鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

生き残るには周辺価値ではなく基本価値

[要旨]

会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんは、接客や演出などの周辺価値である程度は競争力を高めることはできるものの、最終的には基本価値がなければ勝負には勝つことができないと考えているそうです。なぜなら、基本価値、すなわち、オリジナリティがなければ、強力なライバルが現れると、すぐに顧客が奪われてしまうからだということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんは、ブランドのことを知名度が高いことと考えている経営者が多いが、それは誤った認識であり、本当のブランドとは、「このプランドでなくちゃイヤ!」という顧客が多くいることであると考えており、経営資源の少ない中小企業こそ、ブランドをつくることが大企業に勝つ方法であるということについて説明しました。

これに続いて、中谷さんは、「周辺価値」より「基本価値」が重要ということについて述べておられます。「確かに、接客力や演出力などのいわゆる“周辺価値”も、徹底すればブランド力にはなりうる。もし仮に、オリジナル商品を何ひとつ持たない商店を経営しているとしたら、当然のことながら、接客を軸とした“周辺価値”をウリにするしか道はない。

例えば、店長からバイトまで徹底してお客樣全員の名前を覚えさせる。幼い子を連れたお客様がいらっしゃれば、片方の手で子どもの手を引いて帰れるよう、大きめの袋を2枚重ねにし、商品をひとつにまとめてお渡しする。また、お年を召したお客樣なら、商品の重さを分散できるよう、小さい袋2つに分けて両手に持たせてあげ、幼い子どもがひとりで買い物に来た場合は、お釣りを落とさないように、小銭を袋に入れて持たせてあげる。(中略)

ここまでストーリーを読んだ接客をすれば、多くの人はいくつかの競合店の前を通り過ぎてまでもあなたの店へと通ってくれるだろう。(中略)だか、僕は断言する。結局、最後に生き残るのは基本価値だ。軸となる商品力がなければ結局は長続きしない。(中略)周辺価値オンリーで勝負するのはやはり危険である。一時の気の緩みが、そのまま失客に繋がりかねないからいくら上げ膳据え膳で飲み食いさせたとしても、今の相手より数段イイ男やイイ女に言い寄られれば、人間はいとも簡単に寝返る。

反対に、他では絶対に手に入らない圧倒的なリアプラ力さえあれば、接客力などたいした問題ではないのである。あなたの地元にもないだろうか。たいしてキレイな店でも、接客がいいわけでもないのに、どうしても立ち寄りたくなってしまう絶品の味を出す店が。これらの隠れた名店は客寄せパンダのような周辺価値では勝負していないのだ。僕のサロンにも当然、基本価値と呼ベるリアプラ力がいくつも存在する。一般にはあまり知られていないが、髪を染めるためのカラー剤というのは結構な毒薬である。

例えば、農薬で自殺を図ろうとした場合、500ccぐらいの量が必要らしいが、カラー剤なら、ほんのひとさじ舐めるだけでスカッと爽やかに逝けるらしい。さすがに僕も試したことがないので、その真相は定かではないが、いずれにしてもカラー剤に含まれる有害な化学物質が皮膚から吸収され、多少なりとも内臓に負担をかけるという経皮毒の危険性は、かなりの信びょう性をもって多くのメディアが取り上げている。

そこで、僕の経営するサロンでは、独自の方法でカラー剤の毒性を可能な限り中和、除去し、『カラーエステ』というオリジナルメニューとして提案している。企業秘密なので詳しいことは明かせないが、毒性を中和したその薬剤に、髪に必要な栄養素をバランスよくプレンドすることで、『しみない』、『臭わない』、『傷まない』、そして染めるほどに髪にツヤが増す夢のカラーメニューが誕生したのだ。

その価値を明確に表現するために、僕の店ではカラーリングではなくカラーエステという新たなカテゴリーネームで表現した。その価値を熟知しているうちのお客様は、絶対に他の美容室では髪は染めないし、スタッフたちもうちのサロン以外で髪を染めることはまずない。(中略)このように、明確なリアプラ力を掲げ、目的地に近づいていくと、意外といらないものが多いことに気づく。

美容室ならお客樣が望んで次回の予約を必ず取り付けてくれるようになれば、休眠客を掘り起こすためのおうかがい葉書やメールなどを送る必要はなくなるわけだ。つまり、花畑牧場の生キャラメルなみに、グリコが美味けりやオマケはいらない。ビックリマンチョコがGODIVAより美味しければ、おまけのシールなど必要ないのである。価値で繋がるというのはそういうことなのだ」(92ページ)

中谷さんの、「周辺価値ではなく基本価値で勝負しなければならない」というご指摘は、ほとんどの方がご理解されると思います。ところが、周辺価値に注力する経営者の方は少なくないと、私は考えています。というのは、基本価値を高めることは、難易度が高い、または、そもそも不可能という面があるからです。特に、参入障壁の低いレッドオーシャンの業界では、基本価値で勝負することは不可能です。

したがって、そのような業界にいる会社の場合、事業ドメインを変えるといった対応が必要になるでしょう。例えば、理容店のQBHouseは、提供するサービスを散髪に絞った結果、理容に関する時間と料金を節約したいというニーズに応るというブルーオーシャンを開拓しました。したがって、基本価値を高める方法は、QBHouseのように、事業ドメインを変えるという方法もあると、私は考えています。

ところで、私は、基本価値を高めることでいらないものに気づくという中谷さんのご指摘も大切だと感じました。例えば、ラーメン二郎は、独特のラーメンを出すことだけに注力しています。そして、正直なところ、私は、ラーメン二郎の接客は不親切だと思っています。なぜなら、来店客をあえて長時間並ばせたり、食券も商品名が書いてあるものではなく、色で商品を識別するプラスチックの札であったり、野菜の量や油の量も、「通」の言葉で注文しなければなりません。

さらに、どうしても残してはいけないという明文化したルールはないものの、ラーメンは完食しなければならないという暗黙のルールがあります。そのため、私だけでなく、ラーメン二郎は苦手という人もいるようです。ところが、同店は熱心な顧客で繁盛しています。それは基本価値が高いからであり、そのような店は「不親切」であっても繁盛するわけです。これは、基本価値を高めることのメリットだと私は考えています。

2025/9/5 No.3187