鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ブランドとは約束を守った結果の信頼

[要旨]

会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんは、ブランドとはどういうものなのか、なかなか説明が難しいものではあるものの、中谷さん自身は「顧客との約束を守った結果、得られる信頼」と定義しているそうです。そして、日本中で髪の綺麗な人は、ルパッチで手入れしてもらったと会話されるようになることを目指して活動しているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんさんは、かつて、顧客にDMを出すなどの販売促進活動を行い、それが一時的に奏功したものの、あるロイヤルカスタマーがそれを評価していないということを知り、DMなどを止めてみたところ、かえって業績が向上したことから、中谷さんは、セオリー通りの販売促進策が自分の目を曇らせていたということに気づいたということについて書きました。

これに続いて、中谷さんは、中谷さんの考えるブランドについて述べておられます。「ブランドとは、いったい何なのだろうか?実を言うと僕自身、ブランドという非常にファジーな二ュアンスを定義する適切な答えを見出せず、長い間悩んできた。僕にプランディングのイロハを叩き込んでくれたキラープランドの総帥・岸★正龍氏でさえ、この難題に対する苦労を著書、“キラープランドの始まりは、路地裹の小ざなお店から…”の中で自らこう語っている。“プランドが何かって質問には、正しい答えがないっていうのが正しい答えだって。

正しい答えがないからこそ、みんなプランドが怖いんだって”と。プランディングという言葉は一時、世の経営者の合言葉だった。『わが社はプランディングの道を邁進していく!』だの『プランディングこそ不景気に勝つ唯一の術!』などともてはやされ、その後見事に廃れたように感じる。現に数年前と比ベて確実にブランディングという言葉は聞かなくなった。果たして、ブランディングとは、“金を生まないファンタジー”だったのだろうか?僕はそうは思わない。そもそものブランド観が間違っていたのだと思う。根底のプランドが持つ意味がぐらつけば、当然その上になるプランディングなんて単なる耳触りのいい言葉でしかない。

僕なりにプランドを定義させていただくなら一言、『信頼』と言い切りたい。自分らしさとお客様との約束を守り続けた結果、数々の伝説が生み出されるようになった状態と表現するのが一番真理に近いように思う。例えば、かつて豪華客船のタイタニック号が沈没した際に、引き上げたエルメスのバッグの中身だけはなぜか濡れていなかったとか、リーバイスジーンズは2頭の馬が逆方向に引っ張っても破れないとか、ZIPPOの炎はどんな強風の中でも消えないなど、プランドと呼ばれるものには、不思議とまことしやかに語り継がれる伝説がある。(中略)

『健康で美しい髪をつくり続けることに情熱を燃やす』。そんな僕らのサロンがいつしか世間からブランドと呼ばれる時、果たしてどんな伝説が生まれるのだろうか。創業以来、僕の思い描いているイメージを話そう。例えば、いつも通勤するバスの中で、お互いに意識し合っている2人の女性がいたとする。彼女たちは、ともに自分の髪の美しさを自慢に思っているが、いつも通勤のバスで一緒になるあの女性の髪もキレイだなあと、実はお互いに気になっていたのだ。

ある朝、遂に2人は隣り合わせの席になり、自然と会話する機会に恵まれる。『あなたの髪、とってもキレイですね。実はずっと気になってたんです』『ううん、あなたこそとってもキレイ。どんなお手入れしてるのかと思ってたんです』和やかな沈然が流れ、ハッと何かに思い至った2人は目を見合わせて同時にこう発する。『もしかして、……あなたもル・パッチ?!(僕の店の名前)』こんなエピソードが、全国のいたる所で噂されるのが僕の夢だ。そして、その夢は確実に叶いつつある」(84ページ)

「ブランド」という言葉は知らない人がいないと思うのですが、その一方で、「ブランドとは何か」という質問に答えられる人は少ないというのは、中谷さんのご指摘の通りであり、かつて、中谷さんご自身もそうであったということです。もちろん、単なる買い物客であれば、「ブランドとは、それを示すマークのこと」と考えることもあるかもしれませんが、ビジネスパーソンがそのように考えていては物足りないでしょう。そして、中谷さんは、ブランドを「信頼」と定義しておられます。

これについては、私も中谷さんの慧眼のすばらしさを感じる定義だと思います。そして、私の場合は、ブランドとは、その製品(サービス)の代名詞になるものだと考えています。例えば、ステープラー(小型紙綴器)ということばをご存知の人は、意外と少ないのではないかと思います。でも、「ホッチキス」と言えば、ほとんどの人が何のことかわかると思います。しかし、ホッチキスは、ステープラーを発明した人の名前であり、商標なのです。ですから、日本では、ステープラーよりもホッチキスの方が知られているくらい、強いブランドになっていると考えることができます。

同様の例では、日本ではあまりなじみがないようですが、米国の素材メーカーの3M社の製品のスコッチテープは、米国ではセロハンテープの代名詞になっています。日本では、フェルトペンやマーキングペンというと、何を指しているのかわからないと感じる人もいると思いますが、マジックインキ、または、マジックペンと言うと、これもほとんどの方が分かるでしょう。このマジックインキは、昭和28年に内田洋行が発売し、商標登録しているものです。そして、中谷さんは、ルパッチが美容室の代名詞になることを目指しているのでしょう。

話しが変わりますが、中谷さんは、「プランディングという言葉は一時、世の経営者の合言葉だったが、その後見事に廃れたように感じる」とご指摘されておられます。中谷さんは、「廃れた」という表現を使っておられますが、私は、「ブランディング」という言葉が廃れたのではなく、「ブランディングという言葉を使っている経営者が経営する会社が廃れた」のだと感じています。というのは、私は中谷さんのように、ブランドを意識して自社の競争力を高めることは効果の高い方法だと考えていますが、「ブランディング」という言葉を安易に使い過ぎている経営者の方が多いのではないかと感じています。

中谷さんも、「そもそものブランド観が間違っている」とご指摘しておられますが、ブランディングのことを、単に、露出を高めることや、目立って有名になることという程度の意味でしか使っていない人の方が多いように私も感じています。これは、言葉の定義が正しいかどうかということではなく、単に、露出を高めよう、有名になろうという浅い意味でしか考えず、それをブランディングであるととらえて活動していても、中谷さんのように深い考察を基に活動している経営者の経営する会社に比べれば、あまり競争力は改善しないことは明らかでしょう。

2025/9/3 No.3185