鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ROEとROICの違い

[要旨]

資金の効率性を測る指標には、ROE(株主資本利益率)とROIC(投下資本利益率)がありますが、前者は出資者の提供した資金の収益性を測る指標で、後者は外部から調達した資金の収益性を測る指標です。そこで、経営者は、ROICを高めることに注力することが妥当と言えます。


[本文]

公認会計士の森暁彦さんのご著書、「絶対に忘れない『財務指標』の覚え方」を拝読しました。同書で、森さんは、まず、ROEとROICの違いについてご説明しておられます。「ROE、ROIC、ROAは、全て英語の頭文字をとった略称です。ROE(株主資本利益率)=Return On Equity。ROIC(投下資本利益率)=Return On Invested Capital。ROA(総資産利益率)=Return On Asset。

正式名称では、全てが『Return On ○○○』となっていることがわかります。この3つの指標はどれも、事業にお金を投下した結果、どれだけの利益(Return)を生んだのかという収益性を比率で示しています。投資のために集めたお金別名で資本といい、その資本が生み出した利益だから『資本の収益性』に関する指標です。では、なぜ、3つも指標があるのか、それは、『どんなお金を投資して、どんな利益を生み出したのか」が異なるからです。具体例をもとに、考えていきましょう。

もしあなたがタピオカムーブメントの継続と拡大に期待して、高級夕ピオ力屋を始めるとします。そして仮に、お店を作るために、内装や設備、最低限の原料の仕入れなどで1,000万円の費用が必要だとしましょう。この1,000万円のお金は、出資金として株式を発行し、知人から調達したとします。お店は繁盛し、年間で100万円の当期純利益を生み出しました。この残った100万円が誰に帰属するかといえば、出資金を出した株主です。

ここで用いる収益性指標は、Return(当期純利益)をEquity(株主資本)で割るROE。100万円の利益を1,000万円の出資金で割った結果、ROE値は10%となります。1,000万円の投資に対して年間100万円の利益が出れば、投資回収期間は10年です。つまり、あなたの高級夕ピオ力屋が10年間は同じ利益額を維持できて、さらに11年以上続くと考えれば、株主にとって『(少なくとも元本以上に回収できる)良い投資』ということになります。

さて、タピオ力屋のプームは10年以上続くでしょうか。こう考えると、タピオカビジネスの利回りが10%で十分か、必要な利回りはいくらかという、投資家の生々しい考えにつながっていきます。この投資家が求める必要利回りが、資本コストです。そしてこの考え方は、企業経営においても同じです。ただし少し複雑なのは、企業が資金調達を株式の発行に加えて、銀行からの借り入れや社債の発行でまかなっている場合です。再び、高級夕ピオカ屋で考えましょう。1時間待ちが続くほどお店が繁盛したとすると、経営者であるあなたは、もう1店舗出したいと考えるはずです。

そして2店舗目の出店に必要な費用は、銀行から借り入れて新たに1,000万円ほど調達したとします。金利1%の借り入れだと、年間10万円の金利払いに関する費用が増額します。(ここでは簡略化のために、税金を無視します)このお店も好調で、2店舗合計で当期純利益は190万円(=店舗当たりの100万円の粗利×2店舗-借り入れコスト10万円)になりました。ROEは19%に跳ね上がります。ではこの当期純利益190万円とROEという株主サイドの指標のみで、この投資・この事業の収益性を判断してしまって良いのでしょうか。

資本は株主と銀行がそれぞれ1,000万円ずつ出しているのに、です。もちろん株主にとっては、企業がどれだけ銀行からお金を借りていようとも、最終的な当期純利益額が自分に帰属する利益です。その意味で、ROEが重要な指標であることに変わりはありません。しかし一方で、ROEだけでは企業の収益性分析に限界があります。だから、実務家は様々な指標で企業や事業を分析します。投下した総資本と、銀行などに金利を支払った後の数字である当期純利益は、りんごとオレンジを比較しているようなもので、対応関係がいまひとつです。

そこで使うのがROICです。『IC』は投下した総資本(=Invested Capital)を意味し、株主資本と有利子負債(銀行借り入れ・社債など)の合計額です。一方、ReturnはPL上のNOPAT(=Net Operating Profit after Tax)といって、おおむね営業利益から法人税を差し引いた数値を使います。投下資本全体(株主資本+有利子負債)を分母にするのであれば、分子は金利支払い前の営業利益をベースにすると適切です」

今回の引用部分についてまとめると、ROICは、外部(株主と銀行)から調達した資金に対する効率(利益率)を測る指標であり、ROEは株主から調達した資金に対する効率を測る指標ということです。ここで、ROICの計算に使うNOPATについて補足すると、当期純利益=営業利益-融資金利法人税なので、NOPAT=営業利益-法人税当期純利益+融資金利ということになります。

ROICの計算では、分母の資金に融資も含まれているので、分子の利益は、融資金利が差し引かれる前の利益で計算しなければならないことになり、したがって、NOPATを分子にすることが適切ということになります。話を戻すと、経営者としては、外部から調達した資金の効率であるROICを注視する必要があるでしょう。なぜなら、経営者としては、外部から調達した資金全体が効率よく利益を獲得できているかどうかで経営判断を行うからです。では、ROEはなぜ必要になるのかというと、出資をしている株主は投資の判断をするからです。

出資をすると配当を期待できますが、出資をする時点では、事業計画などによっておおよその期待できる配当額は把握することができますが、それは約束されたものではありません。そこで、ROEを見ることで、実際に配当してもらえる可能性を知ることができるのです。もちろん、ROEと同じ割合の配当を受けることができる例は少ないと思いますが、ROEが高いほど、高い配当率を期待することができます。今回の記事をまとめると、ROICは調達した資金全体の効率を測る指標であり、ROEは株主からみた投資の効率を測る指標ということです。

2025/2/11 No.2981