鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

融資ありきで起業することは避けるべき

[要旨]

経営コンサルタント中村真一郎さんによれば、ご自身のご経験から、起業するときに融資を受けることは避けた方がよいということです。もちろん、起業時は資金不足になりがちなので、融資を受けようとする会社は多いものの、それでは融資の返済負担が加わってしまうので、融資を受けずに事業活動を行う方がリスクが少ないということです。


[本文]

経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を拝読しました。同書で、中村さんは、起業するときに融資は利用しない方がよいということについて述べておられます。「起業が失敗する理由は、いくつもある。ビジネスがうまくいかない、資金がショートするといった理由もあれば、信頼していた人に裏切られた、あてにしていた融資を断られた……など、多岐にわたる。しかし、シンプルに考えれば、仕入先に対して支払いができ、しかも、自分や家族の食い扶持が確保できさえすれば、経営は続けていけるはず。簡単に言えば、『資金繰りがまわらなくなった』から失敗するのである。

中小企業庁が発表している『倒産の状況』を見ると、倒産の理由は『販売不振』が圧倒的に多い。だいたいこのような流れになる。想定していた売上が上がらない→仕入先への支払いが滞る、あるいは、自分たちの生活費が確保できない→経営が立ち行かなくなる……。当然の流れとも言える。『それなら、銀行や日本政策金融公庫(国民生活金融公庫、いわゆる“国金”のこと)から融資を受ければいいじゃないか』そう思う方もいるだろう。実際、起業本や起業塾でも、『起業する前に資金を借りろ』と主張する方が多い。

これに関しても、私は反対である。なぜなら、経営者としてのマインドが整っていないのに、融資などでお金を借りると、溶けるようにすぐ無くなってしまうからだ。確かに、起業するにはお金がかかるが、起業後すぐに売上が立つかどうかはわからない。店舗を開くような場合はなおさらである。にもかかわらず、起業のために融資を受けるということは、借金を背負ってスタートするようなものだ。これが本当に、起業をする上でベストな選択かと言われると、私は首を傾げてしまう。

また、『融資を受けてもすぐになくなってしまう』という前提で、ベンチャーキャピタルや投資家から投資を受けることが最近の傾向としてある。実際、起業家がどれだけ頑張っても、融資が『溶ける』ことはあり得るため、投資する側も9割は失敗すると思って投資している。ところが、最近は、融資する側が『失敗』も視野に入れて投資していることを逆手にとって、最初から『失敗する』ことを前提に資金を集め、事業だけではなく私的にも金を使い、その挙げ句、会社を売却するというベンチャー起業家が少なからずいるのが気になる。

それはあまりに真剣味に欠けるし、不誠実極まりない。そういうやり方で一時的に得をしたような気になるかもしれないが、結局、どこか別のところで自分がしたことのツケは必ず返ってくる。(中略)わしは26歳で再度起業をした後、30歳を超えるまで銀行からの借り入れは一切使わなかった。もちろん、創業支援融資も受けていない。融資なり投資ありきで起業を考えていないか。それではうまくいかないと、ぜひともも心して起業の準備を進めてほしい」(22ページ)

私は、必ずしも、創業融資は利用しない方がよいとは思いませんが、中村さんの考え方は正しいと思います。そして、多くの会社で起業がうまくいかない理由として、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、起業前は“起業熱”(自分は事業の専門性が高いので、起業すれば間違いなく成功すると思い込んでいる状態)にかかっているということがあげられます。

そのため、十分な準備をせずに起業してしまう、資金計画を含む事業計画を細部まで検討していなかったり、または、事業計画(資金計画)をつくらずに起業してしまう、資金管理ができる体制をとらずに事業を始めてしまうので、資金不足が起きたときに、その理由を把握できないという結果につながります。したがって、これらのようなことが起きないようにする対策は、精緻な事業計画を、できればワーストシナリオに基づいて立てる、起業後は資金の流れを迅速に把握できるよう、会計システムを導入し、計画と実績に差異が現れたら直ちに修正のための活動をしたり、銀行に支援を仰ぐということがあげられます。

ただ、ありていに言えば、起業する人の中には、起業することが目的になっていて、そのような人は“起業熱”にかかっているため、資金管理などにはあまり関心がないというのが実情だと、私は感じています。当然、そのような起業家は、実際に起業した後に、自分の理想と起業後の現実との乖離を目の当たりにすることになるのだと思います。とはいえ、多くの起業家の方が起業に慎重になり過ぎることも好ましくないので、起業を考えている方は、事業の専門性と合わせて、少し時間をとって、経営者としてのマネジメントスキルも習得することで、起業の成功率を高めることができると、私は考えています。

2024/12/9 No.2917