[要旨]
経営コンサルタントの中村真一郎さんによれば、「攻めている会社」、すなわち、事業拡大を目指している会社は、赤字になりやすいので、銀行からは評価されないことが多いということです。また、役員が会社から借入をしていたり、逆に、会社が役員から借入をしている会社も、銀行からは評価されないので、資金繰表による資金管理によって、役員間との資金の融通をしなくても済むようにすることが大切ということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中村さんによれば、大口取引であっても、また、販売先が優良企業であっても、売上金の回収期間が30日を超える条件の場合は断った方が好ましく、それは、売上額や利益の大小以上に、「入金は早く、支払いは遅く」の鉄則を守ることによって、倒産のリスクを大幅に下げることができるからであるということについて説明しました。
これに続いて、中村さんは、銀行は保守的な会社に融資をしたがるということについて述べておられます。「基本的に銀行がお金を貸したがるのは、『コンサバ(保守的)な会社』であり、いい意味でも悪い意味でも『余計なことをしていない会社』である。私が見た限り、銀行が融資したがる会社の特徴は、以下の通りだ。(1)本業に関すること以外にお金が流れていないこと。(2)赤字や借入がないなど、損益計算書(PL)・貸借対照表(BS)がキレイであること。(3)経営者と会社との間でお金のやりとりがないこと。
『本業に関すること以外にお金が流れていない』とはどういうことかと言えば、簡単に言えば、事業拡大に向けた先行投資、例えば、広告宣伝などとしていないということだ。銀行が見ているのは『将来性』よりも『今の決算書』である。『将来に向けて利益を削って先行投資している』ことは、融資の際には必ずしもプラスに働かない。これは(2)の損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)の話ともつながってくる。
実は、『攻めている会社』、『事業拡大を目指している会社』は、本来であれば会社に残る利益を営業活動や投資に回すため、赤字や借入が増えやすく、PLやBSが汚れる傾向にある。こういった会社は銀行の融資を受ける際には不利になる。銀行融資を受けるために利益を確保するか、それとも事業拡大のためにお金を使うか。これは、どちらかが『絶対に正しい』と言えるものではない。ひとえに、経営者の考え方による。
(3)は、社長や役員が会社からお金を借りる、あるいは会社に自分のお金を入れる、いわゆる『役員貸付金』や『役員借入金』のことを指す。『役員貸付金』があると『会社と個人の区別がついていな』という印象を持たれる。さらに、銀行は会社のお金が外部に流出している状態を嫌うため、心象が非常に悪くなる。融資を受けたい場合には、かなりのデメリットになる。逆に、会社への貸付(役員借入金)ならば構わないと思うかもしれないが、これも融資を受ける場合には、あまり好ましくない。
銀行は財務数値を使って会社の評価を行うが、会社への貸付(=社長借入)が多いと、財務数値の中でも重要な指標である『自己資本比率』が下がってしまうからだ。中小企業、特にオーナー企業だと、資金繰の関係で社長が会社にお金を貸したり、逆に会社のお金を借りたりするということがよく行われる。もちろん、切羽詰まった状況だと、そうするしかない場合も多々ある。しつこいようだが、こういった事態も『日繰り表』で入出金の状況をしっかりと把握しておけば、防ぐことができる」(91ページ)
この引用部分については、中村さんと私で考え方が異なる部分があるので、ひとつずつそれを述べたいと思います。まず、銀行は事業拡大を目指している会社に融資を避けているという指摘は正しいと思います。しかし、それは、銀行が事業拡大を評価していないということではなく、事業拡大をするときに必要になる資金は比較的リスクが高いので、銀行融資ではなく、出資を受けることが基本だからです。
詳細な説明は割愛しますが、銀行融資は調達コストが少ない(金利が低い)資金調達方法なので、それは、裏を返せば、リスクが高い事業には向かないのです。もちろん、銀行は融資相手の会社が新規事業に進出すること自体には反対しないでしょうから、新規事業に進出したい場合は、メインバンクからベンチャーキャピタルなどを紹介してもらえば、リスクの高い資金需要に応えてもらうことができるのではないかと思います。
次に、会社と役員の間でのお金のやり取りは、行わないことが望ましいことは事実です。このうち、会社が役員に貸付することは、銀行から公私混同と思われても仕方がないと思います。もし、どうしても役員がお金が入用なのであれば、会社からではなく銀行から融資を受けるべきでしょう。それが、住宅ローンや教育ローンであれば、銀行は取引が拡大できると歓迎するはずです。単に社長個人の遊興費が欲しいので、銀行には申し込むことができないというのであれば、それはまた別の問題です。
それから、役員が会社から融資を受けたのではなく、使途不明金や、当初は経費として支出したものの、決算時に税務上の損金として認められないため、それらを社長への貸付として顧問税理士が計上することがあります。これらは単に経理処理がずさんであることによるものなので、これもまた別の問題と言えます。逆に、役員が会社に貸付することも、なるべく避けた方がよいことは事実です。もし、役員が会社に資金提供するのであれば、増資の手続きをすればよいのですが、増資の手続きは比較的煩雑なので、貸付としてしまうことが多いようです。
でも、中村さんがご指摘しておられるように、役員からの借入は、自己資本比率を下げることになるので、手続きは面倒でも出資とすることをお薦めします。なお、地方銀行や信用金庫では、役員から会社への貸付は、実質的には出資と見ることができるので、自己資本比率の計算は、役員借入金を自己資本として計算し、融資判断をすることもあるようです。ただし、これはそれぞれの金融機関の判断で行うことなので、それを前提にしないことが無難です。
最後にまとめると、事業活動は会社が主体的に行うものなので、銀行からどう評価されるかを考慮しながら行うということは本末転倒になることは間違いありません。しかし、事業活動を円滑に行うには、資金の提供者である銀行に協力を得なければならないこともあることから、適宜、銀行の意向を仰ぐことは重要だと思います。そして、自社の決算書が「キレイ」であることは、安定的な事業展開に有利になることは間違いないので、適宜、顧問税理士か財務に詳しいコンサルタントに、自社の財務状況を診断してもらうことをお薦めします。
2024/12/16 No.2924