鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

生き残るために潰れたら困る店になる

[要旨]

会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんは、ブランドのことを知名度が高いことと考えている経営者が多いが、それは誤った認識であり、本当のブランドとは、「このプランドでなくちゃイヤ!」という顧客が多くいることであると考えており、経営資源の少ない中小企業こそ、ブランドをつくることが大企業に勝つ方法であると考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんは、ブランドとはどういうものなのか、なかなか説明が難しいものではあるものの、中谷さん自身は「顧客との約束を守った結果、得られる信頼」と定義しているということについて説明しました。

これに続いて、中谷さんは、単にお店が有名になるだけではブランドがあるとは言えないということについて述べておられます。「さて、ここからが本題だ。『リアルプランド』とは何か?これについて具体的に掘り下げていこう。実を言うと、あなたがプランドと思っている店の多くは、意外とリアルプランドではない。一見、それっぽく装ってはいるが、プランドもどきである場合が多いのだ。先ほど僕は、そもそものブランド観が間違っていたと書いた。プランドとプランドもどきの混同こそが、ブランディングを“金を生まない、いちノウハウ”に貶(おとし)めた原因だと言っても決して言いすぎにはならないだろう。

プランドもどきとは、『ただ単に有名な店』を指す。その判断基準は、その店の名前を知っている人が何人いるか?という指標だ。とくに大手企業の場合、有名であるかどうかは重要なキーであるから、一般的に、知名度が高い=プランドと混同ざれやすい。だが、本書でいうリアルプランドとは、店の大小にかかわらず、明確なリアプラカ、つまり、その店に通う明確な理由を持っている店のことを指す。つまりその判断基準は、知られている知られていないで割り切るのではなく、『このプランドでなくちゃイヤ!』という人が何人いるかなのである。

例を挙げよう。セブン-イレプンというコンビニの名前をおそらく知らない人はいないだろう。それだけ知名度は高い店ということになる。ところが、『もし明日、セブン-イレブンがなくなったら困るか?』と聞かれたら、『困る』と答える人が何人いるだろうか?無論、家の近所から行きつけのコンビニが消えれば、それはそれで不便だろうが、代わりにローソンやファミリーマートがオープンするとしたら、おそらく問題は解決するはずだ。つまりこの場合、セプン-イレブンは知名度は高いが、リアルプランドとは言い難いということになる。

では反対に、名前も知られていないしがない田舎町のコンビニがあったとする。例えば、函館にある『ハセガワストア』をご存じだろうか。おそらくあなたが、よほどの北海道通じゃない限りご存じないだろう。だが、この店にはたくさんの人が目当てにして訪れるという完全無欠の名物がある。その名物の名は『やきとり弁当』だ。余談だが、函館や室蘭のやきとりは、どういうわけだか豚肉である。豚肉と玉ねぎを串に刺し、なんと店内で焼きあげてご飯にのせる。たったこれだけのシンプルな商品なのだが、食ベてみると妙に病みつきになる。だから、やきとり弁当の虜(とりこ)になった人たちは、函館に来るたび、この店に寄らずにはいられないというわけだ。

ハセガワストアは、知名度こそ高くはないが、この店じゃないと満足しないコアなファンを大勢抱えている。これは、押しも押されもせぬリアルプランドだと言えるだろう。つまり、知名度を高めるために膨大なPR資金を投入できない中小企業がとるベき戦略は、リアプラ力を熟成させることにある。小資本の会社は、間違っても一時だけの売名行為に、なけなしのお金を使ってはいけない。生き残るためには、『潰れたら困る!』とお客樣から未来永劫言われるお店、会社になることが先決なのだ。中小零細の経営者は、まずそのことを肝に銘じておいた方がいい」(88ページ)

中谷さんのご指摘は、単純に言えば、「ブランドもどき」ではなく、「リアルブランド」をつくらなければならないというものです。しかし、このご指摘ついてはもう少し深く掘り下げる必要があるとおみます。まず、ブランドとは何かということですが、ブランド研究者の第一人者のデューン・ナップは、著書、「ブランド・マインドセットーブランド戦略の原則とその実践法」の中で、ブランドについて、「顧客や生活者に認識された情緒的・機能的ベネフィットがもたらす印象の蓄積が、『こころの眼』の中でとんがった位置づけを占めること」と定義しています。

とはいえ、これは彼が独自に定義したものなので、すべての経営者の方がこれに従わなければならないということではありません。しかし、ブランドとは知名度の高さであるという単純なものではないということは事実でしょう。そうでないとすれば、ブランドとは言わずに知名度と言えばすむはずです。したがって、ブランドとは知名度が高いことという考えは、間違っているというよりも、無意味ということになります。次に、「ブランド≠知名度の高さ」であるとしても、知名度を高めることは意味がないのかという疑問を持つ方もいると思います。

ビジネスにおいて、自社、または、自社製品の知名度が高いことは望ましいということに間違いはないでしょう。しかし、中谷さんも述べておられるように、知名度が高いだけの会社よりも、ブランドのある会社の方が、顧客と会社の関係は強いものとなっています。ですから、事業を優位に進めるためには、知名度だけでなく強固なブランドをつくることの方が望ましいと言えます。ところが、ここで、一つの問題があります。ブランドをつくることが望ましいということが分かったとしても、それをつくることは、意外と難しいということです。

やはり、他社に真似できない強さが必要であったり、ブランドを多くの顧客(及び、潜在顧客)が認識するようになるまで時間を要するということです。ただ、これは、裏を返せば、いったんつくられたブランドは、容易になくならないという特徴の現われとも言えますし、だからこそブランドをつくることの意義も大きいと言えます。しかしながら、さらに問題と思われることは、「知名度を高めることで自社のブランドがつくられる」と誤って認識してしまう経営者の方や、または、本当のブランドづくりは難易度が高いので、それを避けるために知名度を高めることしかしようとしていないと思われる経営者の方もいるということです。

実は、これと似たような事例として、コアコピタンス経営や、USPの活用といったことを吹聴していながら、コアコンピタンスとは何か、USPとは何かを正確に理解していないと思われる経営者の方も少なくないという実情が挙げられます。私は、経営者の方は専門用語を正しく理解しなければならないということを言いたいのではありません。競争力を高めようとするための施策を正しく理解しなければ、自社の競争力は真に高まることはなく、かえって目的を達するまでに時間や費用を無駄にしてしまうことになります。

2025/9/4 No.3186