[要旨]
会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんによれば、上位20%の優良な顧客で売上の約80%を占めているというパレートの法則がありますが、プランド戦略の肝は、下位80%の顧客を捨て、上位20%の顧客との取引を深める、すなわち「狭めて捨てる」という手法であるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんは、濃厚な魚介豚骨のスープを提供している、つけ麺専門店のとみ田は、その一方で、魚嫌いや豚骨嫌いの人たちを顧客としないという選択をしているから、自店の顧客と親密な関係を築くことができていると分析しており、同店のように、基本価値を高めるためには、特定の嗜好の顧客を選択しなければならないということについて説明しました。
これに続いて、中谷さんは、パレートの法則について述べておられます。「パレートの法則(80対20の法則)をご存じだろうか。多くの企業の場合、上位20%の優良な顧客で売上の約80%を占めているという法則だ。例えぱその優良な顧客の満足度を高めることにだけ情熱を傾け、その人たちが、1人ずつ優良なお友達を紹介してくれたとしたら、残りの80%を全部捨てたとしても、売上は160%にアップすることになる。
極端かもしれないが、あなたの会社で、毎月コンスタントに1,000万円以上使ってくれるお客様がいたら、間違いなく、そのお客様の満足度だけを考えるだろう。家業に近い規模の会社なら、このお客様1人が落としてくれる売上だけで御の字である。同時に固定客100%を達成したことになる。まあその分、そのお客樣にもしものことがあったらというリスクはあるのだが。
ただし、80対20の法則は反作用があるので注意が必要だ。例えば、空気を読めないひとりの客のために、他のお客様が不愉快な思いをしたり、スタッフのモチベーションが下がってしまったという経験はないだろうか?こうしたお客様は、迷わず切り捨てるのが経営者の仕事である。高飛車な言い方に聞こえるかもしれないが、プランド戦略の肝は、しつこいようだが付き合う客を選ぶ。すなわち、『狭めて捨てる』勇気なのだ」(148ページ)
パレートの法則は広く理解されている一方で、中谷さんが「プランド戦略の肝は『狭めて捨てる』勇気」とご指摘しておられるように、80%の下位顧客を切り捨てることは、心理的なハードルが高いということも事実だと思います。特に、営業地域が相対的に狭い中小企業の場合、「あの会社は顧客を選んでいる」というような批判的な評判が流れてしまうと、業績に大きな影響が出るということを懸念するかもしれません。
しかし、これからの日本の会社は、顧客を選ぶということが当然になっていくのではないかと思います。例えば、日本の観光地の多くは、今は、外国人からの観光客を主要な顧客としており、宿泊料も飲食代も外国人向けの価格になっています。また、東日本旅客鉄道は、440の駅にあるみどりの窓口を、2025年までに140の駅に集約するという計画を、2021年に公表したものの、それを実施した影響で、窓口の混雑が激しくなったため、2024年5月にその計画をいったん凍結しました。
すなわち、同社は、インターネットか自動券売機を使うことができない顧客を捨てようとしているわけですが、いったん、予想以上の悪影響によって計画を凍結したものの、その流れは変わらないでしょう。いずれにしても、これからは、顧客は店を選ぶ時代ではなく、店から選ばれる時代ということに間違いはありません。ただ、いっきに80%を切り捨てることは難しいという会社は、採算の悪い顧客の上位20%との取引を解消するということから始めてみることをお薦めします。
私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、採算の悪い顧客の上位20%は、会社の労力の80%を奪っているというイメージです。ただ、イメージとはいえ、不採算の顧客との取引を解消し、その労力を得意客に振り向けることで、会社の利益を増加させることが大きく期待できます。
2025/9/8 No.3190