[要旨]
経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、三條さんに相談に来る経営者の方の中には、自社の財務情報を把握していない人も少なくないそうですが、そのような経営者は銀行から評価されず、融資を受けにくくなります。また、経理担当者や税理士も社長以上の責任感を持つことはしないので、財務管理が疎かになってしまうことに注意が必要だと言うことです。
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今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「社長のお金の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、あるタオル製造会社の社長から、男女の給与格差もなくし、やりがいのあるポストも任せるようにしているのに、女性の定着率が悪いと相談されたことから、調査をしたところ、トイレがあまりきれいでないことが、定着率を下げているということがわかったため、その会社の社長さんは、トイレを改装し、その結果、女性従業員の方からの満足度を高めることに成功したということについて説明しました。
これに続いて、三條さんは、経営者は自社の財務情報について、いつも頭に入れていることが大切ということについて述べておられます。「相談にいらした経営者に、『会社の経営状態がわかる帳簿類はおもちですか』というと、平然と『いや、もってきていません』という例はけっして少なくありません。初めて出会う場合、そこまでの経営資料は必要がない、あるいは見せたくないと思う気持ちもある程度は理解できます。しかし、私の講演会を聞きにいらした、その延長上の相談会ならばともかく、ちゃんと相談の時間のアポをとっていらした場合でも、こういう経営者がいるのです。
経営状態がわかる書類とは、普通、決算書(内訳書も含む)、近々の試算表、借入一覧表、資金繰り表、担保物件の謄本などをいいます。なかには、『数字のことは全部、経理担当に任せているので、私はよくわからないんです。社長はもっと大きな立場で会社全体を見回しているベきだと思ていますから』と数字を把握していないことを誇らしげに語る社長もいるので、仰天してしまいます。会社の将来を見通し、3年後、5年後、10年後、会社がどうあるベきか。そのために社長としていま何をすベきかを考え、行動するのが、社長の大きな役割です。
でも、それまでに会社がもたなかったら、どうするのでしょう。いちばん大事なのは、将来計画を立てながら、現在から将来まで会社を継続させていくこと。それ以上に、さらに発展させていく。そのためには足元の経営をしっかりしたものにし、その状態を継続させていくことが必須です。お金は会社の血液と同じです。どんなに優秀な製品があろうと、抜群の販売力があろうと、血液が滞ったら会社は即、死んでしまいます。そう、倒産です。血液=お金がいま、どういう状態なのか、経営資金は潤沢なのか、かつかつなのか、足りないのか、お金の現状を示しているのが資金繰り表です。
私のところにくるときにそうした書類を持参しないくらいですから、銀行に融資の交渉に行くときも、おそらく『お陰さまで経営はうまくいっています』ぐらいの話しかしないのでしょう。もちろん、大まかな話はできるのでしょうが、ちょっと突っ込まれるとおろおろし、立ち往生するに違いありません。細かなお金の出入りは経理任せ。儲かっているかどうかは税理士任せなのでしょう。こういう社長では安心して融資はできない。私が銀行員であったとしても、そう判断すると思います。提出した書類の説明がきちんとできなければ社長の評価もダダ下がりでしょう。
といっても、会社のお金は毎日出入りし、毎日動いています。その動きを経営者が毎日、細かくチェックし、把握しているように、というつもりはありません。ただし、週ごと、月ごとなどに数字の報告をきちんと受けて、その動きをしっかり頭に入れておかないようでは、経理担当だって数字の扱いが粗くなるでしょう。まして税理士、会計士など外部の人間は、会社に対する思い入れも責任感も、経営者に遠くおよびません。会計士や税理士は会計・税務のプロとはいえ、担当しているのはあなたの会社だけではありません。
契約している多数の会社、あなたの会社はそのなかの1社にすぎない。立場を変えて考えるまでもなく、あなたの会社への思い入れも責任感もそこまで大きくないのは当たり前です。毎日、血圧などを測ることが健康管理の基本であるように、売上や資金繰りなど経営の指標である数字は定期的にチェックし、だいたいのお金の流れはいつも頭に入れでおくこと。これは社長業の基本です。中小企業は、資金ショートしたら一巻の終わりだということを肝に銘じて経営するべきです」(45ページ)
経営者は自社の財務状況について把握しなければならないということにつては、ほとんどの方がご理解されていると思いますし、私もこれまで何度もお伝えしているので、改めてそれを述べる必要はないと思います。それにもかかわらず、三條さんが述べておられるように、相談する経営者の方の中には、決算書を持ってこなかったり、財務情報を把握していなかったりする人がいると、私も感じています。
これは、海図を読むことができない船長の乗った船が航海に出るようなものであり、きちんと海図を読むことができる船長の船は、最短経路で安全な航海をするのと比較して、行き当たりばったりで非効率な航海することになり、場合によっては嵐に遭って難破したり、暗礁に乗り上げて座礁したりしてしまうかもしれません。そこで、三條さんが「お金のことは、経理や税理士任せの社長には、私が銀行職員だったら、安心して融資できない」と述べておられるように、銀行からも評価されません。
もちろん、銀行の融資の可否は、会社の財務状況を基本に判断されますが、経営者の方が、「自社のポテンシャルを見て融資判断をして欲しい」と望むのであれば、経営者がきちんと財務情報を把握して業績の改善に取り組んでいるということが前提になるので、自社の財務情報を把握していない経営者が銀行に自社を評価して欲しいと望むことは、上から目線で恐縮ですが、虫がいいと言われてしまうでしょう。
もうひとつご注意いただきたいことは、三條さんが「税理士、会計士など外部の人間は、会社に対する思い入れも責任感も、経営者に遠くおよばない」とご指摘しておられることです。私も、コンサルタントとして、同様のことを感じています。もちろん、私はコンサルタントとして、顧問先の事業改善について懸命に協力しようと考えます。しかし、コンサルタントは外部の人間なので、事業改善について関与できることについては限界があります。それは、外部の人間だから関心が低いということではありません。
いくら、外部の人間が事業を改善しようとしても、当事者(内部の人間)の経営者が財務データへの関心が低ければ、その熱量以上に会社内の改善意欲は湧き起らないのです。これも上から目線で恐縮ですが、「馬を川につれていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない」という状態になってしまいます。ですから、経営者の方が自社の状況、特に財務データに強い関心を持つことは、事業の改善にあたっては欠かすことができない要件だと私は考えています。
2025/12/2 No.3275
