[要旨]
経営コンサルタントの三條慶八さんは、ある経営者から、顧問税理士によって、決算書に多額の役員貸付金を計上されたため、銀行からの信用が低下したと相談されたそうですが、税理士の中には税務署から責められない会計処理をする方もいるため、顧問料を払っている顧問先を最優先し、顧問先を守ろうとする税理士を探して顧問契約を結ぶようにするとよいと回答したそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「社長のお金の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、北海道にあるいわた書店では、売上減少を打開するために、顧客のアンケート結果に基づいて、店主がその顧客のために、お薦めする本を約1万円分選んで届けるというサービスを開始したところ、口コミで評判が広がりましたが、このように、めんどうくさいことをすることで、他者に真似ができない競争力の高い事業を行うことができるようになるということについて説明しました。
これに続いて、三條さんは、顧問税理士は会社の事業について理解している人を選ぶべきであるということについて述べておられます。「どんな会社でも日々、仕事をしていると、会計処理をしたときに、つじつまが合わないお金が出てくることがあるものです。たとえば、社員が領収書をもらうのを忘れたとか、成り行き上領収書のもらえないお金など。こうしたお金をどのように処理するか。そこで会社の経理の質がはっきり分かれます。多くの場合、こうした使途不明金が出ると、社長の貸付金として処理してしまいます。そのほうが一手間ですみ、税理士がめんどうでないからです。
ところが、この社長貸付金は後々になって、大きなツケになる場合が少なくないのです。社長貸付金が多いと、それを見た銀行は、『この社長は会社のお金をポケットに入れているな』と判断し、社長の信用はガタ落ちになることがあるのです。実際にお金は出ていっているので、なんらかの処理はしなければなりません。では、どうしたらいいか?先日、相談に見えた社長もまさにこの問題で悩んでいました。
『銀行に“このお金、何に使ったんですか”と突っ込まれたんですが、私、実際は使っていないんですよ。でも、銀行に“私は使っていません”なんていえません。そしたら、銀行に“このお金、ちゃんと返して、きれいに消しておいてください”なんていわれましてね。このうえは、社長の給料をもっと上げて、そこからこのお金を消していくしか方法はないとしか考えられないんです……。先生、それで問題はないでしょうか』
『いや、大ありですよ。そんなことしたら、“そんなに業績がいいわけじゃないのに、なぜ、給料を上げるのか”と銀行はもっと突っついてきますよ』私がそう答えると、この社長はうろたえるばかりです。こうした例はけっして珍しくありません。この顧問税理士は帳簿上のお金の帳尻を合わせて会計処理をし、税務署に責められない方法を選んでいる、と言い切ってもいいくらいです。もちろん、帳簿上、スキのない会計処理をしてくれる税理士もいるでしょう。しかし、彼らはお金を借りた経験がないので、銀行対策までは考えない。いや、考えることができません。
その結果、この社長のように、銀行からつつかれ、地に立つことが起きてしまうのです。説明すると長くなるので詳しくは書けませんが、私なら、こうした使途不明金は、たとえばいったん経費で処理するなど、銀行の信用を落とさないやり方で処理をするなどして乗り切ります。それから徐々に本格的な処理方法を財務状況に応じて処理していきます。もともと税理士の職分は銀行対策ではないので、そこまで考えて会計処理をする税理士はめったにいないでしょう。しかし、税理士の考え方を変えさせるのも社長の役割です。
顧問税理士は、顧問先の会社を守る立場です。自分のプライドや名誉だけを考えるベきではありません。実際、私はこれまで、何人かの税理士を、社長を守る税理士へと思考転換させました。社長は、税理士に向かって、『誰からお金をもらっているのか考えてみてくださいよ。税務署からもらっているわけじゃないでしょ。お金を払っているのは私なんだから、この会社を守る会計処理をしてください』などといって、社長を守る決算書類をまとめてくれる税理士へと育てる努力が必要なのでもちろん粉飾をしろということとはまったく違います」(67ページ)
私が、かつて銀行に勤務していたときも、コンサルタントになってからも、多額の「役員貸付金」が計上されている会社を、何度か見たことがあります。その中には、「このような会計処理をする顧問税理士は変えた方がよい」とお伝えして、実際に、顧問税理士を変えてもらった顧問先もありました。私は、税務については専門外なので、税理士業務について批評する資格はありませんが、やはり、三條さんと同じ考えを持っています。詳細な経緯については割愛しますが、多額の役員貸付金を計上してしまう顧問税理士は、事実上、決算書作成のときだけ顧問先に関わっている方です。
本来なら、毎月、顧問先の経理処理を見て、問題があれば改善を要請すべきです。こうすることで、決算書作成のときに、多額の役員貸付金を計上することを避けることができます。その一方で、顧問税理士側から見れば、顧問料を安くしているのだから、最低限の手続き以外は顧問先に関与する余裕がないと考えることもあるかもしれません。そういった面では、会社側にも責任はあります。恐らく、多くの会社経営者は、決算書は税理士が作成するものと考えていると思いますが、本来は、会社自身の責任で作成するものです。
もちろん、中小企業では独力で決算書を作成することは難しい面があるので、ほとんどの会社は顧問税理士の助力を得て決算書を作成しています。そのことに問題はないのですが、「顧問先の会社を守らない税理士」にすべてを任せきりにすると、三條さんに相談してきた経営者の方の会社のようなことになってしまいます。したがって、三條さんが述べておられるように、まず、顧問先の会社を守る税理士に顧問税理士になってもらうことが大切です。
ただ、そのような税理士の顧問料は、最低限のことしかしない税理士と比較して高額のことが多いです。しかし、顧問料を節約することを優先すると、前述のように、銀行からの信頼を損なってしまうことになりかねません。顧問料の節約をすることは、短期的に利益につながると考えられがちですが、相応の顧問料を支払って、会社を守る顧問税理士の指導を受けることの方が、長期的に会社を安定的に成長させることになると、私は考えています。
2025/12/5 No.3278
