鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

目標設定がゴールではない

[要旨]

成果の出ないチームは、キックオフミーティングを行うものの、そこで目標を設定することが目的化してしまい、その後はミーティングを開いて目標の振り返りや見直しを行うことはしません。しかし、VUCAの時代において、成果を出すためには、定期的なミーティングにより、チームワークを高め、組織的な活動を継続するようにしなければなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、立教大学経営学部の中原淳教授の著書、「チームワーキング-ケースとデータで学ぶ『最強チーム』のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回までは、VUCAの時代の組織は、どのような組織が望ましいのか、また、そのような組織をつくるにはどのようなことをすればよいのかということについて説明してきましたが、これに続いて、中原教授は、成果が出るチームと出ないチームの違いについてご説明しておられます。

ところで、立教大学経営学部では、約700名の学生が、4~5人ずつ、約200のチームにわかれ、3か月にわたってリアルなビジネス課題に対する問題解決に取り組んでいるそうです。このチーム活動によって、学生たちはリーダーシップなどを学ぶそうですが、中原教授たちも、学生たちのチーム活動を観察し、チームワークに関する詳細なデータを収集しているそうです。そして、そのデータから、成果が出るチームと出ないチームの違いを把握したようです。

「例えば、『目標設定』について言えば、学生たちは、みんな、チームのキックオフミーティングでしっかりと目標を立てています。ですが、逆にいうと、『それで終わり』なのです。成果を上げられないチームは、決まってその目標を振り返ることも、見直すこともありません。つまり、目標を立てっぱなしなのです。目標を立てることがゴールになってしまっていると言ってもいいかもしれません。

それは、『関係づくり』についても同様です。相互理解を深めるために、最初に自己紹介したり、活動についての抱負を話し合ったり、連絡先の交換をしたりはしています。むしろ、非常に仲が良く、関係の質も良好のように見えます。しかし、役割分担をした後は、連絡をほとんど取り合わず、中心的な一部のメンバーが、個々に連絡を取るだけになってしまうチームも少なくありません」(60ページ)

私は、この中原教授の指摘を読んだとき、多くの中小企業でも、似た状況になっていると感じました。すなわち、社長だけがアイディアを出したり、指示を出したりしているものの、部長→課長→課員へと指示が下りて行くにつれて、受動的な活動しかしなくなり、社長だけが空回りしているという状態です。こうなってしまう理由はいくつか考えられますが、そのひとつは、定期的にミーティングを行わないからだと思います。前述の引用文の中でも、中原教授は、成果が出ないチームは、キックオフミーティングだけで終わっていると指摘しています。

では、なぜ、定期的なミーティングが行われないのかというと、その理由のひとつは、ミーティングを定期的に実施することを負担であると、経営者が考えているからだと思います。特に、「現場」経験が長い経営者の方は、「会議室で会議をしている時間があれば、外に出て顧客まわりをすべきだ」と考えている方も多いのではないでしょうか?確かに、かつては、リーダーが強力なリーダーシップを発揮して、メンバーを牽引していくことが、チームの成果を高めることにつながっていたという時代もありました。

しかし、VUCAの時代の現在は、中原教授が何度も指摘しておられるとおり、メンバー全員がリーダーシップを発揮する方が、高い成果につながります。ただ、そのようなチームでは、リーダーは、メンバーの先頭に立って、メンバーを引っ張る立場ではなく、メンバーの後をついて、メンバーの支援をするという立場になるのだと思います。そのような役割はつまらないと考える方もいると思いますが、チームの成果を高めることが最大の目的と考えれば、VUCAの時代に合ったリーダーの役割を演じなければならないでしょう。

2023/5/3 No.2331