鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

売上はプロセスで利益は目的

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、利益が絶対の目的であり、売上はそのプ口セスと考え、月次で利益を管理しているそうです。さらに、利益総額ではなく、採算の悪い部門については取扱をやめ、無駄なコストが発生しないようにしているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、利益を最大化するためには、ロングセラーを前提に商品を開発すべきであり、なぜなら、次々に新商品を開発すると、売上も増加しますが、その開発コストや販売コストも増えるため、利益が減ってしまうからだということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、売上はプロセスで利益は目的であるということについて述べておられます。「会社を利益体質に変えるには、利益目標を設定することだ。無収入寿命でもいい。多くの人は昨日の続きの仕事をやって、いつかゴールにたどり着くと考える。だが、今までと同じように歩いてもゴールにはたどり着かない。目的地を設定するから軌道修正も可能になる。

同じことを続けていいのか、仕事の優先順位ややり方を変える必要仕ないのか、徹底的に自分に問う必要がある。だから、利益目標の設定を毎月、見直す。利益につながらない仕事を見つけたらやめる。このときグロスで利益を見るだけでは足りない。業務ごとに利益を管理する。業務ごとに採算が合っているかを見て、合っていないところはすベて切る。多くの人が『そうすると、売上が下がってしまうのではないか』と言うが、そもそも売上を求めなくていい。

コストは、何でも削減すればいいわけではない。適切な投資はするべきだ。ただし、施策と利益との関連性は常に数字で評価ずる。(中略)これを怠って施策を楽観的に評価するとすぐ赤字になる。『この広告を打つことで、いつか利益が上がるだろう』と期限も根拠もないことを言ってはいけない。売上と利益は対比するものではない。利益が絶対の目的であり、売上はそのプ口セスだ」(72ページ)

木下さんの「売上はプロセスで利益は目的である」というご指摘については、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、実際には、売上を目的に事業活動が行われていることが多いと、私も感じています。その理由として私が考えているものの1つ目は、売上と比較して、利益と費用は、すぐに把握することが難しいということが挙げられます。その詳細な説明は割愛しますが、商品の販売に要した費用は、複数あり、かつ、複雑に計算しなければ確定しないためです。

理由の2つ目は、利益だけでなく、売上でさえリアルタイムに把握していないからだと思います。とはいえ、売上は来店客数の多さ、契約数の多さなどによって、肌感覚で把握できるので、そういった肌感覚で増えればそれでよいと考えている経営者の方も多いのではないかと思います。

しかし、売上のすべてが利益に貢献しているとは限らないし、場合によっては、不採算の取引が含まれていることもあります。しかし、利益に貢献している売上を直ちに見分けることが難しいので、売上を増やせば利益が増えると言う前提で活動をしてしまうことが多いのだと思います。

すなわち、木下さんの「売上はプロセスで利益は目的である」というご指摘は、利益をリアルタイムで把握することで実践できる考え方であり、利益をリアルタイムで把握するスキルや労力がない会社は、売上を得るというプロセスだけを繰り返すことになり、正確に目的までたどりつくことができなくなっているということだと思います。

ちなみに、ニトリでは、同社会長の似鳥昭雄さんが、月次で収益を把握していては、対応が遅すぎると考え、週次で収益を把握するシステムを自社で開発したそうです。私は、中小企業では、月次の把握で十分だと考えていますが、利益を得るには、業績を迅速に把握することは欠かせないということに間違いはないと思います。

2026/4/22 No.3416

 

『多産多死』ではなく『少産少死』

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、利益を最大化するためには、ロングセラーを前提に商品を開発すべきということです。なぜなら、次々に新商品を開発すると、売上も増加しますが、その開発コストや販売コストも増えるため、利益が減ってしまうからだということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、例えば、広告宣伝費を多くかければ売上は増えるけれど、営業利益は下がることから、原価や販管費をいくらかけてもいいというわけではないので、利益を増やすためには、闇雲に売上を増やすのではなく、費用の管理を行うことが欠かせないということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、ロングセラーの商品を開発することが大切だということについて述べておられます。「『売上最小化、利益最大化』を目指すには、まず『少産少死』の経営を徹底する。商品・サービスを『少産少死』にすること。商品は一生売り続けるつもりで開発する。ダメになったら廃番にしようと考えず、ロングセラー前提で商品開発を行う。この反対が『多産多死』の経営だ。『多産多死』の経営は流行りの商品を次々に出す。

一つの商品に依存せず、いつも商品が入れ替わって売上が立つ仕組みになっている。人は新しいものに興味を持ちやすい。新しいだけで魅力的だ。その点で勝負するには、常に新しいものをつくり続けなくてはいけない。だから、『多産多死』の経営はコスト高になる。販売形態によってもコストは大きく変わる。当社は通販しかやっていない。しかし売上を最大化するため、通販と店頭販売の両方をやる会社が多い。こうした会社のほとんどは、どちらかが赤字になっている。

私なら黒字事業に特化し、赤字事業をやめる。経営者の中には、『通販と店頭販売をやることで宣伝になる、相乗効果がある』と言う人がいる。しかし、利益率は低くなる。両方やるとオペレーションも2種類必要になるから社員教育やノウハウの蓄積などにコストがかかり、利益を圧迫する。なぜ利益が少なくなるのに、多くの会社が通販と店頭販売の同時展開をやめられないのか。売上志向だからだ。利益を起点に考えていないので、売上が上がることに手を出してしまう」(69ページ)

私は、木下さんの考え方に、80%賛成です。それは、ロングセラー商品がある会社は、木下さんがご指摘しておられるように、コストが少なくて済むからです。ロングセラー商品はコストがかからないということは感覚的にご理解されると思いますが、詳細な説明は割愛しますが、ボストンコンサルティンググループ(BCC)が開発した、プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)は、ロングセラー商品を育てることを目的とするマネジメントツールです。

ですから、「利益を得ること=コストを少なくすること」と考えれば、基本的に、ロングセラー商品を取り扱うことが基本と言えることに間違いはありません。しかし、会社の中には、経営環境の変化によって、自社商品の需要が減少する例は少なくありません。例えば、日本を代表する鉄道会社の東日本旅客鉄道は、2025年7月に経営ビジョンを公表しています。これによれば、営業利益に占める運輸事業の割合は、2025年度は約46%でしたが、2031年度には約36%にすることを目標としています。

すなわち、同社は、鉄道会社であるにもかかわらず、すでに運輸事業の利益が半分を下回っていますが、6年後には、それが約3分の1にまで下げることを目指しています。このような判断は、業種により異なりますが、ロングセラー商品だけに頼り過ぎることは、リスクが高い面もあるため、常に経営環境の変化に対応できるよう、別の商品を開発することも必要だと、私は考えています。

2026/4/21 No.3415

 

売上10倍はリスク10倍を意味する

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、例えば、広告宣伝費を多くかければ売上は増えるけれど、営業利益は下がることから、原価や販管費をいくらかけてもいいというわけではないので、利益を増やすためには、闇雲に売上を増やすのではなく、費用の管理を行うことが欠かせないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんは、多くの経営者は「売上を上げるには投資が必要」と思い込み、手元資金がないのに銀行などから借入をして設備投資をしてしまうが、手元資金がないのに借金して投資することは、永続的経営とは言えないと批判しておられるということについて書きました。

これに続いて、木下さんは、売上が10倍になれば、リスクも10倍になるということについて述べておられます。「利益が同じ場合、売上が多いほうがリスクは大きい。経営していると実感するが、想定外のアクシデントは常に起きる。そしてアクシデント量は利益ではなく売上に比例する。商品数、顧客数などが多いからだ。売上10倍はリスク10倍を意味する。私が経営において大事にしているのは、顧客満足度を高めることだ。お客様に100%満足していただければ、永続的経営に近づく。

しかしながら、売上を上げたい一心でやみくもにお客様を増やすと、一人ひとりの顧客満足度を高める施策に力が注げない。売上が上がり、仕事が増え、従業員が増え、会社の規模が大きくなる。これは一般的によいこととされる。だが、その分アクシデントも増え、管理の手間も増え、やりたいことに注力できなくなる。規模が大きくなることは、必ずしもいいことばかりではない。

本業の販売活動から得た利益を表すのが『営業利益』だ。営業利益に対して原価や販管費がどれくらいかかっているかを見ることで、企業がどのくらい適切に投資しているかを判断できる。広告宣伝費を多くかければ売上は増えるが、営業利益は下がる。だから原価や販管費をいくらかけてもいい、というわけではない。営業利益に対して原価や販管費が高い場合、無駄なコストを払っている可能性が高い。

当社のようなネット通販の場合、広告費を無限に使えたら売上も無限に上がる。売上100億円を達成したければ、広告投資を大量にすればいい。だが、利益は上がらない。だから、管理が重要だ。現在は常時約5,000本の広告を出稿しているが、そのパフォーマンスを毎期確認している。採算が合わない広告はやめ、採算が合う広告だけが残っでいく」(65ページ)

一般的には、会社を永続的に経営するには、売上を増やし続けることだと考えられていると思います。これは必ずしも間違っているわけではないのですが、木下さんもご指摘しておられるように、売上が増えても、それに比例して営業利益が増えるとは限らないことも多いようです。そこで、売上ではなく利益を増やすことを目指せばよいということになるのですが、これは意外と難しい面があります。

というのは、売上をいくら得たかを直ちに把握することは容易なのですが、それと比較して、その売上を得るために要した費用を直ちに把握することは難しいという面があります。その理由の主なものは、売上を得るには多くの種類の費用があり、売上の増加に要した費用を特定することは詳細な分析が必要という面があるからです。そこで、多くの場合、「売上が増えれば利益も増える」という前提で、売上を増やすことに注力されることが多いのだと思います。

しかし、そのような方法では、せっかく売上を増やしても、利益が増えないという結果になってしまうことが起きる余地が大きくなります。そのようなことを防ぐため、木下さんの会社では、「常時約5,000本の広告を出稿しているが、そのパフォーマンスを毎期確認している」など、費用の管理に注力しているのでしょう。確かに、費用の管理には労力を要します。しかし、費用を管理することで、闇雲に売上を増やす方法よりも、確実に利益を得ることができ、長期的には労力を最小化できると思います。

2026/4/20 No.3414

 

ダム式経営で永続的経営を目指す

[要旨]

北海道の特産品などの通信販売を営む、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、多くの経営者は「売上を上げるには投資が必要」と思い込み、手元資金がないのに銀行などから借入をして設備投資をしてしまうが、手元資金がないのに借金して投資することは、永続的経営とは言えないと批判しておられます。


[本文]

北海道の特産品などの通信販売を営む、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を拝読しました。木下さんは、同書で、ダム式経営について述べておられます。「無収入寿命の考え方は、家計を預かる人の立場で考えたら、当たり前のことだろう。働き手が何らかの理由で失業してしまった。突然、会社がつぶれてしまった。こうしたアクシデントに備え、生活費を貯めているだろう。

4人家族の平均的な1か月分の生活費を家賃込で40万円程度とした場合、預貯金が400万円あれば、無収入寿命は『10か月』となる。預貯金がほとんどない状態(無収入寿命が1か月など)なら、借金してまで住宅や自動を買わないだろう。だが、会社では平気でそれをやる。多くの経営者は『売上を上げるには投資が必要』と思い込み、手元資金がないのに銀行などから借入をして設備投資をする。

家計では絶対やらないのに、経営でやってしまうのは、『経営には力ネがかかる』、『投資が必要』という思い込みがあるからかもしれない。また、多くの経営者は、在庫などの棚卸資産の適正処分ができない。棚卸資産があると、損益計算書(P/L)上は儲かっているように見える。儲かっているように見せないと、銀行から融資が受けられない。そもそも銀行から借入しようと思わなければ、そうする必要もない。悪循環なのだ。

手元資金がないのに借金して投資するのは、はたして『永続的経営』なのだろうか。無収入寿命をのばすという考え方は、パナソニックの創業者・松下幸之助氏が言う『ダム経営』と同じだ。松下氏はある講演でこう語った。『好景気だからといって、流れのままに経営するのではなく、景気が悪くなるときに備えて資金を蓄える。ダムが水を貯め、流量を安定させるような経営をすベきだ』(1965年2月の講演)

聴衆の一人が、『ダム経営の大切さはわかるが、そのやり方がわからないから困っているんですよ』と尋ねた。松下氏は、『まず、ダムをつくろうと思わんとあきまへんなあ』と答えた。聴衆は落胆したり、顔を見合わせて苦笑したりした。しかし、『これをやったから松下は大企業になったのだ』と気づき、実践した人がいた。京セラ、第二電電(KDDI)を創業し、日本航空の経営を再建した、あの稲盛和夫氏だった」(29ページ)

稲盛さんが松下さんの話をきいて、身体中に電撃が走ったというエピソードは、稲盛さんのご著書、「働き方-『なぜ働くのか』、『いかに働くのか』」に書かれていて、あまりにも有名です。そして、これに従って、木下さんはダム式経営(木下さんは「ダム経営」と書いておられますが、稲盛さんのご著書には「ダム式経営」と書かれています)を実践しておられるようです。具体的には、木下さんが経営しておられる北の達人コーポレーションでは、無収入寿命を24か月にしているそうです。

無収入寿命とは、売上がなくなっても事業活動を続けることができる期間のことで、それは、手元資金が月額固定費の何倍あるかで計算できます。同社では、無収入寿命を24か月に維持しているということは、2年分の固定費を現預金にしているということになります。ここで私が注目したことは、木下さんは、「手元資金がないのに借金して投資するのは、はたして『永続的経営』なのだろうか」ということばです。

すなわち、木下さんは、24か月分の月額固定費がたまってから、新たな設備投資を行うということです。これを言い換えれば、24か月分の月額固定費を貯めることを、設備投資に優先しています。このような木下さんの考え方には、賛否が分かれると思います。私は、基本的には木下さんに賛成しますが、手元資金は24か月分までは必要がないと思っています。

でも、木下さんの、「多くの経営者は『売上を上げるには投資が必要』と思い込み、手元資金がないのに銀行などから借入をして設備投資をする」という批判は注目すべきだと思います。これは、経営者の多くは、事業活動をすることを目的にしていて、「永続的経営」への関心が薄いということを批判しているのだと思います。私は、手元資金を厚くしさえすればよいとは思いませんが、経営を長く続けることを優先しているという木下さんの考えは、現在の経営環境が不透明な時代には大切な考え方だと思っています。

2026/4/19 No.3413



株主・従業員・社会のバランスが大切

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、会社を持続的に成長させるうえで重要なことは、「三面鏡経営」を実践することだそうです。これは、資本市場(株主)だけでなく、従業員(雇用)や社会を加えた3つの鏡で自社の行動を映しながら、中長期の観点で価値を創造する経営のことだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんは、アスクルを経営していたとき、「小アスクル」、すなわち、社員だけでは事業活動は成り立つことはできず、「大アスクル」、すなわち、物流センターで働く契約社員、派遣社員、お客様の開拓と与信・回収を担うエージェント、商品を開発・製造し提供するサプライヤ―、お客様のもとに商品を運ぶ物流パートナーなどによって事業活動は成り立っていると考え、これらステークホルダーとの関係を重視していった結果、業績を高めることができたということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、会社を持続的に発展させるためには、資本市場、従業員、株主との3者のバランスをとることが大切だということについて述べておられます。「自ら企業を経営し、さまざまな企業を見てきたなかで痛切に感じることは、企業を持続させることの難しさです。急成長を遂げて脚光を浴びても、数年後には失速していく企業は枚挙に暇がありません。企業を持続的に成長させるうえで私が重要だと考えているのは、『三面鏡経営』を実践することです。

これは、経済同友会の社会的責任経営委員会の委員長を務めていた2009年に、経済同友会からの政策提言で言及したキーワードです。簡単にいうと、『資本市場(株主)』だけでなく、『従業員(雇用)』や『社会』を加えた3つの鏡で自社の行動を映しながら、中長期の観点で価値を創造する経営のことです。本来の持続可能な経営を目指すには、『資本市場(株主)』という鏡だけでなく、さまざまな角度から自らの姿を映すことができるバランスの取れた鏡、いわば『三面鏡』によって自らの行動を映し、どの鏡で見ても良い顔になるように努めること。すなわち、『三面鏡経営』を実践することが重要である。

私は、そう考えてアスクルを経営してきました。『従業員(雇用)』についていえば、『雇用の安定に向けた努力』、『真の女性活用』、『従業員への配分』の3つが重要です。『雇用の安定に向けた努力』は、人件費を抑制するために非正規雇用に頼り過ぎるのではなく、可能な限り、正規雇用を優先することを社会的責任のひとつとして認識すること。

『真の女性活用』では、仕事と育の両立のための環境を整備し、本格的に女性管理職を育成・登用すること。近年は女性活用に積極的な企業が増えましたが、諸外国と比ベるとまだまだ女性の労働参加率が低いのが実状です。今後の労働力人口の低下を考えでも、さらに女性を活用することが重要になってくるでしょう。『従業員への配分』に関しては、業績向上で生み出した利益を、株主だけでなく、従業員にも配分していくことが重要です。従業員の賃金や教育を、コストではなく『将来への投資』と捉える発想の転換が必要です。

『社会』に関しては、環境問題ヘの対応や格差の拡大ど、山積する社会問題の解決に取り組むことが大切です。社会が健全でなければ、企業の存続が難しくなります。また、社会問題に正面から取り組めば、社会的価値やプランド価値の向上につながりますし、新たな価値創造に結び付く種の発掘にもなります。理想的には、本業でステークホルダーとの協働によってイノベーションを起こして価値を創造し、『企業益』を出すと同時に、未来の社会に向けての『社会益』を生み出す。

このような『社会益共創企業』を目指すことが、自社の持続的な成長につながることはもちろん、持続可能な社会をつくることにもつながります。創業したてのスタートアップや、赤字経営に苦しむ中小企業の経営者は、社会のことまで考える余裕はないかもしれません。しかし、自社の状況にかかわらず視座を高く持つことができる経営者こそが企業を成長に導けるし、日本を引っ張っていけると私は考えています」(265ページ)

事業活動で得た利益は、株主への還元を増やせば従業員への配分は減るので、株主と従業員は対立する関係にあると言えます。また、環境問題や社会格差へ配慮した事業活動を行うことは、会社の負担を大きくすると考えることもできます。しかし、長期的な視点に立てば、従業員への処遇が悪い会社は業績を悪化させるし、社会への配慮が少ない会社は、経営環境を悪化させているということは、岩田さんのご指摘の通りです。したがって、株主、従業員、社会は、対立する関係ではなく、バランスをとりながら資源配分などを行っていくことで、会社を持続的に発展させることになるわけです。

では、どのようにそのバランスをとればよいのかというと、私は、まず、バランススコアカード(BSC)を使うことが効率的だと考えています。その代表例は、BSCを導入して、業績を黒字転換させた米国のサウスウェスト航空です。同社では、BSCによって従業員満足度を高める戦略をとり、それが顧客に提供するサービスの質をたかめることで業績を伸ばしました。また、同社は、大手の航空会社と異なり、ハブ空港(拠点空港)ではなく、主に地方空港間の直行便を運航し、地方都市の利便性を高めていることも特徴です。

繰り返しになりますが、経営者としては、業績を高めたいと考えることは当然ですが、現在は、株主からの評価ばかりに気をとられ過ぎると、かえって業績を悪化させるという認識が広まっていると思います。例えば、2023年3月から、上場会社には人的資本の開示が義務化されましたが、これは、人材投資など従業員への対応が不足する会社は業績を高めることができないという認識が広がっていることの現われだと思います。すなわち、従業員を重視しない会社は、株主からも評価されなくなってきているということです。

ただ、ここでもうひとつの課題があると、私は考えています。というのは、人材投資を行って業績を高めるという手法は、難易度が高いということです。それなりに経営者に人材育成や組織開発のスキルが必要ですし、また、それらの働きかけの効果が表れるまでには時間を要するからです。このような観点から、経営者のマネジメントスキルが大きく問われる時代になっていると言えます。

2026/4/18 No.3412

 

サプライチェーンの全体最適を目指す

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんは、同社を経営していたとき、「小アスクル」、すなわち、社員だけでは事業活動は成り立つことはできず、「大アスクル」、すなわち、物流センターで働く契約社員、派遣社員、お客様の開拓と与信・回収を担うエージェント、商品を開発・製造し提供するサプライヤ―、お客様のもとに商品を運ぶ物流パートナーなどによって事業活動は成り立っていると考え、これらステークホルダーとの関係を重視していった結果、業績を高めることができたということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、かつて、同社の名古屋の物流センターの設備の不具合により稼働停止になったとき、東京の本社の従業員の方、約100人が、自主的に「義勇軍」として、終業後に新幹線で名古屋に向かい、ピッキング作業などの支援を行いましたが、これは同社がラグビー型組織になっているから実現したことであり、このような組織づくりは一朝一夕にはできないことから、経営者の方は早めに組織づくりに取り組まなければならないということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、事業活動は自社の従業員だけでなく、ステークホルダーも含めて行われていると考えているということについて述べておられます。「アスクルを経営していた時、私がよく口にしていた言葉に、『大アスクル』、『小アスクル』があります。『小アスクル』は社員です。小アスクルだけでは、アスクルは成り立ちません。

物流センターで働く契約社員さんや派遣社員さん、お客様の開拓と与信・回収を担うエージェントさん、商品を開発・製造し提供するサプライヤーさん、お客様のもとに商品を運ぶ物流パートナーさんなどを含めた『大アスクル』によって、アスクルは成り立っている、という意昧を込めた言葉です。アスクルの社員でなくても『大アスクル』の一員だと、言葉でいっていただけではありません。具体的な行動に移していました。たとえば、会社のクリスマスパーティには、社員や契約社員さんだけでなく、派遣社員さんやそのご家族もご招待しました。同じ大アスクルの一員として感謝の気持ちを伝えるためです。

私はサンタクロースの格好をして、執行役員たちも仮装して、ご招待した方たちへのささやかなお土産を総出で袋詰めしたり、会場をセッティングしたりと、ホスト役として皆さんをおもてなししていました。年1回、優秀な成績を収めたエージェントさんを表彰する『エージェントアワード』も開催していました。ホテルでのパーティ形式で、法人エージェントさんとエージェントさんのアスクル担当営業職個人の双方を表彰、賞金をお渡ししました。

また、物流会社のドライバーの方が、引っ越したばかりのお客様に商品を届けた際に、送り状の住所が以前のものになっていたのを見て、自分の配達エリアを越えて新居に届けてくださったことがあり、その方を表彰したこともあります。これらの取り組みは、少なからずコストがかかることです。しかし、それによって、派遣社員さんやエージェントさんなどのモチベーションをあげられることを考えれば、決して惜しくはないコストだと私は考えます」(246ページ)

私がこれまでご縁をいただいた中小企業の中には、事業活動に関わる会社との間で親睦会のような任意の組織をつくり、そのメンバーで忘年会や慰労会を開いたり、旅行に行ったりして、関係を深める活動を行っている例は珍しくありませんでした。そのような会社の経営者の方が、どれくらい意図していたかはわかりませんが、岩田さんと同じような考えをお持ちになり、関係強化を図っていたのだと思います。

とはいえ、ここでは、仕入先の会社や外注先の会社と関係を強化することが望ましいということだけを述べようということではありません。現在のような経営環境が複雑化しつつある状況においては、自社が直接雇用している従業員だけでなく、仕入先、外注先、銀行、株主、地域社会、自治体などのステークホルダーの重要性が増しているということです。一般的に、会社組織というと、役員と従業員で構成されていると考えられがちです。

それは、委任契約、雇用契約など、法律で明確な関係があるからでしょう。しかし、事業活動は仕入先や外注先などのステークホルダーの参加も必要であり、さらに、そのステークホルダーは役員、従業員と同じくらいの深い関係と協力が必要になっています。アスクルの場合、岩田さんは、商品を提供してくれるメーカーに対しては、採算が得られるものとなるように取引をしていたことから、メーカーから厚い協力を得ることができ、それがヒット商品の開発につながってきたのだと思います。

これは、サプライチェーンの観点から見れば、商品を販売する会社だけが利益が得ることができればよいという部分最適の考え方ではなく、商品を開発・製造するメーカーも利益が得られるようになる、すなわち、サプライチェーンの全体最適の考えによるものでしょう。そして、アスクルの利用者からみれば、よい商品を迅速に低価格で提供してもらえることを評価しているわけですが、それを実現するには、アスクルだけの利益ではなく、メーカーや物流会社も含めたサプライチェーンの全体最適が実現している方が、それを容易に行うことができると思います。

そこで、岩田さんは「大アスクル」という考え方に基づいて、ステークホルダーの全体最適を目指すことを通して、アスクルの業績も高めてきたのだと思います。現在も、一部には、仕入先や外注先との取引条件を厳しくして、自社の利益を増やそうとする会社も残っていますが、そのようなことをしても、一時的には利益を増やすことはできても、長期的には業績は頭打ちになるでしょう。

2026/4/17 No.3411

 

自律的組織は一朝一夕にはつくれない

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、かつて、同社の名古屋の物流センターの設備の不具合により稼働停止になったとき、東京の本社の従業員の方、約100人が、自主的に「義勇軍」として、終業後に新幹線で名古屋に向かい、ピッキング作業などの支援を行いましたが、これは同社がラグビー型組織になっているから実現したことであり、このような組織づくりは一朝一夕にはできないことから、経営者の方は早めに組織づくりに取り組まなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんがアスクルの社長時代、会社内での知識やノウハウの共有も大切と考え、例えば、MDの合宿を行い、今のカタログに対して顧客がどう評価をしていて、その結果がどのような数字になっているか、それを踏まえて次のカタログの企画をどうするかを、200~300人の前で発表してもらって、知識やノウハウを共有するとともに、優秀な発表をしたMDを表彰し、モチベーションアップも図っていたということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、物流倉庫に不具合があったときは、本社の従業員の方が支援をしていたということについて述べておられます。「アスクルは、社名の通り、『明日来る』をお客様との約束にしていましたが、まれに、設備の不具合などで、物流センターがストップすることがありました。その時、本社の社員が『義勇軍』として、自主的に手伝いに行ってくれたのです。名古屋のセンターがストップした時は、終業後に100人ほどが東京から新幹で名古屋に向かい、夜中に商品のビッキングを手伝って、翌朝に現場の人に引き継いで帰る、といったことをしてくれました。

有志が集まった急ごしらえのメンバーなので、リーダーシップをとる人は自然発生的です。物流部門の社員から管理部門の社員まで、皆が自主的に手を挙げてリーダーを決めていました。役員も現場の若い係長クラスの社員の指示に従い、全員が一丸となって物流センターのビンチを乗り切ったのです。会社のために、今、自分が何をすベきか、何ができるかを考えて行動するのはまざにラグビー型組織です。

埼玉県の物流センターの大火災が起きた時も、のべ約4,600人の社員が物流センターに『義勇軍』として入り、出荷作業をしてくれました。もちろん、『義勇軍』は社員に時間外労働をしてもらう行為なので、残業代も支給しましたし、代休を取得できるようにもしました。ただ、参加した社員の評価は高くし、参加しなかった社員の評価は低くするといったことはせず、人事評価にはいっさい反映させませんでした。

介護、子育て、体調など、さまざまな理由で参加できない社員もいます。もしかすると社員のなかには、当事者意識を感じて自主的に参加したのではなく、周囲の人が行くので仕方なく参加していた人もいたかもしれません。しかし、現場で働く『義勇軍』を見ていると、モチベーションが高く、嬉々として働いていました。そうやって大勢の社員が自主的に動き、楽しそうに働いてくれたことは、率直にいって、とても嬉しいkとでした。

また、スタッフ部門の社員が『義勇軍』に参加することで、日常では触れることのない物流センターの業務やその大変さを知り、自分の業務に活かせるようになったり、部署や役職に関係なく協力して作業をすることで社員同士の横のつながりができたりと、副次的な効果もあったようです。振り返ってみると、ラグビー型組織をつくるのは簡単にはいかないと感します。

オフィスをフラットにしたり、役職をなくしたりするぐらいでは、そうした組織はつくれないでしょう。週1回の朝礼を20年以上続けたり、さまざまな立場のスタッフが『知を共有する仕組み』を回したりと、経営者も社員も意識し続けながら時間と労力をかけて、ようやく実現することだと思います。また、他の会社を見ていて思うのは、創業当初に生まれた自律的な組織の文化が崩れていくのはあっという間だということです。組織が成長し始めたら、早い段階から取り組んだほうがいいと思います」(226ページ)

アスクルの「義勇軍」については、他社でも同様のことが行われることは珍しくないと思います。ある会社のある部門がピンチになったとき、他の部門がその部門を助けるということは少なくないでしょう。しかし、岩田さんがお伝えしようとしていることは、東京にある本社の従業員の方が名古屋の物流センターの義勇軍になったことは、そのほどんどが会社からの指示ではなく、自らの意思だったということだと思います。

というのは、アスクルの「義勇軍」では、「自主的に手を挙げてリーダーを決め」て支援を行ったり、「役員も現場の若い係長クラスの社員の指示に従」ったりしたというのは、「明日来る」という提供価値を維持するという志のもとに活動しているのであり、会社や上司の指示という面は薄いでしょう。そして、大切なことは、このような活動ができる組織が「ラグビー型組織」であり、そのような組織は一朝一夕ではつくることができないので、経営者の方が時間と労力をかけなければならないということだと思います。

この役目は、アスクルでは社長であった岩田さんが担ったわけですが、繰り返しになりますが、時間と労力を要することであるから、岩田さんはご著書で、「組織が成長し始めたら、早い段階から取り組んだほうがいいと思」うと強調しておられるのでしょう。アスクルが競争力の高い会社になったのは、「明日来る」という提供価値をつくっているからであり、その提供価値をつくるのは、ラグビー型組織であり、そのラグビー型組織をつくったのは岩田さんを始めとした経営者だということです。ただ、組織づくりという課題は難易度が高いために、それに消極的である経営者の方も少なくないと、私は感じています。

2026/4/16 No.3410