鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『外に出る』から力が伸びる

[要旨]

山芳製菓にも、一般的な社員教育のシステムは存在しますが、若いうちに積極的に海外や研修に行かせて学ばせるようにしているそうです。その理由は、少人数の会社では、学べる量や質に限界があり、それを補うことや、外部研修などを受講することによって、愛社精神を養うというものがあるそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、作家の濱畠太さんのご著書、「『わさビーフ』したたかに笑う。業界3位以下の会社のための商品戦略」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、山芳製菓は、菓子製造業であるにもかかわらず、「人をつくり、人に尽くす」を経営理念に掲げており、それは、成行や運任せではなく、継続的な成功を生むことが、何より重要という考え方に基づくものであり、そのために、人材育成によって、安定的な事業活動を目指しているからということについて説明しました。

これに続いて、濱畠さんは、山芳製菓では、従業員の方向けの外部研修を、積極的に活用しているということについて述べておられます。「当然ですが、山芳製菓にも、一般的な社員教育のシステムは存在します。しかし、手を挙げた者が勝ちのような風土があり、同僚やベテラン社員を差し置いて、様々な研修に行く若手のつわものもいます。会社の方針として、歳を重ねると、感性が鈍くなるので、若いうちに積極的に海外や研修に行かせて学ばせるようにしているのです。その結果、自然と、若手の中からモチベーションの高い人材が育つようになりました。

新入社員に異業種交流の場を設けて、映画監督やプロスポーツ選手、芸能人など、多様な分野で活躍している人たちと話をする機会も与えています。一流の仕事をしているエキスパートの話は刺激的であり、記憶に残り、こうした場を与える会社への愛社精神も生まれます。特に、少人数の会社では、社内に閉じこもっていても、学べる量や質に限界があります。会社の居心地の良さに安住することは、決してよいことばかりではなく、会社という枠を作ってしまうと、その透明な枠に囚われて、挑戦や冒険を忘れてしまいます。その怖さがわかっているからこそ、山芳製菓は、会社として、どんどん、『外へ出ていくこと』を奨励しているのです」(32ページ)

濱畠さんは、「少人数の会社では、学べる量や質に限界がある」とご指摘しておられますが、それだけでなく、同じ会社の人としか働いていないと、従業員の方たちの視野が狭くなり、独善的になってしまいがちであるところを、外部研修を受講することで、それを防ぐことも期待できると思います。また、「新入社員に異業種交流の場を設けて、映画監督やプロスポーツ選手、芸能人など、多様な分野で活躍している人たちと話をする機会」を設けることで、愛社精神も生まれていると述べておられますが、単に、給料を高くしたり、福利厚生を充実させるだけでなく、このような従業員への投資をしているという会社の姿勢を見せることは、従業員の方のモラールを大きく向上させると思います。

ところが、「それは理解できるけれど、このような従業員教育への支出に対する効果は不明確であり、また、その効果があるとしても、すぐに得られない」と、消極的に評価する経営者の方もいます。確かに、人材育成に関する支出の効率に関しては、直接的な計測をすることはできません。しかし、現在は、商品の差別化を行なおうとすると、人材でしか差別化をすることができなくなってきていますまた、山芳製菓さんの例にもあるように、愛社精神を涵養できれば、離職率が低くなり、採用に関する費用を減らすことができるという効果があります。

そうであれば、人材に関する費用は積極的に行うことが、現在は望ましいと、私は考えています。もう一点、付言させていただくと、中小企業経営者の方の中にも、向学心が旺盛で、たくさんのセミナーなどで学んでいる方は少なくありません。その一方で、会社の中で勉強しているのは社長だけであり、従業員の方との知識量に乖離が生じ、不満を感じている方を見ることがあります。

しかし、従業員の方が勉強に消極的なのかというと、普段、直接的な事業活動に追われていて、社長のように、自分の判断で学ぶ機会を得ることが容易ではないことが原因であるという面もあります。もし、社長自身だけでなく、部下たちも一緒に知識やスキルを高めて欲しいと考えている方であれば、山芳製菓と同じように、部下たちに、外部研修やセミナーなどに参加する機会を与えることが望まれると思います。

2024/2/9 No.2613