[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、安藤さんが広めようとしている識学の考え方の中に人間関係という概念はないそうです。なぜなら、感情で動いている組織では、上司が好きだから言うことを聞くということになりますが、これは逆に言えば、上司が好きじゃなくなったら言うことを聞かなくてもよいということになってしまうからだそうです。そこで、ルールを言語化して運営されている組織では、業務上で感情的になることは起こらず、その結果、人間関係の悩みもなくなるということです。
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今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「リーダーの仮面-『いちプレーヤー』から『マネジャー』に頭を切り替える思考法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、「あいさつをしましょう」、「会議には遅れず参加しましょう」など、やろうと思えば、誰でも守ることができるルールを姿勢のルールと呼んでいるそうですが、姿勢のルールを決めてそれを守らせることで、メンバーに「この輪の中にいるんだ」、「この会社の一員なんだ」という認識を持たせられるメリットがあるということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、リーダーはルールを守らせることが大切な役割であるということについて述べておられます。「職場の人間関係で悩む人は多くいます。しかし、識学の考え方の中に『人間関係』という概念はありません。上司は上司の役割をし、部下は部下の役割をする。ルールに則って規則正しく動く。ただ、それだけです。そこに余計な感情は発生しません。だから、精神的に疲れることはないのです。感情で動いている組織では、リーダーが部下に好かれようとします。逆に部下もリーダーに好かれようとします。すると、『人間関係』の問題が出てくるので、疲れてしまうのです。
『上司が好きだから言うことを聞く』、そんな状況は、一見、聞こえがいいように思えます。しかし、ひっくり返すと、『上司が好きじゃなくなったから言うことは聞かない』ということを許すことになってしまいます。好き嫌いが、上司の指示を聞くか聞かないかのパロメーターになってしまう。そんな状況は絶対につくってはいけません。正しくルールを言語化して運営されている組織では、業務上で感情的になることはありません。その結果、人間関係の悩みもなくなります。『ガチガチにルールだらけの会社はどうなのでしょうか?』そう聞かれることも多いです。私はそれでも、ルールがないよりはずっとマシだと言っています。
大事なのは、ルールがないことによるストレスから部下たちを自由にすることなのです。チームや組織にとって注意すべきことがあります。それが、『コミュニティの外側に出てしまっている人』の存在です。『うちの会社って、スピード感がないところがダメだよね』、『自分がいなきゃ、うちの会社は回らないなぁ』、このように評論家のような立場になったり、個人の力を過信しているような人たちが、あなたの会社にいないでしょうか。彼らの言動や行動を正していくのも、リーダーの重要な役割です。
どうすれば、彼らはコミュニティへの帰属意識を持つのでしょうか。そこで必要になってくることこそが、『ルールを守らせること』です。『姿勢のルール』を設定し、守らせるのです。それでも、『私はそのルールは守りません』と反発する人は、その組織、あるいは会社には合わない人なのだと、識学では考えます。とはいえ、もちろんリーダーには、辞めさせる権限はありません。人事権は経営者に任せ、リーダーは、とにかく感情で動かそうとせず、ルールを守らせることだけに集中します。
ルールを守らない人がいた場合でも、その人だけを特別扱いしてはいけません。『好かれたい』、『いい人に思われたい』という感情はグッと抑え、リーダーの仮面をかぶるのです。これは、ある飲食店のエリアマネジャーの話です。中途入社でマネジャーとして入ったのですが、売上の数字がなかなか上がらなかったたそうです。彼は中途入社であることに負い目を感し、『現場とのコュ二ケーション不足で会社にとけ込めないのが原因だ』と勘達いをしていました。
つまり、『売上の問題』を『コミュニケーション不足』という他の問題にすり替えにていたのです。こういった場面でも、やることは同じです。ルールどおりに動いているかどうかだけに集中してマネジメントするのです。そうすることで、目の前の人間関係の問題を考えなくなり、メンバーたちが迷わずに業務を遂行するようになります。その結果、彼はエリアマネジャーの中でトップの成績を出すようになったそうです。このように、コミュニティへの帰属意識を素早く築き、早く結果を出すために、ルールの設定にフォーカスすることは有効なのです」(78ページ)
経営者の方の中には、事業活動を円滑にするには人間関係は重要だと考える方も多いと思います。私も、人が集まれば、自然と人間関係が発生するので、人間関係を無視することはできないと思います。そして、会社を起こしたばかりの数人の組織や、その後、黎明期の30人くらいまでの組織であれば、人間関係で事業活動が円滑になるということはあると思います。
しかし、人間関係には負の側面もあり、他人の失敗をかばってしまう、声が大きい人の意見ばかりが通ってしまう、派閥ができてしまうなど、事業活動に悪い影響を与えることがあります。そして、事業活動は組織的な活動であるので、個人の感情が入りすぎると、正常な活動ができなくなります。例えば、前日、応援しているプロ野球チームが試合に負けたことが悔しくて、機嫌よく接客することができないという人がいたとすれば、それは許されないことでしょう。組織は個人の集まりであるものの、組織としての活動においては、個人の感情を持ち込んではならないということは言うまでもありません。
そして、安藤さんの指す姿勢のルールは、この組織としての活動に関するルールでもあると、私は認識しています。「あいさつをしましょう」、「会議には遅れず参加しましょう」というものがその例です。ですから、リーダーが姿勢のルールを部下に守らせることは、事業活動が円滑になる効果があると、私も考えています。さらに、姿勢のルールが定着することで、前述したような、人間関係の負の側面も現れにくくなるでしょう。確かに、人と人の関係は大切ですが、組織活動においては、組織に所属する人として活動するので、それを人間関係に左右され過ぎることは避ける方が望ましいと、私は考えています。
2025/6/29 No.3119