[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、「人の問題」は、経営をしていく以上、会社がどれほど大きくなっても、社長には常について回るものだそうです。しかし、仲間とともに歩むことで、一人では成しえない大きなゴールに向かうこともできるので、人の問題は、悩みの源泉であり、同時に経営の醍醐味の一つでもあると考えて、経営者の方は、それに取り組むことが大切だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、徳谷さんによれば、ベンチャーキャピタルから出資を受け、上場が近づいてきた会社の中には、創業初期から社長がトップ営業を担ってきたために、株主から「社長が営業部長の域を脱していない」という懸念を持たれ、交代を突き付けられることがあるそうなので、社長や経営陣には、会社の成長とともに、自分をアップデートし続けることが求められるということを説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、経営者は常に「人の問題」と向き合い続けなければならないということについて述べておられます。「『人の問題』は、経営をしていく以上、会社がどれほど大きくなっても、社長には常について回るものです。では、自分一人だけで経営をするべきなのでしょうか?もちろん、個人事業主等、一人でやるかどうかは、トップの意志次第なので、何ら否定はしません。“If you want to go fast , go alone .If you want to go far , together .”(早く行きたいなら一人で行け、遠くまで行きたければ仲間と行け)という言葉があります。
実際、仲間とともに歩むことで、一人では成しえない大きなゴールに向かうこともできます。違う強みを補完し合い、苦しいときも支え合い、一人で達成するのとは違う達成感を味わうこともできるでしょう。社員の皆さんは、貴重な人生を費やして、同じ船に乗ってくれる仲間であり、クルーです。関わってくれている人には家族もいれば、周りにも人がいます。その人たちの人生を預けてくれていると考えれば、感謝しかありません。
ただし、それに甘えてばかりでは、経営はできない。いてくれる人だけで満足してはダメで、全体が沈没しては意味がない以上、船全体の最適を考えて、乗組員を変えていくことも求められるのです。このように、人の問題は、悩みの源泉であり、同時に経営の醍醐味の一つでもあります。思想に共感してくれる仲間が一人でもいるなら、社長としては喜び以外の何物でもない。どこまで行ったら完成というものではなく、より良くし続けるしかないのです」(142ページ)
事業活動は組織的な活動ですから、「人の問題」は社長につきまとうことは極めて当然のことです。このことに疑いを持つ経営者は、まず、いないと思うのですが、その一方で、例えば、新入社員が定着しないなど、人の問題に頭を悩ませている経営者の方も少なくないと、私は感じています。その要因は、例えば、「自分は営業が得意なので、その能力を活かして起業したい」とか、「自分は機械の設計が得意なので、差別化した機械を製造する会社を起業したい」と考える経営者は多いものの、「自分は、人心掌握が得意なので、起業してチームワークのよい組織をつくり、競争力を高めよう」と考えて起業した経営者の方は、ほとんどいないのではないかと思います。
すなわち、人の問題は重要だと認識している経営者は多いものの、人の問題を解決する能力を十分に備えている経営者は、あまり多くないと、私は考えています。しかし、起業してから、その重要性に気づき、人の問題を解決するために力を注ぐ経営者の方もたくさんいますが、人の問題を苦手としたまま、極端な例では、人手不足倒産に至ってしまう会社もあるようです。
では、どうすればよいのかといえば、それを解決するためのひとつの鍵は、徳谷さんがご指摘しておられるように、「人の問題は、悩みの源泉であり、同時に経営の醍醐味の一つでもある」と考えることではないかと思います。また、「早く行きたいなら一人で行け、遠くまで行きたければ仲間と行け」という格言についても徳谷さんがご紹介しておられますが、自社を継続的に発展させたいと考えるのであれば、経営者の方は、人の問題を直視して、これを最重要課題と認識して対処していかなければならないと考えることができるようになるのではないでしょうか?
2024/9/25 No.2842