鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

社員をサーフィンに行かせる企業風土

[要旨]

パタゴニアでは、社員が豊かで満ち足りた生活を送って欲しいという考え方に基づき、フレックスタイム制度を導入し、勤務時間中にサーフィンに出かけることができるようにしています。このことが、社員のモチベーションを高め、また、自社製品のユーザーとしての見識も高めることで、よりよい製品を開発することを可能にしています。


[本文]

今回も前回に引き続き、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードさんのご著書、「社員をサーフィンに行かせよう-パタゴニア経営のすべて」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。パタゴニアは、品質の高い製品を開発していますが、その裏付けとなる人材を確保するために、独特の福利厚生制度があるようです。

「仕事は楽しくなければならない。パタゴニアでは、社員が豊かで満ち足りた生活を送って欲しいと思っている。働き方は柔軟で、これは、波が2メートル近く、波面がきれいで暑いときには、作業をやめた鍛冶屋時代からの伝統である。周囲に迷惑をかけずに仕事をこなせるかぎり、好きな時間に仕事をすればいいというのが、我々の考え方である。本気のサーファーは、来週火曜日の午後2時にサーフィンをしようなどと、予定したりしない。サーフィンは、潮回りがよくていい風が吹き、いい波が立ったら行くものだし、パウダースキーは粉雪が降ったら行くものだ。

そして、くやしい思いをしたくなければ、いち早く駆けつける必要がある。そんなことから生まれたのが、『社員をサーフィンに行かせる』フレックスタイム制度だ。社員は、みな、この制度を活用して、いい波をつかまえたり、午後からボルダリングに出かけたり、勉強したり、通学バスから降りてくる子どもを出迎えられる時間に帰宅したりしている。このようなやりくりが効くから、自由とスポーツが大好きで、画一的な職場を窮屈と感じてしまう大切な社員に、仕事を続けてもらえるわけだ。

ちなみに、この制度を悪用する人はほとんどいない。パタゴニアの福利厚生はかなり気前がよいが、実は戦略的でもある。どの制度も事業にプラスの効果をもたらすものなのだ。例えば、米国では珍しい総合的な健康保険の制度を、パートタイムの社員にまで提供しているが、こうすると、スポーツに本腰を入れている人にも、直営店で働いてもらえる。社内に託児施設を設けているのは、子どもの心配をせずにすめば、社員の生産性が上がるからだ」(270ページ)

パタゴニアでは、登山用品だけでなく、サーフィン用品も製造しているので、品質の高い製品を開発するには、従業員自身がサーフィン愛好家であることが望ましい、そうであれば、海がサーフィンに適した状況になれば、従業員をサーフィンに行かせてあげられる会社にしようという考え方は、理にかなっています。とはいえ、どんな会社でも、直ちに、フレックスタイム制度を導入できるかどうかというと、現実的には難しいと思います。仕事をしているときに、「いい波が来ているから」という理由で、従業員の方が、いきなりサーフィンに行ってしまうと、果たして、納期などをきちんと守ってもらえるのかと心配になる経営者の方は少なくないと思います。

だからといって、最初からあきらめて、何もしないでいるよりも、時間はかかってでも、経営者の方が働きかけて、従業員の方の自己管理能力を高めていけば、パタゴニアのように、フレックスタイムを活用しつつも、きちんと納期を守ってもらえるようになり、士気の高い従業員の集団をつくることは、まったく不可能ではないと思います。また、日本の中小企業でよく見られると思うのですが、経営者の方が望むことと、その経営者の方の実際の行動が一致していないということがあります。

例えば、従業員の方には自律的に活動して欲しいと考えつつも、一方で、経営者の方がすべて仕切りらないと気がすまなかったり、部下の方に権限を与えていなかったりするということがあります。別の例では、経営者の方が、もっと部下の方に働いてもらい、その働きに応じて給与で報いたいと思いつつも、部下の方から見れば、自分はどういう仕事を期待されているのかが分からなかったり、どれくらいの成果をあげればどれくらい昇給するのかが明文化されていなかったりします。

一方で、前述のように、難易度は高いとはいえ、パタゴニアでは、自社が欲する人材にあわせて、そのような人たちの士気が高まるような職場環境を整えています。従って、すぐに達成できないことであっても、自社の目標や方針と、実際の制度や環境に齟齬がないかを確認し、齟齬があれば、それを解消することも、自社の目標達成のためには重要だると、私は考えています。逆に、齟齬があることに気づかずにそれを放置したままにしたり、齟齬があることに気づいても改善を怠っていたりすれば、事業もいつまでも発展しないでしょう。

2022/10/10 No.2126