[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、ピラミッド組織では意思決定が遅いためにネガティブに評価する人がいますが、実際は、ピラミッド組織の方が意思決定が速く、組織が成長するためにも適しているということです。しかし、ピラミッド組織でも、責任の所在が曖昧で、課長や部長が自ら意思決定をせず、部下から相談をされても、それを上司に伝達ばかりしていると、意思決定が遅くなり、組織がうまく機能しなくなるので、中間管理職の人たちは、自らの役割をよく認識し、意思決定を避けるようなことはしてはならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「リーダーの仮面-『いちプレーヤー』から『マネジャー』に頭を切り替える思考法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、安藤さんが広めようとしている識学の考え方の中に人間関係という概念はなく、なぜなら、感情で動いている組織では、上司が好きだから言うことを聞くということになりますが、これは逆に言えば、上司が好きじゃなくなったら言うことを聞かなくてもよいということになってしまうからであり、一方、ルールを言語化して運営されている組織では、業務上で感情的になることは起こらず、その結果、人間関係の悩みもなくなるということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、ピラミッド組織は組織の成長スピードが速いということについて述べておられます。「あなたが働いている組織は、どのような構造をしているでしょうか。経営者をトップとし、役員が数人いて、各部署に部長がおり、課長などの中間管理職がいて、一般社員がそれぞれに付いている。大小はあるかもしれませんが、そんな『ピラミッド構造』がほとんどではないでしょうか。そして(中略)、『ピラミッド』という言葉にも嫌悪感を抱く人が多くいます。
たしかに、時代が変わり、立ち行かなくなっている日本の大企業を見ていると、ビラミッド組織に問題があるように感じるでしょう。しかし、それは誤解です。ピラミッドには、ピラミッドなりのメリットがあります。識学では、組織の成長スピードを考えたとき、『ビラミッド構造が最適であり、最速である』と考えます。管理職やリーダーなしで組織運営をする『ティール組織』や『ホラクラシー組織』の考え方に賛同するのであれば、まったくゼロから会社を創り、その概念を取り入れるしかありません。(それでも、うまくいく可能性は低いと思いますが)
形はピラミッドなのに、個人の考え方はティール。そんな中途半端な『いいとこどり』はできないのです。すでに出来上がった会社組織にいる人は、ビラミッド組織に適したマネジメント法を実践する必要があります。ピラミッド組織は成長スピードが速い。先ほどそう述ベました。それは、決定する人が明確で、責任の所在がハッキリしているからです。誰に責任があるかを決めておかないと、物事は進みません。たとえば、AさんとBさんの2人で旅行に行くことを考えてみましょう。
両者が行きたいところを主張し合っているだけでは、旅程は決まりません。しかし、普段から旅慣れているAさんが観光で回る順番を決め、Bさんは指示通りについていくだけにすると、スムーズに決まります。もちろん、Bさんは。何も言わずについていくだけではなく、気づいたことや調べた情報はAさんに伝えてオッケーです。しかし、責任を持って最後に決めるのは、Aさんに任せます。ちゃんと楽しい旅になるか、計画が崩れないか。それをAさんが責任を持って判断するようにします。
このように、2人以上の人間がいれば、それは『組織』の関係になります。しかし、よく、次のような話を聞かないでしょうか。『ピラミッド構造だと上に決済をとるまで時間がかかって、なかなか決まらないこ』これは、大きな誤解です。ピラミッドの形が悪いわけではなく、『ピラミッドに合わせて組織が運営されていない』ことが原因です。それぞれのリーダーが持つ責任の範囲が曖昧だから、1つ1つの決定を押し付け合い、意思決定のスピードが落ちるのです。
これは、ある製造業の課長の話です。彼は、部下のマネジメントではなく、自らのプレーヤーの動きばかりとっていました。部下から指示を仰がれても、決めることをせず、『あなたはどうしたいの?』と、判断を部下に委ねていたのです。しかし、自分が決めていないからといって、リーダーである自分の責任を免れるわけではありません。自分の役割を理解し、決めることに対して躊躇をなくしていかなくてはいけません。
そのため、リーダーは、自分が立っている『位置』について考える必要があります。ピラミッドのどこにいるかを把握し、下からの情報を判断し、意思決定をする範囲を知るのです。うまくいっていない会社の中間管理職の人たちを見ていると、『位置』を勘違いしている人が多くいます。部下の言うことをそのまま上に伝えて決めてもらうような『伝言ゲームだけをする人』です。そうではなく、あなたが決められるものは、あなたが決める。その『位置』の考え方を本章で身につけましょう」(101ページ)
引用部分で言及されているティール組織やホラクラシー組織ですが、これらは、ピラミッド組織とは逆に、各々の組織の構成員に権限が委ねられ、自ら意思決定をして活動する組織です。このような組織が望ましいかどうかは別として、このような組織がうまく機能するためには、組織の構成員があるていど意思決定を行い、自ら行動ができるという能力が求められており、これまでピラミッド型で活動してきた組織が、組織図を変えるだけですぐにホラクラシー組織で活動できるようになるとは限らないということに注意が必要です。
話を本題に戻すと、私は、ティール組織のような新しい考え方が登場したことによって、ピラミッド組織という構造が意識されるようになったのであって、従来の組織はほぼピラミッド組織だと思います。だから、ピラミッド組織への批判というのは、実は、組織への批判と同じなのだと思います。では、ピラミッド組織は、なぜ、意思決定に時間がかかると考えている人がいるのかというと、これも安藤さんが言及していますが、課長や部長が意思決定をしないことが少なくないからです。
でも、本当は、ピラミッド組織であっても課長や部長は権限を持っているはずなので、課長や部長がその権限の範囲内で意思決定を行えば、これも安藤さんが述べておられるように、ピラミッド組織は意思決定が迅速になります。ですから、ピラミッド組織は意思決定が遅いのではなく、ピラミッド組織でありながら、意思決定は社長に集中している会社が意思決定が遅いということです。ただ、特に中小企業では、組織図ではピラミッド組織になっているのに、権限だけ社長に集中しているということはよく見られることです。
また、大企業であっても、ポジションは課長や部長なのに、責任を逃れたいために、自ら意思決定を避ける管理職の人も少なくありません。ですから、ピラミッド組織で意思決定が遅くなっているとすれば、それは、各役職で権限を行使していないことが原因であって、ピラミッド組織であることが原因ではないということです。逆に、各役職で権限を行使していれば、安藤さんがご指摘しておられるように、意思決定が迅速に行われるようになります。
でも、ピラミッド組織でありながら、各役職で権限を行使しない組織が多いために、「ピラミッド組織=意思決定が遅い組織」と考えてしまう人が多いのでしょう。したがって、経営者の方は、管理職の人たちが自ら意思決定を行っていない場合、きちんと意思決定をするよう働きかけなければならないでしょう。それどころか、部長や課長に権限委譲をすることさえせず、会社のことはなんでも自分が決めないと気が済まない経営者の経営する会社は、組織が活性化せず、非効率な組織活動しかできなくなるので、業績も向上しないままとなるのではないでしょうか。
2025/6/30 No.3120