鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

規則は守るべきものではなく見直す対象

[要旨]

サイゼリヤの元社長の、堀埜一成さんによれば、どの店でも同じクオリティのサービスを提供するために、マニュアル化やルールの整備は必要ですが、ルールをただ守っていればいいわけではなく、お客さまのために、あるいは、そこで働く従業員のために、ルールは不断に見直していく必要があるということです。しかし、店長の中にはルール通りに動いているかをチェックすることが仕事の目的になってしまう人もいるので、そのような手段と目的を取り違える人が現れないよう、経営者の方は注意する必要があるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、サイゼリヤの元社長の堀埜一成さんのご著書、「サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、堀埜さんによれば、特定の仕事には能力を発揮するものの、短時間に多くのタスクをこなすのは得意ではないという人は、マネージャーには向いていませんが、これは能力が劣っているのではなく、単に向いていないということなので、職場では、スタッフ型の人を無理にマネージャーに就けずに、得意なポジションで能力を発揮してもらうようにすることが望ましいということについて説明しました。

これに続いて、堀埜さんは、マネージャーの役割を、決められたルール通りに動いているかをチェックすることと考えている人もいるので、注意しなければならないということについて述べておられます。「従業員が働きやすい環境をつくることもマネージャーの役割です。ところが、『店長』になると、どうしても従業員を道具のように使う人が出てくる。もちろん、店がきちんと回るように指示を出す必要はありますが、そればかりだとおかしなことになってきます。

なぜかというと、指示を出すことが仕事だと思い込んでいる人は、いつしか、指示が守られているか、決められたルール通りに動いているかをチェックすることが仕事の目的になってしまうからです。そして、ミスを発見した途端、飛び出してきて、『ダメじゃないか』と文句を言う。これはまるで、言葉遣いの間違いを見つけては、それを指摘するために登場するネット上の『○○警察』と同じです--『サイゼリヤ』と『サイゼリア』と書くたびに間違いを指摘する、非公式の『サイゼリヤ警察』もいました。

そうではなくて、ミスが起きたら、なぜそのミスが起きたのか、どうすれば防げるのかを考える。いろいろな人を使っていち早く問題を解消し、同じミスが起きないようにするのがマネージャーの仕事です。チェックリストを片手に、できているか、できていないかを見て、ダメ出しするだけなら、誰でもできます。

そんなことのために、スタッフより高い給料を払っているわけではないはずです。それでも店長は、人に命令するだけではなく、自分にもやるべきタスクが割り当てられたプレイングマネージャーの立場ですから、リストをチェックするだけで、『はい、おしまい』とはいきません。やっかいなのは、20~30店舗を束ねるエリアマネージャーで、連日のように各店舗を回っているため、チェックリストを見て、できていないところを指摘するだけで、仕事をした気になってしまう人が珍しくありません。

しかも、エリアマネージャーというのは、現場で働く人たちにとっての『上がりのポジション』と見なされがちでした。ようやく自分もここまで昇り詰めたかという達成感と気の緩みから、妙に偉ぶったり、地位にあぐらをかいたりする人が出てきてしまう。結果として、いてもいなくてもいいような、チェックするだけのマネージャーが誕生してしまうのです。チェックマンがはびこる原因のひとつは、店がルーティンワークを主体としたオペレーションで回っているからでもあります。

どの店でも同じクオリティのサービスを提供するために、マニュアル化やルールの整備は必要なことですが、一度決められたルールをただ守っていればいいわけではありません。お客さまのために、あるいは、そこで働く従業員のために、ルールは不断に見直していく必要があるはずです。ところが、ルールが守られているかをチェックするのが仕事だと思っている人には、ルールそのものをよくしようという発想が最初からありません。ルールは守るべきものであって、見直す対象ではないからです」(154ページ)

ルールについては、肯定する意見と否定する意見の両方があります。私はルールは必要だと思います。その理由は、特に、サイゼリヤのように、「当たり前品質」を提供する事業では、仕事のやり方を統一させる必要があったり、新しい従業員の方に仕事を学んでもらうためのツールとして効果があるからです。特に、ルールには、過去の経験から得られた暗黙知的なノウハウも盛り込まれることもあるので、ルールが整備されていると、競争力が高まると考えることができます。

その一方で、堀埜さんがご指摘しておられるように、「ルールは守るべきものであって、見直す対象ではない」と曲解する人も現れてしまう弊害もあります。すなわち、ルールは業績を高めるという目的を達成するための手段であるにもかかわらず、ルールを守ることそのものを目的にしてしまうという、手段と目的の取り違えはしばしば見られます。そこで、このような弊害が起きないようにするには、組織の成熟度を高めるしかないと、私は考えています。

というのは、「手段と目的を取り違えてはいけない」ということは、ほとんどの人は理解できると思います。しかし、それを具体的に実践しようとしても、なかなか実践できないのが実情でしょう。その難しさがあるからこそ、手段と目的の取り違えが起きてしまうのだと思います。では、組織の成熟度を高めるには、具体的にどうすればよいのかと、私は5S活動やQCサークル活動など、現場の従業員の方の参画意識を高めてもらう活動を続けて行くことだと思います。

QCサークル活動によって、自分の考えや行動が、業績の改善につながるという体験を積むと、単にルールに従って働くという受動的な姿勢から、ルールに書かれていること以上により良い方法はないかを探そうという能動的な姿勢で仕事に臨むことができるようになると思います。そして、こういった、組織の成熟度を高めるための働きかけを行うことが、会社の競争力を高めることであり、経営者が担うべき重要な役割だと思います。

2024/12/8 No.2916