鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

サプライチェーンの全体最適を目指す

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんは、同社を経営していたとき、「小アスクル」、すなわち、社員だけでは事業活動は成り立つことはできず、「大アスクル」、すなわち、物流センターで働く契約社員、派遣社員、お客様の開拓と与信・回収を担うエージェント、商品を開発・製造し提供するサプライヤ―、お客様のもとに商品を運ぶ物流パートナーなどによって事業活動は成り立っていると考え、これらステークホルダーとの関係を重視していった結果、業績を高めることができたということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、かつて、同社の名古屋の物流センターの設備の不具合により稼働停止になったとき、東京の本社の従業員の方、約100人が、自主的に「義勇軍」として、終業後に新幹線で名古屋に向かい、ピッキング作業などの支援を行いましたが、これは同社がラグビー型組織になっているから実現したことであり、このような組織づくりは一朝一夕にはできないことから、経営者の方は早めに組織づくりに取り組まなければならないということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、事業活動は自社の従業員だけでなく、ステークホルダーも含めて行われていると考えているということについて述べておられます。「アスクルを経営していた時、私がよく口にしていた言葉に、『大アスクル』、『小アスクル』があります。『小アスクル』は社員です。小アスクルだけでは、アスクルは成り立ちません。

物流センターで働く契約社員さんや派遣社員さん、お客様の開拓と与信・回収を担うエージェントさん、商品を開発・製造し提供するサプライヤーさん、お客様のもとに商品を運ぶ物流パートナーさんなどを含めた『大アスクル』によって、アスクルは成り立っている、という意昧を込めた言葉です。アスクルの社員でなくても『大アスクル』の一員だと、言葉でいっていただけではありません。具体的な行動に移していました。たとえば、会社のクリスマスパーティには、社員や契約社員さんだけでなく、派遣社員さんやそのご家族もご招待しました。同じ大アスクルの一員として感謝の気持ちを伝えるためです。

私はサンタクロースの格好をして、執行役員たちも仮装して、ご招待した方たちへのささやかなお土産を総出で袋詰めしたり、会場をセッティングしたりと、ホスト役として皆さんをおもてなししていました。年1回、優秀な成績を収めたエージェントさんを表彰する『エージェントアワード』も開催していました。ホテルでのパーティ形式で、法人エージェントさんとエージェントさんのアスクル担当営業職個人の双方を表彰、賞金をお渡ししました。

また、物流会社のドライバーの方が、引っ越したばかりのお客様に商品を届けた際に、送り状の住所が以前のものになっていたのを見て、自分の配達エリアを越えて新居に届けてくださったことがあり、その方を表彰したこともあります。これらの取り組みは、少なからずコストがかかることです。しかし、それによって、派遣社員さんやエージェントさんなどのモチベーションをあげられることを考えれば、決して惜しくはないコストだと私は考えます」(246ページ)

私がこれまでご縁をいただいた中小企業の中には、事業活動に関わる会社との間で親睦会のような任意の組織をつくり、そのメンバーで忘年会や慰労会を開いたり、旅行に行ったりして、関係を深める活動を行っている例は珍しくありませんでした。そのような会社の経営者の方が、どれくらい意図していたかはわかりませんが、岩田さんと同じような考えをお持ちになり、関係強化を図っていたのだと思います。

とはいえ、ここでは、仕入先の会社や外注先の会社と関係を強化することが望ましいということだけを述べようということではありません。現在のような経営環境が複雑化しつつある状況においては、自社が直接雇用している従業員だけでなく、仕入先、外注先、銀行、株主、地域社会、自治体などのステークホルダーの重要性が増しているということです。一般的に、会社組織というと、役員と従業員で構成されていると考えられがちです。

それは、委任契約、雇用契約など、法律で明確な関係があるからでしょう。しかし、事業活動は仕入先や外注先などのステークホルダーの参加も必要であり、さらに、そのステークホルダーは役員、従業員と同じくらいの深い関係と協力が必要になっています。アスクルの場合、岩田さんは、商品を提供してくれるメーカーに対しては、採算が得られるものとなるように取引をしていたことから、メーカーから厚い協力を得ることができ、それがヒット商品の開発につながってきたのだと思います。

これは、サプライチェーンの観点から見れば、商品を販売する会社だけが利益が得ることができればよいという部分最適の考え方ではなく、商品を開発・製造するメーカーも利益が得られるようになる、すなわち、サプライチェーンの全体最適の考えによるものでしょう。そして、アスクルの利用者からみれば、よい商品を迅速に低価格で提供してもらえることを評価しているわけですが、それを実現するには、アスクルだけの利益ではなく、メーカーや物流会社も含めたサプライチェーンの全体最適が実現している方が、それを容易に行うことができると思います。

そこで、岩田さんは「大アスクル」という考え方に基づいて、ステークホルダーの全体最適を目指すことを通して、アスクルの業績も高めてきたのだと思います。現在も、一部には、仕入先や外注先との取引条件を厳しくして、自社の利益を増やそうとする会社も残っていますが、そのようなことをしても、一時的には利益を増やすことはできても、長期的には業績は頭打ちになるでしょう。

2026/4/17 No.3411