[要旨]
公認会計士の金子智朗さんによれば、2001年の春闘で、当時の日産自動車のゴーン社長は、労働組合の要求する賞与額を承諾したところ、「あと2週間話し合って、決められた回答日に回答をして欲しい」と要求をしてきたことから、ゴーン氏は呆れたことがあったそうですが、日本の会社では、形式や前例にとらわれていることによって、業績を悪化させていることがあると考えられるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、従業員は、「意識を変えろ」と声掛けをするだけでは行動は変わりませんが、人は採点基準通りに行動すると言う法則があるので、業績評価指標を設定し、それに基づいて部下を評価するようにすれば、それを達成しようと行動をするので、経営者の方は、自分の意図する行動をしてもらうための業績評価指標を設定するとよいということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、前例や形式にとらわれている会社は、業績に悪い影響を与えるということについて述べておられます。「前例や形式ばかりにとらわれていると、意味のない行動を平気でするようになってしまいます。倒産の瀬戸際まで追いつめられた日産自動車が再建の緒に就いたばかりの2001年、春闘における会社と労働組合との交渉の場でこんなことがありました。カルロス・ゴーン氏は予定されていた交渉期間半ばにして、労働組合が要求するポーナス額を承諾しました。
ところが、交渉半ばにして会社が満額回答するというのは異例のことです。皆は驚きました。ゴーン氏にとっては、要求を承諾した理由は単純明快です。ゴーン氏にとって、労働組合側の要求は妥当に思えましたし、当時の再建計画は株主だけではなく、社員のためにもなることを知ってもらいたかったからです。ところが、労働組合のメンバーは、あと2週間ほど交渉を続けなければならないと言いました。ゴーン氏はてっきり他にもまだ要求があるのかと思い、その理由を尋ねました。
すると、返ってきた答えは、『特に要求はありませんが、あと2週間話し合って、決められた回答日まで待つのが今までの手順ですから』というものでした。この答えには、さすがにゴーン氏も呆れたそうです。妥結したならばそれ以上交渉を長引かせる理由は何もないですし、何より、日産の置かれた当時の状況を考えれば、そんな無駄なことをしている余裕はないはずです。この期に及んで、全く付加価値のない形式的な手統きに固執するのは、全く解せなかったとゴーン氏は述懐しています。
この思考パターンと行動様式に、日産が倒産の淵にまで追いつめられたすベての理由が象徴的に集約されているように思えますが、逆に、危機的状況にまでなったからこそ、顕在化して改革することもできたのです。そこまでの状況になっていない多くの会社では、このような思考パターンと行動様式は顕在化もせず、会社の利益を触んでいるかもしれません」(231ページ)
2025年12月23日のITmediaビジネスオンラインの記事に、読者からのフレックスタイム制度に関する質問と回答が載っていました。すなわち、フレックスタイム制で、コアタイムが午前11時~午後2時の会社で勤務しているが、在籍している部署では朝9時から定例会議があり、これは法律に違反していないかという質問に対し、従業員が同意すれば違法ではないが、会社は、原則として、コアタイム以外の時間帯に就業命令を出すことはできないため、定例会議への出席を義務付けることはできず、従業員が拒否しても問題ないと回答しています。
この記事は、法律上の問題についての内容ですが、経営的な観点からは、コアタイムでない時間に定例会議を開くことはセンスがないと思います。そもそも、フレックスタイムは、従業員の働き方の選択を広げ、生産性を高めてもらうことが目的なのに、朝9時に定例会議を開くことは、フレックスタイム制を形骸化させる行為です。このようなことをする幹部従業員は、かつての日産の労働組合執行部と同じく、形式を守ることを最優先し、成果を高めることに関心がないと思われても仕方ないでしょう。
ちなみに、米国のアウトドア用品メーカーのパタゴニアは、従業員に自由に働いてもらうことによって高い生産性を実現させています。同社創業者のイヴォン・シュイナードさんのご著書、「社員をサーフィンに行かせよう-パタゴニア経営のすべて」によれば、よい波が来そうな日は、従業員に仕事を中断して、サーフィンに行くことを認めているそうです。そのことが、サーブボードユーザーとしての従業員の目利き能力を高めることになり、同社が製造するサーフボードの品質を高め、業績を向上させているということです。
確かに、大量生産大量消費の時代は、会社で働く内容はルーチンワークが主要なものでしたから、定時出勤・定時退社が原則でしたが、現在のような製品の付加価値で競争力に差がつく時代は、それを高めるために適応した働き方が大切です。しかし、人は強く意識していないと、現状を維持しようとしてしまうので、気づかないうちに経営環境に適応できなくなり、業績を悪化させてしまうことになります。したがって、経営者の方は、従業員の方に対してマンネリ化を排除するための働きかけをしなければならないと、私は強く考えています。
2026/7/13 No.3498
