[要旨]
経営コンサルタントの三條慶八さんによれば、北海道砂川町にあるいわた書店では、売上減少を打開するために、顧客にいくつかのアンケートに答えてもらい、そのアンケート結果に基づいて、店主がそのお客さん1人のために、おすすめの本を約1万円分選んで届けるというサービスを開始したところ、口コミで評判が広がり、NHKの番組でも紹介されるようになりましたが、このように、めんどうくさいことをすることで、他者に真似ができない競争力の高い事業を行うことができるようになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの三條慶八さんのご著書、「社長のお金の基本」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三條さんによれば、三條さんの顧問先の化粧品を製造している会社では、事業が順調に拡大していったことから、新たに経理担当者を雇い、社長は営業活動に専念していたところ、その経理担当者が5,000万円の横領をしていたことが発覚したそうですが、これは、社長が経理業務をチェックしていなかったことが原因であり、社長は管理業務も怠ってはならないということについて説明しました。
これに続いて、三條さんは、中小企業は、手間がかかることを行って差別化を図ることが望ましいということについて述べておられます。「出版も不況に悩む業界の1つです。街から書店が消えていく様子は珍しくなく、私の周辺でも、ふと気づくと、それまで大きな書店だったところがカフェやドラッグストアに変わっている例をいくつも見かけます。そんななかで、めんどうな手間暇をかけることで3000人の固定客をがっちりつかみ、安定的な経営軌道にのせた書店があります。
『いわた書店』は北海道の砂川町にある小さな書店で、以前はご多分にもれず、売上減少に四苦八苦していました。しかし、店主は、『書店のプロとしてのスキルで勝負できないだろうか』と考え、『ー万円選書』というサービスを思いつきました。お客はいくつかのアンケートに答え、同時に1万円を払い込みます。そのアンケート結果(カルテと呼ばれている)に基づいて、店主がそのお客さん1人のために、おすすめの本を約1万円分選んで届けるのです。
もともと『売れる本』ではなく『売りたい本』を置くようにしていたという心底本を愛する岩田さんだからこそ、思いついたアイディアといえるでしょう。このサービスは口コミで広がっていき、ついにはNHKが『プロフェッショナル仕事の流儀』でとり上げるまでに。『運命の1冊、あなたのもとへ~書店店主・岩田徹』が放送されると評判はさらに高まり、いまでは『1万円選書』は抽選で当選した人限定、という人気ぶりです。
アンケートはA4用紙3枚におよぶ詳細なもの。これを書くことで自分を見つめなおす機会を得たという感想も多いといいます。さらに、送られてくる本には岩田さんからの手紙も添えられており、それがお客に新たな感動を呼んでいます。カルテを読み、そこから見知らぬお客の思い出や人間性を読み取って本を選んでいく店主の手間暇がどれほどのものであるかを思うと、その努力と、本に対する愛情に強く胸を打たれます。
届く本は多彩で、ふだん、自分では手にとらないようなジャンルの本も含まれていることが多く、そこから新たな本との出会いを提供するという効果もあります。めんどうくさいから、手間暇がかかるから……と尻込みするばかりでは、会社の将来は開けていきません。むしろ、人がいやがるめんどうくさいところに積極的にお金を使ってみましょう。その思いきった戦略が活路を開く。こうした戦略はほかにもいろいろあるはずです」(60ページ)
三條さんがご指摘する、「めんどうくさいところで勝負する」という考え方は、ほとんどの方がご理解されると思います。それは、不特定多数の顧客を持つ大企業では、めんどうくさいことで勝負することが困難であり、逆に、顧客が少ない中小企業だからこそめんどうくさいことができるわけです。
ところが、その理屈は分かっても、これを実践することは容易ではないということも現実だと思います。なぜなら、めんどうくさいことはある程度のスキルやモチベーションがなければ実践できないからです。岩田さんの場合、「売れる本」ではなく「売りたい本」を売ろうという志をお持ちだったことが成功の要因でしたが、もし、これを組織的に行おうとするには、従業員の方に岩田さんと同じスキルを身に付けてもらったり、やモチベーションを高めてもらったりすることが必要になります。
私は、ときどき、「これからは従業員が商品になる」とお伝えすることがありますが、これは、競争力の高い商品(顧客体験価値)をつくるには、従業員のスキルやモチベーションが必要になるので、従業員の育成そのものが商品づくりでもあるということを指しています。ですから、めんどうくさいことで勝負しようという中小企業は、1日でも早く従業員育成を始めることを、私はお薦めしています。
2025/12/4 No.3277
