[要旨]
山芳製菓では、直接的に大ヒット商品を狙わず、差別化を図ることでヒットすることを狙っているそうです。これは、お客様のニーズが多様化することによって、感覚や気分によって、モノやサービスが消費されるようになってきているからであり、そのため、同社では商品開発に注力をしているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、作家の濱畠太さんのご著書、「『わさビーフ』したたかに笑う。業界3位以下の会社のための商品戦略」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、山芳製菓にも、一般的な社員教育のシステムは存在しますが、若いうちに積極的に海外や研修に行かせて学ばせるようにしており、その理由は、少人数の会社では学べる量や質に限界があり、それを補うことや、外部研修などを受講することによって、愛社精神を養うというものがあるということについて説明しました。
これに続いて、濱畠さんは、山芳製菓は差別化のヒットを求めているということについて述べておられます。「山芳製菓は、大ヒット商品を作りたくないわけではありませんが、大ヒット作りを第1の目的にはしていません。コンソメやしお味のポテトチップスで、大企業の後を追いかけるよりも、『差別化でのヒット』、つまり、独自の味わいでお客様の要望に応えることで、トップに立ちたいと考えているのです。かつて、モノのない時代には、お客様が求めるものはシンプルでした。
しかし、豊かな時代を迎え、巷にはさまざまな商品があふれています。お客様の好みも十人十色です。その十人十色の趣向が、さらに、年齢の推移、季節や時間の変化などによって変わっていきます。夏に食べたいものと、冬に食べたいものは違うでしょう。また、10代によく食べたものが、20代には食べたくなくなってしまうこともあるかもしれません。つまり、世代などの『静的』な属性データによって、お客様を分析することはできない時代になってきたのです。さらに、時間的なものだけでなく、『気分』によって、お客様の嗜好も変わるのです。
落ち着いた気分のときに欲しいものと、行楽地ではしゃぎたい気分のときに欲しいものは、当然、違ってくるでしょう。お客様のニーズが多様化、分散化、個性化することによって、感覚や気分によって、モノやサービスが消費されるようになりました。良い/悪い、あるいは、合理性や機能性で消費を決めるのではなく、好き/嫌い、きれい/かわいいいなどの感情で決めるということです。消費者の心は次々と移り変わっていくものであり、未来永劫変わらない趣向なんてあり得ません。それが人間というものです。だからこそ、商品開発は面白いのです」(66ページ)
濱畠さんのご指摘のポイントは2つだと思います。1つ目は、「差別化でのヒット、つまり、独自の味わいでお客様の要望に応えることで、トップに立つ」こと、2つ目は、「お客様のニーズが多様化、分散化、個性化することによって、感覚や気分によって、モノやサービスが消費されるようになった」ということです。そして、2つ目の「感覚や気分によって消費」する顧客に対しては、1つ目の「差別化でのヒット」を狙うことが最適だと思います。
良いか悪いかは別として、現在は、商品寿命は短くなりつつあり、そのような状況から、大きな会社であっても大ヒット商品を生み出すことは、ますます難しくなっていると言えます。したがって、製造業であっても、製品を製造することよりも、製品開発に注力することの方の重要性が高まってきていると言えます。そのためには、顧客と良好な関係を構築するという、人間的な部分の能力が求められるということであり、前回、説明した、人材教育が大きく影響すると言えます。そして、こういった競争力強化へのアプローチ方は、業種を問わずに必要とされているのではないでしょうか?
2024/2/10 No.2614