鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

融資は受けない方がよいのか(1)

[要旨]

融資を受けていない会社が黒字の場合、融資を受けることによって、その黒字額を増やすことができますが、逆に、赤字の会社が融資を受けることによって、その赤字額を増やすことになります。このような融資の効果を財務レバレッジ効果といいます。したがって、融資を受けることで得られる効果は、業績を赤字にすることではなく、小さな黒字や赤字を、大きな黒字や赤字にすることです。


[本文]

先日、ある読者の方から、「経営者が連帯保証人になって会社が融資を受けると、もし、融資を返済できなくなったときに、経営者も自己破産しなければならなくなるので、融資を受けることはなるべく避けた方がよいのでしょうか」というご質問がありましたので、ここで私の考えについて回答します。質問者の方のような不安を感じるのは、経営環境の変化により、業績が悪化して会社が融資を返済できなくなれば、経営者もほとんどの財産を失うことになり、再び事業を起こすことが難しくなるからと考えるからだと思います。

確かに、経営者がそのような状況に陥る例はありますが、私は、その原因は融資を受けているからだとは考えていません。それを簡単な事例で説明します。ある会社(A社)が、1,000万円の資本金で事業を始めたとします。A社の事業は、1年間で50万円の利益を得ているとした場合、自己資本利益率は5%(=50万円÷1,000万円)となります。

ここで、A社が事業拡大をするために、1,000万円の融資を受けたところ、この融資資金でも同じ利益を得ることができたとすれば、A社の利益は、資本金から得られた利益50万円と、融資資金から得られた利益50万円の合わせて100万円となります。そして、融資利率が3%であるとすれば、100万円から30万円を差し引いた利益は70万円となります。(ここでは、説明を容易にするため、税金や株式配当金は考慮しないこととします)

この場合、A社の自己資本利益率は、7%(=70万円÷1,000万円)となります。すなわち、A社は融資を受けた結果、利益額が増え、資本効率も上昇しました。今度は、逆の事例を見てみます。A社の経営環境が悪化し、融資を受けない状態で30万円の赤字に陥ったとします。A社が融資を受けていない場合、自己資本利益率は▲3%(=▲30万円÷1,000万円)となります。

さらに、もし、A社が1,000万円の融資を受けていた場合、赤字額は60万円になり、さらに利息額30万円を差し引くと、最終的な赤字額は▲90万円になります。その結果、自己資本利益率は▲9%(=▲90万円÷1,000万円)となります。これらのことから分かることは、事業の収益性がよいときは、融資を受ければさらに利益率は向上します。逆に、収益率がマイナスのときは、融資を受けていると、収益率は悪化します。

すなわち、融資は、収益率のよい会社の収益率を高めており、逆に、収益率が悪い会社の収益率をさらに悪化させる効果があり、これを財務レバレッジ効果といいます。レバレッジとは梃子(てこ)のことで、小さな変化を大きな変化に増幅する機能のことを指しています。ですから、融資を受けることは、赤字を増やすことではなく、小さな黒字を大きな黒字にしたり、小さな赤字を大きな赤字にしたりしているのです。この続きは、次回、説明します。

2025/1/17 No.2956