[要旨]
会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんによれば、日本の美容業界では、実力があるというだけでは必ずしも業績がよくなるとは限らないので、しかるベきPRにより、生活者に「買うベき理由」、すなわち「価値」をきちんと伝えなければならないということです。
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千葉県浦安市にある、会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナー、中谷嘉孝(なかたによしたか)さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を拝読しました。中谷さんは、24歳の時に美容師として独立しますが、中谷さんのお店の近くに、Jリーグのチームの練習場があったころから、サッカー選手が訪れるようになり、さらに、サッカー選手のファンの人たちも来店するようになり、売上が増えていったそうです。
しかし、来店してくれていたサッカー選手が他のチームに移籍してしまうと、ファンの人たちも来店しなくなり、売上が減ってしまったという経験をしたそうです。そのような中、中谷さんは、ヘアコンテストに出場することを決めたそうです。「そんなほろ苦い誤算を経験した僕は、やはり初心に帰って正攻法でいこうと心に決めた。所詮、理美容師は技術者。ならば技術コンテストでの優勝、つまりは日本一を目指そう!というわけだ。日本一になれば世間から注目され、低迷した売上も回復するだろうという甘い考えもあった。
正直で素直な心に、スケベ根性をこれでもかと言わんばかりに満載した経営者。それが当時の僕だった。ところが、そんな不純な動機で挑戦したコンテストだったにもかかわらず、これまで運だけで生き抜いてきた僕のツキは、まだまだ落ちていなかった。県大会、ブロック大会をあっざりと勝ち抜き、あろうことか初めて出場した全国大会で、優勝を果たしてしまったのである。しかし全国優勝を売上回復のマーケティングツールとして利用しようと目論んだ僕の狙いは、思わぬ落とし穴のせいで、またしても大幅に狂ってしまった。
実は、『仮に全国大会で優勝した場合、その実績を決してお店のPRなどには利用しないこと』という、なんともしょっぱい誓約書に、当時の選手たちは全員署名させられていたのである。あなたが、カリスマ美容師の名前なら少しは知っていても、へアコンテストのチャンピオンの名前をひとりも知らないのは、おそらくこのためだ。そんなこんなで、端からPRだけが目的で大会出場を決意した当時の僕は、表彰式直後の優勝インタビューでも、まるで落ち武者のような表情を浮かベていた……。
さらに、不幸はそれだけにとどまらなかった。翌日からは、撮影依頼、執筆依頼、講習依頼などの電話が鳴り響き、まったく営業にならないのである。ポランティア的なギャラでの全国ツアーが始まり、サロンに出ることさえもままならないのだ。それでも、尊を聞きつけて来てくれる新規客もそれなりには増えるのだが、チャンピオンズサロンを一度体験したいだけのミーハーミ客か、お手並み拝見とばかりの同業者ばかり。僕の目論みは、大幅に狂っていった。
そして、最も衝撃的だったことは、ちょっとした技術の違いなんて、そうそう素人にはわかってもらえないという事実である。通常、人が上手いか下手か、あるいは、美味しいか不味いかなどを判断する基準は、多くの場合、職人の腕というより自分の好みに合っているかどうかにかかっているのだ。かつて、某大手飲食チェーンの社長が『日本人の80%は味音痴』と公言して話題を呼んだが、実際、プロの観点と素人の観点には相当の差がある。
身も蓋もないように聞こえるかもしれないが、俳優も歌手も技術屋も、『実力=売れる』という図式は、残念ながら日本というこの国には存在しない。しかるベきPRにより、生活者に『買うベき理由』、すなわち『価値』をきちんと伝えられたものだけが売れているというのが消費の真理なのである」(24ページ)
中谷さんは、「俳優も歌手も技術屋も、『実力=売れる』という図式は、日本には存在しない」とご指摘しておられますが、私もそう感じています。念のために付言しておきますと、実力があれば業績によい影響を与えると思いますが、実力があるだけでは業績は向上しないということも事実だと思います。
例えば、日本でいちばん売れているハンバーガーは、マクドナルドのハンバーガーですが、失礼ながら、マクドナルドのハンバーガーの味は日本で最もおいしいとは言えないと思います。マクドナルドのハンバーガーが売れている理由には、おいしさ以外の要素、すなわち、価格、商品の企画力、商品が提供されるまでの時間、店舗網など、さまざまな要因があります。もちろん、ファストフード店と美容店は単純には比較できませんが、経営者、特に、技術系の方は、実力があれば業績も高くなるとだけ考えている方は多いように思います。
ちなみに、私が属する士業業界にも同様の考えの方は少なくありません。すなわち、複数の資格を取得したり、難易度の高い資格を取得すれば業績が高くなると考えている人は結構います。それらは業績によい影響を与えることは間違いないと思いますが、私のような中小企業診断士は独占業務がなく、資格を持っていない経営コンサルタントで私よりも業績が高い人はたくさんいます。ですから、業績がなかなか向上しないという経営者の方は、業績を高める要因は何なのかを、改めて見直してみることをお薦めします。
2025/8/29 No.3180
