鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

創業社長は自ら営業するしか道はない

[要旨]

経営コンサルタント中村真一郎さんによれば、技術や商品の知識はあるけれど、営業ができていない人が起業すると、失敗するケースが多いということです。これについて、営業の得意な人を雇うことでカバーできると考える方もいますが、その営業マンが顧客を握ったまま他社に移るというリスクもあるので、最終的には、社長自身が営業しなければ、事業を軌道に乗せることは難しいということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、起業したときは資金不足になりがちなので、融資を受ける会社は多いものの、それではリスクが大きくなることから、融資を受けないですむ範囲で事業展開を行うことがこのましいということについて説明しました。

これに続いて、中村さんは、経営者に営業力は必須であるということについて述べておられます。「経営者には、『向き・不向き』がある。特に起業し、自分で事業を立ち上げて経営しようという場合には、必ず持っておくべき『資質』がある。その一つが『営業力』だ。先ほども書いた通り、倒産の理由でダントツに多いのは『資金ショート』と『販売不振』である。つまり、モノやサービスが売れ、さらには会社経営に必要な資金がありさえすれば会社は潰れないし、経営を続けている可能性は高い。

多くの起業家を見ていて、『技術や商品の知識はあるけれど、営業ができていない』人が起業すると、失敗するケースが多い。『自分ではなくて、営業のプロに頼めばいいじゃないか……』こう思うかも知れないが、この考え方が実に甘い。『営業のプロ』を雇った場合、その『プロ』があなたを裏切って顧客と商品を持っていったりしないと、なぜ言い切れるのか。信頼していた営業のプロが、『これ、私が開拓したお客さんだから』と悪びれもせずに、顧客を持ってライバル会社に移る可能性も考えておいた方がいい。

また、営業を外注してみたところで、費用にあった成果を出せるかどうかもわからない。外注費ばかりがかかって、経営状況を圧迫する恐れがある。営業経験の有無に限らず、創業社長は自ら営業活動をしていくしか道はない。(中略)いずれにせよ、自分や家族、あるいは会社を経営するための稼ぎは自分で確保する。例えば、起業してメーカーを立ち上げるのなら、自社で制作して、自社で取引先を新規営業で開拓して販売して欲しい。それくらいの気概と覚悟がなければ、経営を続けていくのは難しい」(26ページ)

中村さんの、「創業社長は自ら営業活動をしていくしか道はない」というご指摘は、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、起業後に、うまく売上が得られずに、経営が行き詰まったという会社は、私も少なからず見てきました。そのひとつめのパターンは、例えば、自社は特許を持っているから、それを製品化すれば引き合いがたくさん来ると見込んでいたものの、現実には製品は売れなかったというものです。その理由はそれほど難しくなく、特許があるということと、需要があるということは必ずしも一致しないからです。

特許は差別化のひとつの要因ですが、その特許が顧客の需要に応えるところまで明確にできなければ、顧客はその製品を購入を決めません。そこで「営業力」が必要になるわけです。ところで、私は、「営業力」というと、神奈川県横浜市にあるテクニカンという会社を思い出します。同社は、「凍眠」という液体凍結期を製造しており、この製品について特許もとっているそうです。この製品の特長は、マイナス30度のエチルアルコールで、魚や肉を急速に凍らせるのですが、このとき細胞が壊れないので、解凍したときに解凍前と同じ味を出せるということです。

「凍眠」は、現在は、約2,000社で利用され、同社の2020年度の売上は8億8,600万円までになっているそうです。しかし、この製品は、同社を設立した1989年に開発したのですが、当初はまったく引き合いがなく、10年後にようやく売れ始めたということです。そして、もし、私が、創業後3年くらいの同社から、経営コンサルタントとして事業改善についてご相談を受けたとしたら、凍眠の販売はやめて、別の製品の開発を薦めていたと思います。

結果として、凍眠はヒット製品になりましたが、当時、もし、売れない製品の製造を続けていたら、同社の事業継続はできなかった可能性もあります。でも、同社社長の山田義夫さんは、凍眠は売れる製品だと信じて営業活動を続けた結果、同社はヒット製品となりました。それでは、これから起業する会社は、同社の事例をどのように参考にすればよいのかというと、私は、テストマーケティングをすればよいと思っています。特に、現在は、クラウドファンディングという手法があるので、これを活用すれば、ある程度の需要や市場の反応を前もって知ることが可能です。

経営者の方の中には、テストマーケティングではなく、最初から本格的に事業を始めたいと考える方もいると思いますが、私は経営環境が不透明な現在は、リスクを減らして起業することが重要だと思います。もちろん、根拠のない自信だけで起業することは避けなければなりません。どんな事業を始める場合であっても、中村さんがご指摘するように、ある程度の壁は乗り越えなければならないという覚悟をもたなければ、事業を軌道に乗せることはできないことに間違いはないでしょう。

2024/12/10 No.2918