[要旨]
経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、三條さんの顧問先の化粧品を製造している会社では、事業が順調に拡大していったことから、新たに経理担当者を雇い、社長は営業活動に専念していたところ、その経理担当者が5,000万円の横領をしていたことが発覚したそうですが、これは、社長が経理業務をチェックしていなかったことが原因であり、社長は管理業務も怠ってはならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「社長のお金の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、三條さんに相談に来る経営者の方の中には、自社の財務情報を把握していない人も少なくないそうですが、そのような経営者は銀行から評価されず、融資を受けにくくなり、また、経理担当者や税理士も社長以上の責任感を持つことはしないので、財務管理が疎かになってしまうことに注意が必要ということについて説明しました。
これに続いて、三條さんは、会社のお金の管理は人任せにしてはいけないということについて述べておられます。「ある顧問先の例です。化粧品の製造販売をしているこの会社は、化粧品市場の大きな変化の波にうまく乗って、業績をぐんぐん伸ばしていました。化粧品業界にもネットショッピングという時代の大きなうねりは容赦なく押し寄せてきており、以前のように大手が市場を寡占するという形ではなくなってきています。
10代など若い世代に向けた遊び感覚の強い製品がネットや通販でよく売れる時代に移り、さらに、小規模でも特筆すベき品質や商品に特化して急成長を遂げている会社が出てきています。この社長は若い世代向けの市場に着眼し、ユニークなヒット製品を連発するようになっていました。社長はここが事業を一気に伸ばすチャンスだと思い、2、3年前、経理当の社員を雇いました。
お金に関することはすベてこの社員に任せ、社長は営業活動に専念するという体制を整えたのです。ところが売上が伸び、利益も十分出ている。銀行からも順調に融資を受け、すベてが好循環だという数字が出ているのに、なぜか資金繰りが苦しくなってきたのです。苦しまぎれに社長の個人資産を崩してその場をしのぐ。そんなことを繰り返しているうちに、ついに銀行から呼び出される事態になってしまいました。
さすがの社長も『これは何かおかしい』と思うようになり、税理士に依頼して人を派遣してもらい、すベてのお金の出入りをチェックしたところ、経理担当者がお金を横領していたことが発覚しました。被害額はなんと5,000万円。いきなり倒産とはなりませんでしたが、今後、5,000万円を純益で埋めていくには相当の時間と忍耐が求められるでしょう。社長は銀行印も実印もこの経理担当者に任せていたというから、開いた口がふさがりません。どんなに信用できる人だとしても、これだけは絶対にやってはいけません。
人間はもともと非常に弱い存在です。目の前に自由になりそうなお金があれば、つい手を出してしまう。日産のゴーン元会長の例は人間の弱さ、もろさを如実に物語っているといえるでしょう。この会社の場合は、横領した経理担当者を責める前に、お金のすベてを人任せにし、自身はろくにチェックしていなかった社長が自分自身を責めるベきです。会社に不祥事が起こる原因は、必ず社長にあることを肝に銘じておかなければいけません」(51ページ)
従業員による横領事件は、完全になくすことはできないと、私は考えています。大手銀行で、従業員が貸金庫から約100人の顧客の財産約18億円を盗んでいたことが、昨年の11月に公表されましたが、銀行は預金者からお金を預かる事業を営んでいることから、一般の会社と比較して厳しい管理が行われているにもかかわらず、このようなことが起きてしまいます。これは極端な例ですが、億単位までではなくても、数千万円、数百万円の横領事件は、日々、起きているでしょう。
だからといって、横領が起きないようにするための対策は行っても意味はないのかということではなく、なくすことはできないからこそ、対策はしっかり行わなければならないと考えなければなりません。特に、中小企業では、経営者と従業員の関係が家族的になっている面もあり、そのことは中小企業の強みでもあるのですが、逆に、信用しすぎてしまうことが、横領が起きる要因にもなってしまいます。
そして、注意しなければならないと私が感じていることは、中小企業は相対的に従業員数が少ないため、それぞれの担当する仕事が固定的になってしまう傾向にあるということです。仕事が固定的になると、取引先などと癒着が起きやすくなり、そのことが横領などの要因になってしまいます。そこで、そのような癒着が起きることを避けるためにも、中小企業であっても定期的な人事異動を行うことが大切と言えます。
繰り返しになりますが、従業員数が少ない中小企業では、人事異動を行うことは難しいだけでなく、人によっては顧客と接する仕事を避けようとしたり、デスクワークを避けようとしたりすることから、人事異動は難しい面もあります。しかし、定期的な人事異動は、不正をすると、自分が異動した後にそれが発覚するということがあらかじめ認識できるので、牽制の効果を得ることができます。
さらに、もうひとつ注意しなければならないと私が考えていることは、横領が起きると、銀行からの信用を低下させてしまうということです。三條さんの顧問先では5,000万円の損失が発生しましたが、このようなことが起きると、銀行は、当然のことながら、その会社を警戒します。原因は違うとしても、5,000万円が横領されたということは、5,000万円の売掛金の回収が不能になったときと同じインパクトを会社が受けることになります。
そう考えれば、銀行は、損失の発生が原因で会社の資金繰が行き詰まるきっかけになることを警戒することになり、その後の融資審査に悪影響を与えるでしょう。このような観点から、横領が起きないような対策を行うことは労力がかかるものの、決して疎かにしてはならないということをご理解いただくことができると思います。
2025/12/3 No.3276
