鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

改善策は実践しなければ意味がない

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、かつて倒産の瀬戸際までいった日産自動車は、評論家ばかりで、行動を起こさない社員ばかりでしたが、カルロス・ゴーン氏が社長に就いてやったことは、特別なことではなく、何十年も前から、社内でもっとこうすればいいのにと言われていたことをただ実行に移しただけであり、ビジネスにおいては実行が伴わない限り何の改善も実現せず、評価もされないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、業績を高めるために最も大切なことは行動力であり、特に、闇雲に行動するのではなく、きちんと利益につながる行動をすることが大切だということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、日産自動車のゴーン元社長は、かつて、日産の業績を回復させましたが、改善策はすでに日産自動車の従業員の頭の中にあったものだったということについて述べておられます。「一般的に、サラリーマンは、わざわざ何か新しい行動を起こしても、それで自分自身に何かいいことがあるわけではありません。むしろ、面倒な仕事を増やすだけです。そのような状況であれば、『本当はやった方がいい』といくら頭では分かっていても、行動に移すわけがありません。

行動に移す明確なインセンティプがないからです。その結果、会社は評論家だらけになります。私もサラリーマンの頃は、飲み会で3軒目ともなると、私を含めてみんな立派な評論家になっていました。『だから会社はダメなんだ』、『もっとこうすればいいのに』、『上の奴らは何も分かっでない』等々、酒の勢いに任せて熱く激論を交わしていましたが、翌朝、しらふに戻って会社に行けば、またおとなしい社員に戻るだけです。

今から思い出せば、全く恥ずかしい限りです。当時の自分に向って、『そこまで言うなら、自分でやれよ』と言ってやりたい気持ちです。倒産の瀬戸際までいった日産自動車も、評論家ばかりで、行動を起こさない社員ばかりでした。日産自動車は『倒産前夜の11時45分』までいったと言われています。あと15分で時間切れになるぐらい、倒産寸前だったという意味です。日産自動車は、ギリギリのタイミングでルノーからの出資が決まり、カルロス・ゴーン氏という予想外の人材まで現れたために、奇跡的に復活を遂げました。

ただ、カルロス・ゴーン氏がやったことは、何も特別なことではありません。何十年も前から、社内で『もっとこうすればいいのに』とか、『あんなことしなければいいのに』と言われていたことをただ実行に移しただけです。ゴーン氏の最大の功績は、クロス・ファンクショナル・チームによって縦横無尽に改善提案を社内から集め、かつ、それに対して明確な優先順位付けと目標値を与えたことです。何をやったらいいかという答えそのものは、既に社員の中にあったのです」(207ページ)

コーン氏が実行した日産リバイバルプラン(NRP)には、批判的な意見が多いようです。しかし、私は、次の理由から、その批判には説得力がないと考えています。1つ目は、NRPは、5つの工場の閉鎖、2万1千人の人員削減など、痛みを伴ったことは事実ですが、『倒産前夜の11時45分』の状態から、計画期間が3か年のNRPを1年前倒しで達成させています。「痛み」は少ない方が望ましいですが、「11時45分」の状態を脱することの方の重要性が高いことを考えれば、痛みが伴ったということだけでは、その批判の意味は薄いと考えることができます。

2つ目は、金子さんが、NRPについて、「何十年も前から、社内で『もっとこうすればいいのに』とか、『あんなことしなければいいのに』と言われていたこと」と述べておられるように、内容そのものについては、ゴーン氏の独断とは言えないものであったということです。これを言い換えれば、やるべきことをわかっていてものの、それを実践できなかった状態にあったところで、ゴーン氏が実践の後押しをしただけだったということです。

3つ目は、業績を大幅回復させたことです。2003年4月23日の朝日新聞の報道によれば、「日産自動車は23日、03年3月期連結決算の見通しを発表した。売上高は前期比10.6%増の6兆8500億円、本業のもうけを示す営業利益は50.7%増の7370億円、当期利益は33.0%増の4950億円となり、売上高、利益ともに過去最高を更新する。仏ルノーと資本提携直後の99年3月末に2兆1000億円あった実質的な有利子負債(金融事業を除く)は、03年3月末時点で完全に解消した」とのことです。

業績を改善させたことが、NRPの直接的な正当性の根拠にはなりませんが、当時の過去最高益を達成したこと、有利子負債を解消した実績を鑑みれば、机上だけでの批判は説得力がありません。もちろん、NRPは、もっと犠牲を少なくすることが可能であったかもしれません。ただ、経営判断は結果で評価されるということを考えれば、実績で判断しなければならないことも事実でしょう。

話を本旨に戻すと、ビジネスパーソンは実行したことが評価されるということです。極端なことを言えば、90点の事業計画を作成しても、それを実行していない人は評価されません。逆に、30点の事業計画を立てて、それを実行した結果、1%でも業績を改善した人は評価されます。とはいえ、このことは、どんなビジネスパーソンも理解していると思います。しかし、金子さんも、「当時の自分に向っ、『そこまで言うなら、自分でやれよ』と言ってやりたい」とご自身を恥じておられるように、行動しない(または、利益につながらない行動しかしない)ビジネスパーソンが多いことも事実だと思います。

2026/7/5 No.3490