鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

自分で稼いだお金は純資産の部に入る

[要旨]

貸借対照表の貸方(右側)は、お金の出どころを示す項目ですが、それは「誰かから借りたお金」(借入金等)、「自分や他人が出資したお金」(株主資本)、「自分で稼いだお金」(利益剰余金)の3つに分けられます。なお、利益剰余金は、損益計算書で計算される、売上と仕入・経費の差額である利益のことです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、借金は少ない方が望ましいという考え方を持っている経営者も少なくありませんが、融資を受けて得た資産から利益を得ることができるわけなので、融資を受けることが必ずしも問題があるとはいえないということを説明しました。

これに続いて、高橋さんは、貸借対照表の構成について述べておられます。「BSの右側は、『お金の出どころ』を指すが、これには大きくわけて3つある。『誰かから借りたお金』(借入金や社債)、『自分や他人が出資したお金』(株主資本)、『自分で稼いだお金』(利益剰余金)だ。

この3つのうち、『誰かから借りたお金』は『負債』に入り、『自分や他人が出資したお金』、『自分で稼いだお金』は、『純資産』(資本)に入る。そして、『負債』と『純資産』の合計金額は、左側の『資産』の合計額と一致するが、これはさほど意味がない。定義のようなもので、これから意味のある結論が出るわけではない。逆に言えば、『資産から負債を引いた額』が『純資産』ということだ。

会計の本を見ると、純資産の部は資本の部とも書いてある。もともと、この部分は株主から資金調達した部分なので、資本の部といういい方もできる。右側の『負債』も『純資産』も、不動産や有価証券など、何らかの『資産』へと形を変えて、左側に流れている。こうした資産に変わっていない分は、『現預金』として、ちゃんと左側に計上される。だから、『資産』から『負債』を引いたら『純資産』になるというのは、当たり前なのだが、この大きさ、つまり正か負かが問題なのだ」(65ページ)

本旨ではないのですが、高橋さんの記述について誤解されてしまいかねない箇所があるので、少し補足します。高橋さんは、「会計の本を見ると、純資産の部は資本の部とも書いてある」と述べておられますが、実質的に日本の会計基準を定めている企業会計基準委員会は、2005年に、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」を変更し、「資産の部」を「純資産の部」と表記することにしました。

これについては、詳細な説明は割愛しますが、かつては資本の部は株主に帰属するものと考えられていましたが、現在は、負債でも資本でもない貸方の科目も使われるようになり、そこで、それらを資本の部と合わせ、負債の部に属さない貸方の科目を純資産の部とするようにしたようです。したがって、現在の会計基準では、資本の部という表記は誤りであり、純資産の部と表記することが正しい表記です。ただし、中小企業では、負債の部にも資本の部にも属さない科目はほとんど使わないので、資本の部の表記の仕方が変更されたことによる影響はまったくないでしょう。

話を本題に戻すと、貸借対照表は、高橋さんも述べておられるように、資産の部=負債の部+純資産の部ですが、損益計算書では、売上>費用(売上原価+販売費及び一般管理費など)と、貸方科目が多い状態が一般的です。これは当然のことで、売上が仕入代金や経費の合計額を上回る、すなわち、利益が得られるようにすることが、事業活動の目的だからです。したがって、損益計算書の貸方と借方の金額の差額は、事業活動で得られた利益としてとらえることができます。

では、その利益はどうなっているのかというと、仕入れも販売も、すべて現金で行っているとすれば、自社の現金が増えていることになります。しかし、一般的には掛販売や掛仕入れなどが行われているので、現金の増加額+売掛金受取手形を含む)の増加額-仕掛金(支払手形を含む)の増加額が、利益額ととらえることができるでしょう。そして、この借方の増加額は、貸方の純資産の部に「自分で稼いだお金」(利益剰余金)として計上されます。この自分で稼いだお金が純資産の部に入るという手続きは簿記の初学者の方にはすぐに理解できないかもしれませんが、学習を進めていくうちに理解できるようになっていくと思います。

2024/6/16 No.2741