[要旨]
会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんは、濃厚な魚介豚骨のスープを提供している、つけ麺専門店のとみ田は、その一方で、魚嫌いや豚骨嫌いの人たちを顧客としないという選択をしているから、自店の顧客と親密な関係を築くことができていると分析しているそうです。すなわち、基本価値を高めるためには、特定の嗜好の顧客を選択しなければならないということだそうです。
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今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。(ご参考→ https://x.gd/7dlwHf )前回は、中谷さんは、無理なく、そしてストレスのない正当な価値交換を実現するためには、周辺価値という変化球頼りの地域密着型ビジネスモデルから、基本価値という直球で勝負するオンリーワン型へチェンジすることが重要と考えているということについて説明しました。
これに続いて、中谷さんは、顧客を選ばない会社は顧客からも選ばれないということについて述べておられます。「誰だって人に嫌われるのはイヤなもの。それは僕だって例外じゃない。とくに、相手が女性となればなおさらである。ところが、実はここに大きな落とし穴があるこに気づいておいた方がいい。ここで、A子さん、B子さん、C子さんという3人の女性に登場してもらおう。
そしてそれぞれに、『あなたの嫌いなタイプの男性を教えてください』という質問を投げかけてみる。すると当然3人の女性から、まちまちの答えが返ってくることが想定できるわけだが、そこでもし僕が、すベての答えを真っ正面から受けとめ、どの女性からも嫌われないように努力を重ねたとしよう。すると、きっとそこには何の魅力のない、絵に描いたような普通クン、通称「いいヤツ」ができあがっているはずである。
誰にも嫌われないかもしれないけれど、ゆえに誰も魅了できない……。いてもいなくてもいいヤツというわけだ。勘のいい人なら、もうすでにお気づきかもしれないが、オンリーワンビジネスにおいて最も重要なのは、皆から嫌われないよう無難に装うということではなく、自分が本当に付き合いたい人に好かれること。本命を落とすことである。どうでもいい相手に媚びる前に、『おまえは誰に愛されたいんだ?』ということなのである。
例えば、あなたがA子さんを落とすのが目的なら、B子さんとC子さんに嫌われたっていいじゃないか。プランドを目指す経営者も同樣だ。要は『狭めて捨てる勇気』が不可欠なのである。『あれもこれもほしい!全部が本命!』。このような会社は実際に数多く存在する。『だって客商売でしょ?すベてのお客様は神樣でしょ?』という経営者も星の数だ。しかし、僕からすると本来の目的を履き違えている姿にしか見えない。
皆さんは、『とみ田』というつけ麺屋をご存じだろうか。全国のラーメンランキングでも常に上位にランクインする、いつ行っても行列の絶えない人気店だが、あの濃厚な魚介豚骨のスープは、苦手な人も少なくないだろう。だからといって『とみ田』が先ほどの会社や経営者のように『すベてのお客様に満足してもらわなきゃ!』と、魚嫌いや豚骨嫌いの人たちを気遣って、あの独特の個性を消してしまったらどうだろう。今まで支持してくれた多くの人たちを裹切ることになってしまう。
反対に、味噌・塩・油はもちろん、坦々麺からカレーラーメンまで、樣々なメ二ューを豊富に取り撕えた大手のラーメンチェーン店は、そうそう嫌われることも少ないだろう。だが、明日その店が潰れて困るかといったら、それもやはり疑問だ。すなわち、『誰にも嫌われない店』=『どうでもいい店』という図式が成り立つわけだ。(中略)
さて、少々遠回りしたが、僕がここで伝えたかったことは、お客を選ばない会社はお客からも選ばれないということである。世の中には、あなたの価値をわかってくれるヤツもいれば、わかってくれないヤツもいるのだ。ゆえに、イヤなものをイヤだと認め、潔く手放した時、正しい距離感が々気見えてくる。少々気取った言い方をすればビジネスは“生き方”そのものなのである」(101ページ)
中谷さんが、「狭めて捨てる」、すなわち顧客を絞り込むことはターゲティングといい、このような手法は多くの会社が実践しています。また、顧客を絞り込むことは、局地戦で戦うということでもあり、これはランチェスター戦略の第一法則、すなわち、弱者の戦略を実践するということです。すなわち、中小企業は経営資源が比較的に少ないため、全方位で戦うことはできないため、戦う場所を狭めることで優位に戦えるようにするという論理で、これも容易に理解できるものです。
ところが、これは理解は容易でも、実践することは頭で考えることは難しく、この方法を採らずに、実践しやすい価格競争や、前回ご説明した「地域密着」という、あまり効果がない方法を採る中小企業も少なくありません。当然、そのような手法では、中小企業は大企業に勝つことはできず、体力を消耗して、早晩、敗れてしまいます。そこで、少し厳しいのですが、中小企業は中谷さんのご指摘する通り、基本価値を高めて行くしかありません。この基本価値の高め方については、中谷さの会社や、ラーメン店のとみ田以外にも、たくさんあります。
事例をひとつご紹介すると、兵庫県尼崎市にある防水工事業の阪神佐藤興産(売上高約16億円、従業員数33人)は、マンションやホテルの外壁塗装について、詳細な「劣化診断」を行い、それを「キングファイル」に綴じて提案することで、大手ゼネコンとの競合に強みを発揮しているそうです。これについて、同社社長の佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」に次の通り書かれています。
「『キングファイル』は、提案から見積の段階で作成し、お客様に提示します。ファイルの構成は決まっていて、現状や劣化部分の画像データを、まず、明快に示して、その後に見積を示す。その後に、劣化診断の詳細のほか、工程表や図面、必要な工事の有資格者の氏名を記しています。また、外壁塗装の色で悩むお客様向けに、カラーシミュレーションした画像を添付するケースもあります。作成するのは、以前は、1週間かかっていましたが、現在は、数日まで短縮することができています。
各スタッフが、これまでのファイル作成を通して、ポイントを把握できるようになっていることに加え、これまでの工事すべてが工事ごとにファイルされていて、情報としてストック、共有できることも大きい。いずれにせよ、分厚いファイルがスピーディに提案されること自体が、お客様の信頼につながります。キングファイルは、お客様の診断書であり、医療にたとえるなら、治療の際のインフォームドコンセントの役割を果たします。
前述した劣化診断書も含めて、ファイルとして示していくことで、お客様の理解も深まり、納得度も高まる、他社が数枚の見積書を作成しただけで仕事を進めようとするところを、当社は、数十、百数十ページの分厚く重たいキングファイルを示しながら仕事を進めて行く。このような対応を行っていれば、たとえ、他社が値段勝負をしかけたとしても、優位な戦いができます。
キングファイルを初めて目にしたお客様は、まず驚き、そしてページをめくるたびに、より真剣な表情になっていかれます。介護施設営業部部長の桂義樹は、『キングファイルは、お客様も気づかないような細部を重視しつつ、迅速にまとめていく、こうしたことは、大手のゼネコンとはまったく異なる、当社の大きな武器』と、キングファイルの強みを語ります」
繰り返しになりますが、このような基本価値を高めることは容易ではないことも事実ですが、裏を返せば、基本価値を高めることで、中小企業も大企業に勝つことが可能になっているとも言えます。むしろ、会社の規模が小さいからこそ、大企業よりも柔軟な事業展開ができ、勝負しやすいと考えることもできるのではないでしょうか?
2025/9/7 No.3189
