[要旨]
借金は少ない方が望ましいという考え方を持っている経営者も少なくありませんが、融資を受けて得た資産から利益を得ることができるわけなので、融資を受けることが必ずしも問題があるとはいえません。ただし、融資が増えすぎると、リスクも増加するので、負債と資産のバランスも考慮しなければなりません。
[本文]
今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社の損益計算書は、1年間のお金の出入りをまとめたもの、すなわち、フローを示すものであり、1年間で得た収益である売上高から、仕入額である売上原価を差し引いた売上総利益は、会社が1年間で生み出した付加価値を示しているということについて説明しました。
これに続いて、高橋さんは、「借金は少ないほうがいい」という考え方は正しくないということについて述べておられます。「一般的な感覚では、『借金=なるべくないほうがいい、悪いもの』なのだろう。もちろん、お金を借りるたびに『飲み食い』に消えてしまっては、あっという間に借金が膨れ上がってしまうし、その利息を払わなければいけない。借りたお金は消えているから、返すアテもない。これは確かに問題だ。
しかし、借りた金で、家を買う、車を買う、となればどうか。お金を借りて家や車という『資産』を得るのだから、この場合は一概に『借金=悪』とはいえない。その資産は活動のために必要で、それで稼げるなら有用である。企業も同様だ。というか、企業家なら、お金をどのように工面して、それをどのように増やすかを考えるものだ。そもそも、なぜ、企業が利息つきの債務を負うかといえば、事業のために必要だからだ。
銀行からお金を借りて、まるまる現金(預金)のまま持っておくということは、まずない。借りたお金で稼げず、利息だけ払うのではダメである。事業に必要な機械を買う、不動産を買う足しにする……使い道はさまざまだが、債務を負うことで、『資産』を得るのである。では、負債を持つことが一切問題ないかといえば、それは違う。あるいは、資産が多ければ問題ないかといえば、それも違う。重要なのは、『負債と資産のバランス』なのだ」(64ページ)
稲森和夫さんも、京セラを起業したばかりのころ、機械を買うために、京都銀行から1,000万円の融資を受けたものの、早くそれを返さなければならないと、びくびくしながら仕事をしていたと本に書いています。この稲盛さんのように、日本には、借金はしない方がいいという考え方を持つ人は少なくないようです。しかし、会計に関する知識があれば、借金はしない方がいいという考え方が誤りであることを、容易に理解できます。
例えば、出資金1,000万円で会社を起こし、その出資金で商品を仕入れたところ、1,200万円で売れたとします。(ここでは理解を容易にするため、販売に関する経費は発生しないものとします)このとき、利益率は20%ということになります。そこで、金利5%で1,000万円の融資を受け、それで商品を仕入れ販売したとします。そうすると、金利分を差し引いた利益は150万円であり、利益率は15%ということになります。そして、その会社は、トータルで、売上高2,000万円、利益350万円、利益率17.5%となります。
利益率は、融資を受けないときよりも低くなりますが、利益額は150万円ぞうかするので、この会社は融資は受けた方がよいと言えます。しかし、商品の相場が下がり、1,000万円で仕入れた商品が900万円でしか売れなくなったとします。その場合、融資を受けなかったときの損失は▲100万円だけとなりますが、1,000万円の融資を受けて同額の商品を仕入れて販売していた場合、商品の売買損失▲100万円と、融資利息50万円の損失が増加するので、トータルの損失は▲250万円となります。
したがって、事業が赤字の場合は融資を受けない方がよいということになります。そこで、融資を受けるべきか受けないべきかということは、事業が黒字であるか、赤字であるかによって判断が異なるため、融資そのものが問題になるということではありません。そして、融資を受けていると、融資を受けていないときと比較して、事業が黒字であれば利益額が増え、事業が赤字であれば損失額が増えますが、これをレバレッジ効果といいます。
レバレッジとは、てこのことで、レバレッジ効果とは、小さな力で大きな効果を得られることを比喩で示しているわけです。話をもどすと、借金そのものは問題ではないのですが、もし、事業に失敗してしまうと、多額の借金が残り、それを返済するために、持ち家を始めとした多額の財産を失うという人もいるために、借金はしない方がいいという先入観を持つ人が少なくないのでしょう。
でも、本質的なことは、融資を利用しないことではなく、融資を受けて果敢に事業に挑むことであり、もし、事業の先行きが悪くなった場合は、融資の返済が不能になるまえに、別の事業に進出したり、事業をやめたりするという判断を行うことです。ところで、高橋さんは、「重要なのは、『負債と資産のバランス』なのだ」と述べておられます。黒字の会社は、融資を受けることで、レバレッジ効果を高め、利益額を増やすことができます。
しかし、レバレッジを高めすぎることは、将来の見通しの不透明さ、すなわちリスクが顕在化した時の打撃も大きいので、ある程度にとどめることが望ましいと言えます。レバレッジ効果を計る指標に財務レバレッジというものがあり、財務レバレッジ=(負債の部+純資産の部)÷純資産の部という計算式で求めます。純資産の部1,000慢円、負債の部1,000万円の会社は、財務レバレッジ=(純資産の部1,000万円+負債の部1,000万円)÷純資産の部1.000万円=2倍となります。
したがって、この会社は、利益(または赤字)を2倍にする効果があるということを示しています。では、財務レバレッジはどれくらいあればよいのかというと、これも一概に言えませんが、3倍から、高くても4倍までに抑えることが妥当だと、私は考えています。これは、純資産の部:負債の部が、1:2か、1:3程度のバランスが適切ということです。
2024/6/15 No.2740