[要旨]
経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、中小企業の金融機関、特に地域密着型の金融機関とつき合うといくつもメリットがあり、まず、地銀はその土地の事情に精通しており、地元の有力者と太いパイプをもっているので、融資以外に、地域に溶け込むための人脈づくりなどにも一役かってくれると期待でき、さらに、信用金庫、信用組合はよりきめ細かな地域情報をもたらしてくれるので、いちばん頼りになる金融機関だといえるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「社長のお金の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、メインバンクとは、いざというときにリスクを伴う融資をしてくれる銀行のことですが、大手銀行の場合、自社がピンチになったとき、すぐに取引を解消してしまうので、中小金融機関のように、最後まで支援を期待できる金融機関をメインバンクにすることをお薦めするということについて説明しました。
これに続いて、三條さんは、地域金融機関と親密にすることが望ましいということについて述べておられます。「中小企業の金融機関、特に地域密着型の金融機関とつき合うといくつもメリットがあります。まず、地銀はその土地の事情に精通しており、地元の有力者と太いパイプをもっているので、融資以外に、地域に溶け込むための人脈づくりなどにも一役かってくれると期待できます。
信用金庫、信用組合はよりきめ細かな地域情報をもたらしてくれ、企業規模によっては、いちばん身近で、いちばん頼りになる金融機関だといえるかもしれません。そのかわり、こちらも祭りなど地域の行事には積極的な姿勢を見せること。地域の行事に自社の南品を景品として差し入れたり、祭りでは神與の担ぎ手になったりするなど、地域行事に熱心だと、地元の金融機関の印象はぐっとよくなるものです。
地域の金融機関とのつき合いの第2のメリットは、長く強い人間関係を育めることです。金融機関とのつき合いも最終的には人間関係に尽きます。銀行の担当者と肚を割って話すことができるようになったり、さらに進んで、個人的なことまで相談できる間柄になったりすれば、これ以上心強いことはないでしょう。人間関係は時間かけてじっくり育まれていくものです。
ところが、大手行の銀行員は3、4年で転勤していくケースが多いのです。せっかく親しくなりかけたところで地元から去っていってしまう。ふだんしょっちゅう顔を合わせていなければ、人間関係は徐々に薄らいでしまうのが世の常です。一方、地銀や地元の信金、信組の職員はその地域を離れる可能性はあまりありません。長いつき合いを続けているうちにボストが上がっていき、しだいに組織内での力が強くなっていく可能性も大。
そうなれば、いっそう便宜を図ってくれる強い味方になってくれるでしょう。私の顧問先にも、地元の信用金庫とじっくりつき合いを重ねていたら、初めの担当者が出世していき、理事長にまで昇り詰めたケースがあります。もちろん、理事長が何もかも采配をふるうわけではありませんが、正直なところか、何かとやりやすくなったことは事実。多様な領域の企業トップを紹介してもらえる機会も増え、有形無形の恩恵はかなり大きいといっています。
金融機関のスタッフと親しい人間関係をつくりたいなら、とにかくしょっちゅう顔を合わせること。ふだんから、こちらからも足を運び、顔を合わせる機会を増やすのです。特別な用事がなくてもいいのです。『近くまできたから……』とか『社員旅行に行ってきたんですよ。これ、皆さんで食べて』とちょっとした土産を届けるなどとってつけたような用事でも、わざわざ訪ねてきてくれた、それだけで相手はいい気分になり、その社長に好感を抱くものです」(92ページ)
実際に、三條さんがお薦めするような金融機関対応をするかどうかはともかく、三條さんの考え方については、ほとんどの経営者の方が理解されると思います。しかし、金融機関との関係を疎遠にしてる経営者は、現在も少なくないのが現実のようです。その理由についてですが、これまで私が中小企業の資金調達のお手伝いをしてきた経験から、次のようなことが考えられます。1つ目は、経営者の方が事業活動にだけ関心があり、財務管理などの管理活動にはあまり関心がないというものです。
私のところに資金調達のご相談にくる経営者の方は、このようなタイプの方が多いです。私としても、中小企業経営者の方は、事業の現場にいて、売上を増やしたり、よりよい製品を開発したりする活動に注力したいという経営者の気持ちは理解できます。その一方で、経営者には、事業活動を維持するための管理活動も欠かせません。そこで、労務管理、財務管理、品質管理などの管理活動にも注力する必要があります。
そこで、経営者の方は、銀行と親密になることが必要かと言えば、私は、かつて、地方銀行に勤務していた経験から、必ずしも三條さんがご指摘するほど、親密になる必要はないと思います。しかし、できれば1か月ごと、少なくとも3か月ごとに銀行を訪問して、月次試算表を提出するだけでも、まったく定期的な銀行訪問をしていない会社と比較して、銀行からの評価が大きく異なります。
しかし、事業活動にだけ関心がある経営者の方は、「銀行は、融資が必要になったときに行けばよい」と考えているようです。確かに、普段はそれほど接触がなくても、融資が必要なときに融資申請をして、それに応じてもらうことが可能ですが、それは業績がそこそこよい会社です。ですから、業績のよい会社の経営者の方は、定期的に銀行に行く必要がないと考えることは理解できます。
でも、業績のよい会社であっても、災害や取引先の倒産などによって、銀行の支援が必要になるということがあります。そういったピンチのときに備えて、銀行に対してへりくだることまではする必要はありませんが、リスク対策として定期訪問をしておくことは大切だと、私は考えています。そして、業績がそれほど順調ではないという会社の経営者の方であれば、融資が必要になったときに銀行に行けばよいという考え方は賢明ではありません。
確かに、忙しい中、銀行に足を向ける労力は惜しいかもしれませんが、もし、融資が必要になったときに、銀行に融資に応じてもらえなくなったら(前述したように、私に相談にくる経営者の方の多くは、このような状況になった経営者の方です)、その状況を打開するための労力は、定期的な銀行訪問よりも、もっと多くなるでしょう。理由の2つ目は、あまり業績のよくない会社経営者の方は、銀行に行くと、自社の業績について多くの質問をされるので、銀行に行くことが苦痛になってしまうというものです。
私も、その経営者の方の気持ちは理解できます。経営者の方から見れば、定期的な銀行訪問は、自ら質問攻めに遭いにいくようなものです。しかし、経営者の方には、それを乗り越えていただきたいと思っています。これについては上から目線で恐縮ですが、銀行に行くことを避けている経営者の方は、事業改善のための活動も先延ばしにしているのではないかと思います。
だからといって、定期的に銀行を訪問することが、直接的に事業を改善することにはなりませんが、三條さんは、地域金融機関との関係を緊密にすることで、「多様な領域の企業トップを紹介してもらえる機会も増え、有形無形の恩恵はかなり大きい」と述べておられますので、定期的な訪問をしていない場合と比較して、事業改善の機会は大きくなることは間違いありません。
2025/12/8 No.3281
