係なく、参加者みんなが意見を述ベ、全員が納得したうえで意思決定をしていきます。このプロセスを通じて、社員それぞれに『会社の意思決定に自分も参画した』という意識が生まれ、決めた約東を果たそうとする意欲が高まつていくのです。しかもプロジェクトチームの活動は、社員の成長にも大きな役割を果たします。
一見遠回りに見えても結論を急がず、自力でいろいろな課題を見つけ出し、とことん話し合う。自分の意見を述ベると同時に、ほかの人の話を聞いて物事を多角的にとらえ、最適と思われる方法を見出し実行していく。このような経験を積み重ねることで、自主性や責任感、実行力、リーダーシップといった能力が総合的に養われていくのです。
また、営業、管理、サービスと、部門の壁を超えて各プロジェクトに参加するため、自分の持ち場以外の人たちとの人間関係が生まれ、自ずと他部門の仕事の内容や大変さを理解するようになります。こうした人間関係ができあがると、お互いの苦労を少なくしようという意識がはたらき、全社的なチームワークがつくられていくのです。『任せきるプロジェクトチーム制』は、任せる側が慣れないうちはじれったいかもしれませんが、想像以上のプラスを組織にもたらしてくれます」(144ページ)
横田さんが、ネッツトヨタ南国に設けたプロジェクトチームは、ほぼ、QCサークル(小集団活動)と同じだと思います。このQCサークル活動は、表面的には課題解決が目的なのですが、実質的には、「自主性や責任感、実行力、リーダーシップといった能力が総合的に養われる」、「営業、管理、サービスと、部門の壁を超えて人間関係が生まれ、自ずと他部門の仕事の内容や大変さを理解するようになる」という、人材育成が目的になっています。
ただ、「任せる側が慣れないうちはじれったい」という短所があります。しかし、そのじれったさを経営者が受け入れることができれば、「想像以上のプラスを組織にもたらしてくれる」と、横田さんは述べておられます。そう考えれば、プロジェクトチームのじれったさを我慢することは、それほど難しいことではなくなると、私は考えています。
2025/11/2 No.3245
