[要旨]
ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんは、事業活動を通して顧客満足度を高めなければならないものの、経済につながらない道徳のみを追求することはボランティアにしか過ぎないので、経営者は経済につながるような道徳の追求をしなければならず、そこで、横田さんは、「売れ」と言わなくても結果的に売れるしくみをつくろうと考え、そのための努力を続けてきたということです。
[本文]
ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を拝読しました。同書で、横田さんは、利益と道徳を両立させることが大切ということについて述べておられます。「人より先に昇進・昇格した。給料が多い。車の販売台数が多い。これらは、相対的な勝ち負けの話です。もちろん販売台数は重要ですが、わが社では、たくさん売った人をそれほどほめ称えるわけではありません。『それだけが大切なのではない、大切なことはほかにもたくさんあるよ』と言い続けています。
こう言うと、『売れ、売れとハッパをかけなければ、売るパワーが弱くなるのではないか、会社としての業績は上がらないのではないか』と考える経営者がいると思いその気持ちもわかります。二宮尊徳は『経済のない道徳は寝言だ』と言っていますし、道徳を追求し続けるためには経済が必要です。経済につながらない、道徳のみを追求するのはボランティアであって、それでは経営者としては失格です。
では、どうすればよいのかというと、経営者は、経済につながるような道徳の追求をすればいいのです。そこで私は、遠回りではありますが、『売れ』と言わなくても結果的に売れるしくみや気持ちをつくろうと考え、この努力を30年間続けてきたのです。なかには、『私は車の販売台数は低いですが、お客様は大満足しているのでそれでいいじゃないですか』という営業スタッフもいました。
それに対して私たち幹部は、次のように答えてきました。『たしかにお客様の満足度が高いのは素晴らしい。だが、販売台数が少ないというのないというのは大きな問題なのですよ』と。なぜなら、私たちがめざしているのは、『できるだけ多くのお客様に、できるだけ大きな満足を提供すること』だからです。満足していただけるお客様の数を多くするという『目的』のためには、販売台数を多くするという『目標』を達成しなければダメなのです。
数少ないお客様に満足を提供しただけでは、私たちがめざすことを実現できたことにはなりません。たくさんのお客様に喜んでもらい、満足を得ていただくためには、やはり買っていただいて使っていただき、フオローの充実ぶりを喜んでもらうのが本来のあり方だと思うのです。『大勢の人に喜んでもらう』ことと『結果を出す』ことのパランスが大切なのです」(18ページ)
横田さんの本のタイトルの、「会社の目的は利益じゃない」という言葉は、よく、耳にします。そして、それを、横田さんの部下のように、「私は車の販売台数は低いですが、お客様は大満足しているのでそれでいいじゃないですか」と理解する人もいます。その人の考えは「経済なき道徳」であり、営利活動をするはずの会社なのに、「ボランティア」活動をしようとしているということです。
ところが、そのような人でも、利益を得ることができなければ、事業を継続することはできないということは容易に理解できると思います。したがって、「会社の目的は利益じゃない」という意味は、「会社の目的は、顧客の満足であって、それは利益に優先する」という意味ではなく、「会社の目的は、顧客の満足であり、それは利益を得ることを通して実現できるのであって、利益を得ることを最終的な目標としてはならない」という意味だと、私は考えています。
すなわち、「利益を目的としない会社」を経営することは、実は、難易度の高いことであるということは、言うまでもありません。では、それをどうやって実現するのかということですが、横田さんは、「『売れ』と言わなくても結果的に売れるしくみつくる」ことによって実現しようとしてきたと述べておられます。これは、ドラッカーの、「マーケティングの目的は、販売を不要にすること」という考えに通じるものだと思います。
今回は、その具体的な内容については触れませんが、横田さんがご指摘しておられるように、単に、商品を売ることを部下に指示するだけでよいのであれば、どんな人にも経営者を務めることができます。しかし、売れるしくみがあれば、それほど熟練していない従業員でも、商品を売ることができるようになります。そして、そのしくみづくりこそ、経営者の腕の問われるところであり、「利益を目的としない会社」をつくるための最初の課題であると言えると、私は考えています。
2025/10/29 No.3241
