[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、会社の目標が未達成になることがわかったら、投資家に対し、できるだけ早めに、目標未達成の見込みであることと、その原因、それへの対応方法を伝えたり、投資家からの協力を依頼したりすることが大切ということです。その方が、状況が悪化してから言われるよりも、株主・投資家も冷静に話を聞くことができ、また、顧客の紹介などの支援も期待できるからということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、徳谷さんによれば、会社で悪い情報が社長に伝わらないとき、その原因は社長にあり、悪い情報を伝えた部下を叱責したり不機嫌になるからだそうですが、そうなることを避けるためには、悪い情報に対して感謝を伝えたり、中間管理職が一般社員から声を吸い上げて共有するなど、悪い情報を吸い上げる仕組みや風土をつくることが求められるということについて説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、投資家や銀行への報告は、事後的に行うことは避けなければならないということについて述べておられます。「株主・投資家からは猛反対をされても、事業をどうにか存続させたい。そういう局面に立たされたら、ダウンラウンド(過去に調達したときよりも株価を下げて増資すること)で資金調達せざるをえないでしょう。このときの鉄則は、『後出しジャンケン』をしないこと。株主・投資家と、早め早めのコミュニケーションを心がけることです。
目標が大幅に未達になりそうなときも、株主・投資家にはできるだけかくしておき、多少挽回できてから報告しよう、と思う気持ちは理解できます。しかし、自分たちだけでなんとかしようとすると、傷口を広げてしまうことが少なくありません。いよいよ資金調達をしないと厳しい……という状況になってから報告したから、『もうちょっと早くわかっていたのでは?』、『ダウンラウンドなんて困る』と言われてしまいます。未達になることがわかったら、できるだけ早めに、『ここはうまくいっているけど、ここに課題があって、今、数字が下振れしている。
会社としては、ダウンランドで資金調達しようと思うが、どう思うか』、『今、足りていない人材を紹介していただけないか』と、株主・投資家に説明や相談をすることが必要です。その方が、状況が悪化してから言われるよりも、株主・投資家も冷静に話を聞けますし、顧客の紹介などの支援も考えられます。また、ベンチャーキャピタルの担当者も、社内で許可を得るにあたって、多少は説明しやすくなります。従業員に『バッドニュース・ファースト』を求める、という話をしましたが、社長自身も投資家や主要なステークホルダーに対しては、悩みや課題を早めに共有する。
悪い兆しがあったら、誠実にコミュニケーションをとり、助けを求めたり、説明をしたりすることが重要です。責任感の強い社長ほど、自分一人で組織の責任を抱えがちです。しかし、(もちろん相手やシーンを選ぶ必要ははありますが)周りを巻き込む、良い意味で甘える、それがとりもなおさず、組織を助けることにもつながるのです。『投資家対社長』、『社長対従業員』という対立関係ではなく、『会社が成長したら互いにハッピー』、『同じ船の仲間』という関係に投資家を巻き込める社長はピンチに強いと言えるでしょう」(188ページ)
徳谷さんの、「状況が悪化してから言われるよりも、株主・投資家も冷静に話を聞けますし、顧客の紹介などの支援も考えられる」というご指摘は、まったくその通りであり、これに異論のある人はいないでしょう。でも、このようなことがたびたび指摘されるのは、社長に大きなプレッシャーがかかり、悪いニュースをなかなか投資家や銀行に伝えることができない、すなわち、心理的な問題と言えるでしょう。したがって、経営者の方は、精神的な強さを求められるということに尽きます。
ところで、経営者が会社の悪い情報を伝えないということは、銀行の融資取引についても、当然、あてはまります。中には、「もっと早く伝えてくれれば、対処の方法があった」のに、切羽詰まった段階になってから、「実は、来週、決済資金が1,000万円不足するので、融資をして欲しい」などと、業績不振の会社に伝えられると、銀行はそれを断らざるをえなくなります。このようなことが起きてしまう理由として考えられることは、前述のように、悪い情報は銀行にはなるべく伝えたくないというプレッシャーだけでなく、もし、悪い情報が銀行に伝わったら、融資を引き上げられてしまうのではないかという心配があるという面もあると思います。
そのような心配は、私の経験から感じることは、業績があまり良くない会社だkでなく、業績が良い会社の経営者も持っているようです。だからこそ、徳谷さんがご指摘しておられるように、「『投資家対社長』という対立関係ではなく、『会社が成長したら互いにハッピー』、『同じ船の仲間』という関係に投資家を巻き込める」関係を、銀行ともつくることが大切です。なお、事例は少ないですが、不運にも銀行からいきなり「傘(融資)」を取られる(引き上げられる)」ということもあると聞きますが、基本的に、普段から銀行と緊密な関係を構築していれば、いきなり取引を切られるということはありません。
また、悪い報告を後になって行うというよりも、普段から自社の業況を把握しておらず、税理士の方から完成した決算書を見せられて、自社が赤字であることを把握する経営者の方もいます。そのような会社は、社長と同様に、その会社の業況を、決算書が完成してから把握するのですが、その場合、後出しジャンケンされたことよりも、社長の管理能力がないことを問題視するでしょう。現在のように経営環境が不透明な時代は、自社の業績を把握せずに事業活動に臨んでいる経営者は、業績を改善させることはほとんど不可能です。
2024/9/30 No.2847