鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ダム式経営で永続的経営を目指す

[要旨]

北海道の特産品などの通信販売を営む、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、多くの経営者は「売上を上げるには投資が必要」と思い込み、手元資金がないのに銀行などから借入をして設備投資をしてしまうが、手元資金がないのに借金して投資することは、永続的経営とは言えないと批判しておられます。


[本文]

北海道の特産品などの通信販売を営む、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を拝読しました。木下さんは、同書で、ダム式経営について述べておられます。「無収入寿命の考え方は、家計を預かる人の立場で考えたら、当たり前のことだろう。働き手が何らかの理由で失業してしまった。突然、会社がつぶれてしまった。こうしたアクシデントに備え、生活費を貯めているだろう。

4人家族の平均的な1か月分の生活費を家賃込で40万円程度とした場合、預貯金が400万円あれば、無収入寿命は『10か月』となる。預貯金がほとんどない状態(無収入寿命が1か月など)なら、借金してまで住宅や自動を買わないだろう。だが、会社では平気でそれをやる。多くの経営者は『売上を上げるには投資が必要』と思い込み、手元資金がないのに銀行などから借入をして設備投資をする。

家計では絶対やらないのに、経営でやってしまうのは、『経営には力ネがかかる』、『投資が必要』という思い込みがあるからかもしれない。また、多くの経営者は、在庫などの棚卸資産の適正処分ができない。棚卸資産があると、損益計算書(P/L)上は儲かっているように見える。儲かっているように見せないと、銀行から融資が受けられない。そもそも銀行から借入しようと思わなければ、そうする必要もない。悪循環なのだ。

手元資金がないのに借金して投資するのは、はたして『永続的経営』なのだろうか。無収入寿命をのばすという考え方は、パナソニックの創業者・松下幸之助氏が言う『ダム経営』と同じだ。松下氏はある講演でこう語った。『好景気だからといって、流れのままに経営するのではなく、景気が悪くなるときに備えて資金を蓄える。ダムが水を貯め、流量を安定させるような経営をすベきだ』(1965年2月の講演)

聴衆の一人が、『ダム経営の大切さはわかるが、そのやり方がわからないから困っているんですよ』と尋ねた。松下氏は、『まず、ダムをつくろうと思わんとあきまへんなあ』と答えた。聴衆は落胆したり、顔を見合わせて苦笑したりした。しかし、『これをやったから松下は大企業になったのだ』と気づき、実践した人がいた。京セラ、第二電電(KDDI)を創業し、日本航空の経営を再建した、あの稲盛和夫氏だった」(29ページ)

稲盛さんが松下さんの話をきいて、身体中に電撃が走ったというエピソードは、稲盛さんのご著書、「働き方-『なぜ働くのか』、『いかに働くのか』」に書かれていて、あまりにも有名です。そして、これに従って、木下さんはダム式経営(木下さんは「ダム経営」と書いておられますが、稲盛さんのご著書には「ダム式経営」と書かれています)を実践しておられるようです。具体的には、木下さんが経営しておられる北の達人コーポレーションでは、無収入寿命を24か月にしているそうです。

無収入寿命とは、売上がなくなっても事業活動を続けることができる期間のことで、それは、手元資金が月額固定費の何倍あるかで計算できます。同社では、無収入寿命を24か月に維持しているということは、2年分の固定費を現預金にしているということになります。ここで私が注目したことは、木下さんは、「手元資金がないのに借金して投資するのは、はたして『永続的経営』なのだろうか」ということばです。

すなわち、木下さんは、24か月分の月額固定費がたまってから、新たな設備投資を行うということです。これを言い換えれば、24か月分の月額固定費を貯めることを、設備投資に優先しています。このような木下さんの考え方には、賛否が分かれると思います。私は、基本的には木下さんに賛成しますが、手元資金は24か月分までは必要がないと思っています。

でも、木下さんの、「多くの経営者は『売上を上げるには投資が必要』と思い込み、手元資金がないのに銀行などから借入をして設備投資をする」という批判は注目すべきだと思います。これは、経営者の多くは、事業活動をすることを目的にしていて、「永続的経営」への関心が薄いということを批判しているのだと思います。私は、手元資金を厚くしさえすればよいとは思いませんが、経営を長く続けることを優先しているという木下さんの考えは、現在の経営環境が不透明な時代には大切な考え方だと思っています。

2026/4/19 No.3413