鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

完全主義よりも最善主義

[要旨]

会社の経営資源は限られていることから、経営者の方が、ひとつのことに完全さを求めると、ほかのことが犠牲になり、全体として失敗してしまうことがあります。したがって、個々の課題は100点をとれなくても、全体として最大の点数が得られるようにしようとする考え方が大切です。


[本文]

私立大学退職金財団の広報誌に、翻訳家の成瀬まゆみさんの、完全主義と最善主義に関する寄稿がありました。成瀬さんによれば、「完全主義者は、失敗を拒否する、つらい感情を拒否する、成功を拒否する、現実を拒否する」そうです。一方、「最善主義者は、失敗を受け入れる、つらい感情を受け入れる、成功を受けいれる、現実を受け入れる」そうです。成瀬さんご自身も、「かつては完全主義者であったものの、最善主義の考え方を知ったあとは、理想を掲げるだけでなく、現実を受け入れる大切さもわかり、その結果、より人生を楽しめるようになってきた」そうです。

私も、成瀬さんと同じような考え方を持っています。ただし、成瀬さんは心理学的なアプローチで最善主義をご説明されておられますが、私は、ビジネス的なアプローチから、そう考えるようになりました。ビジネスの現場では、特に中小企業では、経営資源は常に不足気味なので、経営者の方が求めるものは、なかなか手に入れることはできません。このことは、ほとんどの方がそう考えていると思うのですが、実際には完全主義的な考え方で行動してしまう経営者の方も少なくないと、私は感じています。

例えば、部下の能力が低い、銀行は希望通りに融資をしてくれない、自社の技術では、顧客から要求される品質の製品をつくることが難しいなど、不満を持ってしまうことは、しばしば見られます。しかし、前述のように、ビジネスの現場で100点をとることは、ほぼないし、それが現実でしょう。そうであれば、ひとつのことで100点にこだわることの意味は、あまりないでしょう。ただ、100点をとれなくても、限られた条件の中で、「最善」の結果を得ることを目指すことは大切でしょう。これが最善主義だと、私は考えます。

一方、私が問題だと考えることは、ひとつのことに完全さを求め、そのことによって全体として失敗してしまうことです。例えば、顧客からの満足を得ることにこだわりすぎた結果、従業員を酷使し、退職者を増やしてしまようなことになれば、事業そのものが継続困難になってしまいます。事業活動は、限られた経営資源による制約を受ける中で、どこで「最善の」折り合いをつけるかが最も大切であるという観点を忘れないことが、成功につながる鍵になると、私は考えています。

2021/11/16 No.1798

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